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「被害者・遺族に権利性を持たせるべき」全国学校事故・事件を語る会で明らかになった第三者委員会の課題とは? (下)

 「全国学校事故・事件を語る会」は5月20、21の両日、兵庫県神戸市内に集まった。今回のテーマは「被害者・遺族から見た第三者委員会の課題」。基調講演では、第三者委の委員の経験がある弁護士による講演も行われた。

講演「当事者は第三者委員会とどのように関わるべきか」

 基調講演では、2011年10月に起きた、滋賀県大津市立中学校でのいじめ自殺に関する第三者調査委員会で副委員長を勤めた、渡部吉泰弁護士(兵庫県弁護士会)が「当事者は第三者委員会とどのように関わるべきか」と題して話をした。

 「まだ第三者委員会とは何か、コンセンサスは得られていない」

 子どもが自殺をした場合の調査は、文部科学省は2011年6月、「児童生徒の自殺が起きたときの背景調査の在り方について」を通知している。それによると、学校または教育委員会が主体的に行うことが必要で、調査にあたり、遺族の要望・意見を十分に聞き、できる限りの配慮と説明を行う、となっている。

 「大津市のいじめ自殺事件以前は、教育委員会による調査が基本だった。教委主導で調査委員が選任され、教委が提供した資料に基づいて調査をして、結果的に学校や教委の見解にお墨付きを与えるもの。(利害関係がある意味で)『第三者』ではなかった」

第三者委の問題点を指摘する渡部弁護士(提供:渋井哲也)

大津のいじめ自殺の調査が注目されたわけ

 しかし、大津市のいじめ自殺事件が発覚したことを契機に、2013年6月、いじめ防止対策推進法が議員立法で成立した。06年の調査にあたって、文科省がいじめの定義を変更していたが、それにならって、この法律でも、以下のように定義している。

 児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校)に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。

 そして、いじめによって、自殺(未遂を含む)や恐喝、不登校など起きると「重大事態」とされ、学校や教委は調査をすることになっている。しかし、その委員会のあり方はまちまちだ。

 「全国津々浦々、第三者委が設置されて、数多くの報告書が作成された。充実しているものとそうではないものがある。本当に多様なものが出ている。結論としては、被害者・遺族(当事者)には権利性をあたえるべき。また、学校事故・事件特有の二次被害が起きる。これがダメージを与える。当事者への支援が必要」

 大津市のいじめ自殺がなぜ、注目されたのか。それは教育委員会の隠蔽があったためだ。それによって第三者委が作られた。

 「大津の調査では、学校や教委による事実の隠蔽や歪曲があった。ならば、第三者委員会の責務は、隠されたものを調査する責務が必然的にある。第三者委は当事者や地域社会に対する説明責任がある」

 「当事者は(噂を流されるなどの)二次被害にあい、深刻な状態にある。地域から孤立する。当事者にとっては日常がなくなるが、他の人たちには日常がある。そのため意識の格差が出てくる。地域では忘れられていく。一方で、当事者にとっては回復が不可能になっていく。こうしたことを視野に入れて、第三者委では議論をしてほしい」

専門家の間でも根強い“伝統的な被害者観”

 渡部氏は、調査には被害者支援という観点も必要だという。ただ、調査する前提に、「伝統的被害者観」があるのではないかと指摘する。

 多くの航空機事故を取材したノンフィクション作家の柳田邦男氏が作成した「事故調査と事故調査機関のあり方について」の中では、“感情的になりがちで、客観性に欠ける”“専門的な知識、視点がないので、参考にならない”“一方で補償交渉があり、利害関係がからむので意見がへだたる傾向がある”“調査は専門機関が公正な立場で行うのだから、被害者の意見を聞くまでもない”としている点を紹介し、

 「こうした“被害者観”を持っている専門家は日本ではかなりいる。そうじゃないんだ。止むを得ない状態なんだ。被害者観は変えるべき」

 柳田氏の作成資料の中でも「被害者の新しい位置づけの流れ」という項目がある。「被害者は自ら進んでなったのではない」「被害者も当然の人権を持つ存在である」「被害者は心身面でも経済面でも追い込まれている場合が多く、社会的支援、救済を必要とする」「被害者でなければ気づかない問題がある」などとあり、渡部氏は「被害者の意見表明権や参加権が大切」と話した。

第三者委の課題について開かれた集会(提供:渋井哲也)

当事者の納得がいかない報告書には社会的には意味はない

 「やむなくそうなった人たちの立場を考えなければならない。被害者観は変えるべき。航空機事故に関する調査は、学校事故事件の調査よりもかなり進んでいる」

 国土交通省公共事故被害者支援室が作成した「公共交通事業者による被害者等支援計画作成ガイドライン」では、「被害者などへの継続的な情報提供」がなされるように記されている。

「こうした視点は、学校事故・事件の調査では欠落している」

 一方、いじめ防止対策推進法では調査に関する詳細な記述はないものの、文科省は17年3月、「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」を作成した。

 「第三者委にとっては被害者が調査の客体にとどまっているのではないか。当事者への考慮?となっている。しかし、委員選任や調査プロセスについて関与できる部分は散見でき、利用価値はある。動ける当事者はきちんと要求すること。我々弁護士の役割でもあるが、そこで委員の気持ちを動かすことが重要だし、委員が『こちらを向いてくれた』という経験は当事者にとって大切。当事者の納得がいかない報告書には社会的には意味はない」

学校や教委は何もしてくれない

 内海千春・代表世話人は今回の集会を以下のように振り返った。

かつて、学校や行政は何もしれくれなかったので、私たちは第三者委をずっと要望してきた。20年以上前は、被害者・遺族は地域の中で孤立し、生活が成り立たなかった。事件が表に出ず、「なかったこと」にされたこともある。今は、特に大津市いじめ自殺以降は、多くの第三者委が設置されて、混沌としている。

 学校事故事件の被害者や遺族が発信するようになり、報道が教委の対応を批判するようになった。そして第三者委が設置される。そんな時代だ。しかし、沈静化のための委員会、教委の見解にお墨付きを与えるときもある。学校事故が起きた場合、再発防止が言われるが、すべては事実解明から始まる。死亡事案の場合、子どもは生き返らないが、子どもが亡くなったことに意味を見出せるようにするためには、遺族は再発防止を言わざるを得なかった。それが延々と続いてきた。

集会で出された問題点を整理する内海代表世話人(提供:渋井哲也)

 被害者・遺族は本当は何があったのかを知りたい。事実が解明されれば、あったことを受け入れることはできないとしても、どう向き合えばいいのかがわかるし、亡くなったことに納得することもあり得る。しかし、被害の程度によって知れる情報が制限されるのはどうなのか。怪我の場合は誰が加害者なのかがわかり、謝罪を求めることができる。一方、亡くなった場合は、加害者の情報が知らされない。被害者救済は緊急対応の原則ではないのか。それを前面に出さなければならない。

 ガイドラインを読むと、文科省は当事者のメッセージを理解しようとしている。被害者・遺族は、なぜ?どうして?を問い続けている。合意がないまま、事実認定があっても、そこからの話がまったくない。専門家は現場に降りて来てほしい。まずは被害者・遺族の救済が第一でなければならない。

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