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「20年前」と変わらない偽善ジャーナリズム

本日、永田町に行ってきた。参議院議員会館の地下会議室でおこなわれた「犯罪被害者の声を国会に届ける院内集会」に出るためである。

議員会館の外の道路には、「共謀罪反対」のグループが旗を林立させ、マイクでがなっていた。「日教組」や「千葉動労」、あるいは、「新社会党」といった旗や幟(のぼり)が目に飛び込んでくる。“いつもの”人々の反対闘争であることがわかる。若者はほとんどいない。反対運動が、団塊の世代が中心であることが窺えた。

そんな中をかき分けて、やっと参議院議員会館に辿りついた。明日24日は、神戸酒鬼薔薇事件で土師淳くん(11)=当時=が殺害されて「20年」になる。今日の集会は、加害者ばかりが“優遇”され、被害者は捨ておかれた日本のあり方に疑問を投げかけ、2004年に「犯罪被害者等基本法」を成立させた「あすの会」などが中心になって企画されたものである。

会場に入っていくと旧知の土師守さん(61)と目が合った。淳君のお父さんである。淳君が殺されて20年。あの事件以来、ずっとお付き合いしていただいた関係だ。土師さんも、この20年で、すっかり髪の毛が白くなってしまった。

「あすの会」の岡村勲弁護士(88)もいて、ご挨拶させてもらった。いずれも、私が週刊新潮のデスク時代に大変お世話になった人々だ。会は、土師さんの講演から始まった。

「私は、自分自身が犯罪被害者の家族となるまで、これほど犯罪被害者に何の権利もなく、捨ておかれているのかを知りませんでした。公的にも私的にも、権利がなく、ただ、私たちは、犯罪の“証拠”として扱われるだけでした」

そう土師さんが語り始めると、国会議員や記者たちが、一斉にメモを取り始めた。土師さんは、淳君だけでなく、2つ年上の兄も、事件後、厳しい状況におかれたことを淡々と語った。

「淳が殺されて大変な衝撃を受けた兄は、同時に加害者とも顔見知りで、同じ中学校に通っていました。あの事件のために学校に通えなくなり、成績も落ち、出席日数も足りなくなりました。家庭教師を雇って、なんとか勉強はさせましたが、公立ではなく、家から遠い私立の高校に入らざるをえませんでした。高校の3年間、息子を私が自動車で学校に送っていきました。立ち直らせるには、親の力だけではとても無理でした」

シーンと鎮まりかえった中で、土師さんは、当時の苦しみを語った。加害者だけが手厚く遇され、被害者には何もなく、「真の正義」というものが見失われていた日本の異常な実態をそう訴えたのである。

前述のように2004年に犯罪被害者等基本法ができ、やっと犯罪被害者に目を向けられるようになるが、まだまだ不十分であることを土師さんは具体例を挙げて話した。やがて、土師さんの話は、あの酒鬼薔薇聖斗が出した『絶歌』へと移っていった。

一昨年(2015年)6月に突如、出版されたこの本で、いかに残された家族が苦しんだかを土師さんは語ったのである。

「事件で家族を苦しめ、さらに、自分の犯した犯罪を題材に、本まで書いて収入を得る。私は、今でもあの本を読んでいませんが、2度も被害者家族を苦しめることは、本来、あり得ないことです」

「自由の逸脱は許されないのです。表現の自由も同じです。性描写やリベンジポルノなど、自由を逸脱することは、許されないのです。しかし、日本では、まだ自分の犯した犯罪を題材に、本まで書いて収入を得るということが許されているのです」

土師さんは、犯罪被害者問題のさらなる改善を訴えて、講演を終えた。私は、土師さんの話を聴きながら、ずっとあることを考えていた。

この20年で「世の中は変わったのか」ということである。事件当時、日本は「うわべだけの正義」が蔓延していた。少年事件が起これば、「ああ、かわいそう……」という声が向けられるのは、被害者ではなく、加害者の側だったのだ。

育った環境に同情し、心がどれだけ追い詰められて犯行に至ったのか……等々、マスコミはそんなことばかり報じていた。

特に、朝日新聞がこの事件を扱った連載『暗い森』は、その「うわべだけの正義」と「偽善」に満ちたものだった。土師さんは、そういったマスコミのあり方にも苦しんだ。私と知り合ったのは、そんなときだった。

手記『淳』を新潮社から出してもらい、少年法改正に反対する朝日新聞を中心とする偽善メディアと、新潮誌上で、どれだけ闘ったかしれない。

彼らは、甘すぎる少年法の罰則強化を「厳罰化」と呼んで反対した。彼らにかかれば、「適正化」は「厳罰化」になるのである。

犯罪少年の有利になることが「人権」であると、彼らは勘違いしていた。きちんとした罰則も受けず、ろくに反省の機会も与えられないまま、あっという間に少年院から帰ってきた少年たちは、逆に「箔(はく)が付いた」と、以前よりも不良ぶりを発揮する事例は枚挙に暇がなかった。彼らが、平穏に暮らす少年少女たちの「命」に対する、さらに大きな脅威となっていたのである。

そして「人権」の意味を取り違えた、これら偽善ジャーナリズムは、つい最近まで土師さんの壁になりつづけたのである。

私は思う。今も彼ら偽善ジャーナリズムは「変わらない」と。観念論や抽象論ばかりで具体性は全くないまま、人々の不安を煽り、実は、国民の「命」に対する大きな脅威となっていることに、である。

会合を終え、外に出たら、“市民”を称する人々の「共謀罪反対」のシュプレヒコールはますます大きくなっていた。ああ、20年前と何も変わらないなあ、と私は溜息をついた。

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