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なぜ人は簡単に投資詐欺にあうのか - 野口俊晴 (ファイナンシャル・プランナー)

■投資詐欺という錯覚と幻想

現代は、不安の時代、理性と感性が廃れつつある時代、人の欲求が肥大化し、理性と感性と欲求のバランスが崩れていく時代である。小さな送金ボタンをクリックすれば、簡単に、そして即座に欲しいものが手に入る。そうした心理の中で、人々は詐欺の罠にはまっていく。
巧みに語りかけ、自信ありげに、時に情に訴えてきてお金を振り込ませる。やがて跡形もない夢となる。残るは失意と、相手に送金した何千万円もの振込の紙。投資詐欺ともなれば、あるのは夢の残骸である。見ていたのは「もっとおカネが増える」という錯覚と幻想にすぎない。

■後を絶たない投資詐欺

投資詐欺が後を絶たない。金融庁には、ここ2年間(2015年と16年)で合計5,431件の投資詐欺の相談が寄せられた。そのうち実害があったのは2,279件、その半数が現役世代、残り半数が70代以上の高齢者である。最近でも、タイに滞在中の日本人女性が出資法違反容疑で現地警察に身柄拘束、逮捕された。「出資すれば元本を保証して25%の利息を払う」などと持ちかけ、日本人男性らから数億円をだまし取った容疑である(現在日本に送還され、捜査中)。

詐欺事件では、なぜ高額な金銭がいとも簡単に騙し取られるのか。金融庁のデータによると、投資詐欺の近年の手口として、未公開株、外国通貨、権利(発電や知的財産権など)にかかわるもの、劇場型手口を伴うもの、プロ向けファンドの販売など複雑かつ多岐にわたっている。

■詐欺にあっている人の心理状態

実際に詐欺にあっている時、人はどういう心理状態にあるのか。さしずめ、「現実が見えていない」「冷静さを失っている」「(お金が増えるという)夢見心地」といったところだろうか。こういう状態にいる時、人はなかなか覚醒できない。「詐欺」として表沙汰になった時、はじめて現実に引き戻される。ただの夢なら、眠る前と醒めた後は同じ床の上だが、詐欺にあって醒めた現実は、手金庫にあったお金がすべて無くなっていることだ。

特に、狙われた高齢者は退職金丸ごと失うことになる。こういう事態を避けるために、金融庁でもいくつか手口の見破り方を挙げてはいる。例えば、「聞いたことのない業者」からの勧誘とか、「上場確実」「必ず儲かる」「元本は保証」などの請け合い言葉には注意しなさいと・・・。

もちろん、最初から見破ることができれば問題ない。しかし、詐欺にあう心理状態は正気でいられるものではない。まず考えたいのは、不審な勧誘に対して一人で対応しないことである。「劇場型」詐欺のような場合、相手は会社の担当窓口、コンサルタント、弁護士など何役も演じて立ち回って来る。これでは平静に太刀打ちできず、パニック状態になって相手の思うツボとなる。普通に考えれば、数分数秒を争って振り込まなければならない切迫した事態などないはずだ。決して慌てず、一人で即決しないことである。

■騙される側の心理的要因

投資詐欺の手口もさることながら、騙される側の心理的要因とはどういうものか。

(1)不安がつねにある
不安は心を曇らせる。心が曇ると、目も曇る。目が曇ると聴く耳も鈍り、欲求が頭をもたげる。不安の心があると、人はつい騙される。「老後のカネが足りない」「あと月々10万円入れば安心なのだが」。これなどは、まだつましい欲求である。月々10万円の不足をどうするか。定年前から貯蓄し、運用する。これは地道であるが、効果はある。効果はあるが、時間がかかる。そこで人は、近道を行きたがる。

