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中国に〝主役〟を演じさせる愚、核危機解決は米朝直接対話で - 樫山幸夫 (産經新聞前論説委員長)

一時、動静が途絶えていた米空母の動きが再び慌ただしくなってきた。すでに日本海を警戒中の空母「カール・ビンソン」に加え、「ロナルド・レーガン」が横須賀基地を出港した。2隻体制で北朝鮮への圧力を強める。空母増派は、北朝鮮が今月14日に弾道ミサイル発射実験を強行したことを受けた決定。これら空母が活躍する場面が出来するのか、それとも別な展開を見せるのか。

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 国の重要な記念日、節目に挑発行為に出るのが北朝鮮の常とう手段だ。先月来、故金日成主席の生誕105年、軍創建記念日など、各国が警戒を強めていた時期は大きな示威行動を控えた。金正恩がおじけづいたのか、韓国大統領選への配慮かなど真意が取りざたされていたさなかの14日、「新型の弾道ミサイル」を発射する暴挙に出た。

 空母増派で、再び米軍による武力攻撃の可能性が高まったとみる向きもあるが、本当にそうなるかどうか、予測は難しい。

 いくつかの展開が考えられる。

 空母2隻体制の緊張状態がしばらく続くとして、その後、あらたな挑発がなく、自然に緊張状態が軽減、解消されていくーこれが、現時点でベストだろう。

 もちろん、満を持した米軍が攻撃にでる可能性も十分あるだろう。

 もうひとつは、関係国による話し合い、交渉の開始だ。平和的な解決は各国が望むところであり、最有力、もっとも現実的といえよう。すでに多くの専門家らがこの可能性に言及している。

 危機の後に、交渉が始まるというパターンは、北朝鮮の核開発に関して、これまでも繰り返されてきた。

 1994年、北朝鮮が実験用原子炉から燃料棒取り出しを強行した第1次危機の際、米国のクリントン政権は、自国と北朝鮮との高官による2国間直接協議に乗り出し、曲折のすえ「枠組み合意」にこぎつけた。北朝鮮が核施設の査察に応じる代わりに米国のほか日本、韓国などが重油、発電のための軽水炉を供与することが内容だった。

 2002年、北朝鮮が枠組み合意を破棄して、核開発を再開した後に始まったのが「6カ国協議」だ。当時のブッシュ大統領(子)が、2国間ではなく、各国そろって北朝鮮に圧力をかけて約束を実行させるとして、日本、韓国、中国、ロシアを加えた交渉の場を設け、中国が議長国を任された。しかし、6カ国協議では、いったん北朝鮮が核開発断念を表明したものの、その後は合意を実行せず、2007年を最後に休眠状態に陥ったままになっている。

 今回、交渉が始まるとしても、どういう状況、どのタイミングで始まるのか、対話の形式はどうなるのか、輪郭は見えてこない。これらは交渉の基盤であり、決まらなければ、実現しない。
交渉が始まるには、どちらかが条件を提示しなければならないが、米国がさきに示すとは考えにくい。北朝鮮が交渉に向けた何らかのサインを出してきたときに交渉がスタートすることになろう。

 交渉開始につながりうる動きはすでにでてきている。今月8、9両日、ノルウェーで北朝鮮外務省の対米関係、核問題担当責任者、崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長と米国のピカリング元国連大使が非公式に接触したと報じられた。水面下で頻繁に接触が図られているという情報もある。

 しかし、仮に交渉が6カ国協議再開という型式で始まるならば、再び頓挫すると強く危惧せざるを得ない。なぜか。議長が中国だからだ。朝鮮戦争を共に戦った中国と北朝鮮との関係をいまさら論じる必要はあるまい。北朝鮮への制裁に対する中国の不誠実な対応をみても、その関係が〝血の同盟〟といわれることがよく理解できる。

北朝鮮の兄貴分=中国が交渉の議長をするおかしさ

 もっとも、近年の北朝鮮の暴走ぶりに不快感を抱いてきた中国は、今回の弾道ミサイル発射にいよいよ態度を硬化させていると伝えられるが、どこまで真剣、具体的な策をとるのか。石油の輸出を全面的に止めるとでもいうならわかるが、まだ、そうした話は聞いたことがない。

