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安倍首相と『読売』の「ずぶずぶの関係」(西川伸一)

「読売新聞を熟読してほしい」(5月9日付『読売新聞』)──5月8日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相は憲法9条に3項を加えて自衛隊の根拠規定を明記するとした自らの改憲案の説明を求められて、このように述べた。一国の首相が国会の場で一私企業が発行する新聞の販促を行なう気か。

首相が熟読を勧めた記事とは、5月3日付同紙掲載の、『読売』が「4月26日、首相官邸で約40分間行った」首相への単独インタビューである。前木理一郎・政治部長が聞き手を務めた。

実は首相はその前々日にも前木氏と会っている。4月25日付『読売新聞』「安倍首相の一日」に、24日夕方に都内のホテルで「読売新聞グループ本社の渡辺恒雄主筆、読売新聞東京本社の前木理一郎編集局次長兼政治部長と会食」とある。ナベツネ主筆を交えて事前の打ち合わせをしたのだ。

90歳のナベツネ氏の正確な肩書は「読売新聞グループ本社代表取締役主筆」である。ご本人はこの「主筆」にたいそうご執心だ。「僕は死ぬまで主筆だと言っている。主筆というのは『筆政を掌る』のが役目。(略)社論を決めるということ。読売では、僕が主筆なんだ。僕は社長を辞めても、主筆だけは放さない。読売の社論は僕が最終的に責任を持つ」(渡邉恒雄『天運天職』光文社、17頁)。

社論の私物化にほかなるまい。そのナベツネ主筆と首相の面会はこの1年で6回にも及ぶ。

上述の衆院予算委での「読売読め」発言に先立ち、首相は民進党議員から昭恵氏と森友学園の「ずぶずぶの関係」を質された。首相は「『ずぶずぶの関係』とか、そんな品の悪い言葉を使うのはやめた方がいい」と激怒した(5月9日付『朝日新聞』)。それでも、首相と『読売』とは「ずぶずぶの関係」という以上に品のよい言葉は思いつかない。

さて、ジャーナリストの田原総一朗氏は『週刊読書人』5月12日号掲載の「田原総一朗の取材ノート」で興味深いことを書いている。彼は昨年8月31日に首相と2人きりで90分以上懇談した(2016年9月1日付『読売新聞』「安倍首相の一日」)。その内容のオフレコを解いたのだ。そこで首相は「実は、憲法改正をする必要がなくなったのです」と述べたという。

続けて言うには、「実は集団的自衛権の行使を決めるまでは、アメリカがやいのやいの煩(うるさ)かった。ところが、行使を決めたら、何もいわなくなった。だから改正の必要はない。ただ日本の憲法学者の七割近くが、自衛隊は憲法違反だと主張しているので、憲法九条の三項に自衛隊を認めると書き込んではどうか、と考えています」。

「アメリカが煩い」からとは。田原氏の記事が事実なら、首相の改憲意欲はその程度の浅薄なものということになる。また、9条に3項を新設し「日本国の自衛権の行使とそのための戦力の保持」を謳う改正案は、すでに1999年に小沢一郎・自由党党首(当時)が主張していた(『文藝春秋』99年9月号、98頁)。

首相はなぜいま唐突に、しかも小沢氏が20年近く前に提唱した加憲案を言い出したのか。これは自民党の改正草案とは整合しない。「森友」さらには加計学園問題から世間の関心をそらす煙幕ではないか。首相の保身のために改憲ムードが醸成されつつある。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。5月19日号)

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