ここで、「ちょっと待て」と踏みとどまれるか。投資の成果は時間を効用として積み上げていくものだ。しかし、不安によって感性が揺らぎ、お金を「すぐにでも簡単に」増やしたいという欲求がうずき出すと、妄想というべき夢が肥大していく。そこに魔の声が囁く。「簡単に儲かりますよ」。こうしていともたやすく詐欺にはまる。

(2)少しの欲求が命取りになる
投資詐欺では、相手(詐欺をする側)のキャラクターやその場の雰囲気によって感性(情)が誘導され、理性を失いがちになり、それによってお金への欲求が膨らんでくる。高額配当や高利子を約束する詐欺では、最初の数回は約束通りのお金が振り込まれる。これで普通は信じてしまう。じつはここまでの数週間、数ヵ月の間が理性を取り戻す絶好のチャンスなのに、最初の欲求から生まれる幻想を現実と錯覚して、罠に囚われる。

(3)感性が惑わされる
なぜ理性を取り戻せなくなるのか。それは、人が騙されるのは単純に感性(情)の部分だからである。感性の部分で騙されるから生半可な理性の力では対処できない。感性の力は、しばしば理性よりも敏感に速く反応し、しかもその力は強大だ。理性はあとから、ゆっくりゆっくり検証する。そして、ずいぶんたって気づくのだ。「騙された」と。

不安から逃れたい欲求。そこに付け入られる感性。高級な身なりをした一流アドバイザー(と見える人)、あるいは官能的な美人コンサルタント(と思しき人)が近づいてきて、「私に任せれば、ほかの人が手の届かない高額な仲介もできますよ」とばかりに言って来たら、ここに理性の出る幕はない。

(4)基本知識を持ち合わせていない
理性がないと、誘惑されやすい「感性」を抑えておくことができない。不安や焦りは感性の部分からくるので、それが肥大しないように隣にいつも理性を添わせておくことが大切だ。

それでは、理性はどう保っておくか。理性といっても高等哲学的な理性を言っているのではない。基本的な知識で足りる。例えば高利子の投資話ならどうか。「利子25%」がどういうことか普通に考えてみるだけでいい。1,000万円出資して250 万円の利子、月額にして20 万数千円。預金利率に比べれば大した数字である。「いや、投資信託では年間騰落率が30%、40%は当たり前ですよ」と言われれば簡単に納得し、利子率と騰落率の区別もつかず、同じ利子がずっと継続するものと信じてしまうわけである。

■投資詐欺にあわないために

理性と感性と欲求。詐欺にあう人は、この3つのバランスが崩れているのかもしれない。時に欲求に負け、感性が狂わされ、理性が働かなくなる。理性と感性の調和が崩れると、人は欲求に傾いていく。崇高な意志と精神を保てというのではない。理性も感性も日ごろから少しずつ磨いていないと廃れていくだけだということである。理性は、基本的な知識を吸収し、思索することで磨かれる。感性は、良き芸術や自然に親しみ、心を静めることで澄んでくる(もっとも、デジタル時代の現代人はこういうことがいちばん難しいのかもしれない)。このようにして、見せかけの話にも欲求はなびかなくなる

■良きパートナーをそばに置く

詐欺で騙される人を欲深で愚かと言えるだろうか。明日、我が身にも起こりうることだ。だから高齢者に限らず、日ごろから孤立せず、客観的にアドバイスしてくれるパートナーといつでも相談できる関係を持っておきたい。ちょっと口頭で相談するだけでも、ハッと我に返る、つまり小さき理性が目覚めるものである。これで、人生の不安はかなり取り除かれるものだと思いたい。

【参考記事】
■夫の遺族補償問題が妻の問題にすり替わった判決 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/51151562-20170428.html
■パート社員でも退職金の準備ができる理由と方法 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/50936755-20170328.html
■リストラされた大企業の社員が、ハローワークに行くと給料が半減する理由(野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/50732072-20170227.html
■どれだけ稼げても、長時間残業は割に合わない (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49837469-20161026.html
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
https://www.tfics.jp/ブログ-new-street/

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表

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