 もちろん、中国が議長国として、6カ国協議を故意に遅延させたり、北朝鮮寄りの議事進行を図ったりしたという具体的な証拠はないが、経済制裁を無視したり、影響力行使を渋ったりしてきたことを考えれば公平な議事など求めるのが無理というものだ。

 そもそも、北朝鮮の〝兄貴分〟その核開発を断念させる交渉の議長国をつとめること自体、ちゃんちゃらおかしいというべきだろう。

 6カ国協議の起源が2002年の北朝鮮の核開発再開にあることはすでに触れた。米国は2国間対話で解決したい意向を持っていたが、当時、イラク攻撃を間近に控え(翌年3月に攻撃開始)、自ら解決する余力はなかった。〝数〟をたのんで、北朝鮮に圧力をかける目論見にくわえ、議長が中国なら北朝鮮も言うことを聞くという計算もあった。

 しかし、米国の思惑に反して、北朝鮮は核開発を継続、核、ミサイル実験を強行し、逆に米国はテロ支援国家指定解除など大きな譲歩も与える結果になってしまったのは皮肉なことだった。米国自身からは反省の声は伝わってこないが、6カ国協議こそ、「米外交の戦後最大の敗北」ともいっていい失策だ。

 中国は、今回の危機にあたっても、自ら主導権を発揮したいとの思惑から6カ国協議の復活をめざしているとしたら、無駄であり、むしろ百害あって一利なしというべきだろう。

6カ国協議に代わるアイデアは何か

 枠組み合意のひそみにならった米朝2国間の直接交渉こそふさわしい形式だろう。北朝鮮は、米国との直接対話を望んでいるから、応じてくるのは確実だ。

 以下は筆者の私見である。

 直接対話でまず、核問題だけをテーマに絞る。核を生き残りの手段と信じている北朝鮮が核開発を断念することはありえない。米国は、とりあえず、これ以上の核実験や核兵器の製造を停止、凍結するよう求める。

 それなりの見返りは必要だろうが、核を搭載したICBM(大陸間弾道弾)が米本土に飛来する悪夢が現実になることに比べれば、払う価値のある代償だ。

 いずれかの条件で折り合いがつけば、そこで初めて、日本、韓国、中国、ロシアが参加する。いわば「拡大協議」だ。現行の6カ国協議の方式を援用して、各国共同の見返り供与を話し合う「経済協力部会」、国交正常化の順序、段取りを話し合う「国交正常化部会」、拉致被害者の帰還を強く求める「拉致部会」などを設けて、ここで「多国間による圧力」をかける。北朝鮮が求める「体制の保証」を、各国連名で与えてやると北朝鮮は安心するだろう。

 高官による協議を行うにしても、とりあえずはニューヨークにある北朝鮮代表部と国務省朝鮮部のホットライン、ニューヨーク・チャンネルを活用することが効果的だ。このチャンネルは94年の枠組み合意の際によく機能した。

 気になるのは、韓国の文在寅新政権の登場だ。新大統領が、公約として掲げてきた南北首脳会談は今回の新型ミサイル実験で遠のいたといわれるが、今後もそれに固執し、重要な役を演じようとすれば、状況は混乱する。そうした事態も防がなければならない。韓国新政権も自覚すべきだ。

 北朝鮮の核問題はやはり、唯一の超大国、米国が、今回の空母派遣のような〝こわもて〟、時には見返りというアメを与えてこそ、はじめて実現しうる。

 6カ国協議が始まった2003年、筆者はワシントン支局で、当初から取材した。当時のブッシュ政権は、枠組み合意破棄について、前任のクリントン政権を批判した。

 しかし、6カ国協議は、最初こそ順調に見えたが、それが失敗であったことはすでに指摘したとおりだ。米朝直接対話による枠組み合意は少なくとも1994年から8年間、とにもかくにも北朝鮮の核開発を凍結させることはできた。

 このことに思いを致すべきだろう。

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