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産業革新機構による東芝メモリの買収は合法か? 半導体ビジネスと相性が悪い官民ファンド - 湯之上隆 (微細加工研究所所長)

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 米ウエスタンデジタルは5月15日、東芝によるNAND事業の分社化も売却も合弁契約に違反しているとして、分社化の撤回と売却の差し止めを命じるよう、国際商業会議所(ICC、本部パリ)の国際仲裁裁判所に仲裁を求めた(ロイター)。東芝の綱川社長は記者会見で、「契約には違反していない。5月19日の2次入札の締め切りに変更はない」と発表した。

 予定通り2次入札が行われるかどうか定かではないが、1次入札を通過した4陣営が2次入札に臨むと仮定した上で、産業革新機構が東芝メモリを買収するべきではないことを論じる。

2次入札に臨む4陣営

 3月29日に行われた東芝メモリの1次入札では、その動向が注目されていた産業革新機構と日本政策投資銀行は、応札しなかった。しかし、5月中旬に行われる2次入札では、東芝メモリとNANDを共同で開発し製造している米ウエスタンデジタル(WD)、米ファンドKKR、経済産業省が参集している日本企業連合等とともに、革新機構や政策銀も応札すると報道されている。その他に、韓国SK Hynixの陣営、台湾ホンハイの陣営、米ブロードコムの陣営が応札する模様である(表1)。


 革新機構の東芝メモリへの出資は、果たして合法なのか? 本稿では、まず、革新機構の出資は明らかに違法であることを示す。次に、メモリビジネスの本質を考えた場合、革新機構や政策銀が出資すると、東芝メモリの息の根が止る可能性が高いことを警告する。

革新機構の出資は法律違反

 革新機構の正式名称は、「株式会社産業革新機構」であり、2009年7月に産業競争力強化法という法律に沿って設立された官民出資の投資ファンドである。ただし、官民とは言ってもその95%は税金から拠出されており、“官ファンド”の色合いが濃い。

 その革新機構は、前記法律の第1章第2条第3項で、「新商品の開発又は生産、新たな役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動であって、産業競争力の強化に資するものとして主務省令で定めるもの」にのみ投資することができると定められている。

 その革新機構が東芝メモリの買収に投資することは、合法であろうか?

 もし、その投資資金が東芝メモリに注入されて、最先端メモリの研究開発や設備投資に使われるとしたら、合法と言えるかもしれない。

 しかし、今回の東芝メモリの買収においては、革新機構が投じた資金は、東芝メモリには一切使われず、東芝本体の債務超過の回避に使われる。要するに、赤字の補填に使われるわけだ。これは、はっきり言って法律違反である。

革新機構の志賀会長は出資を完全否定

 東芝メモリ買収における革新機構の関与について、革新機構の志賀俊之会長は、東洋経済ONLINEのインタビューに対して、次のように答えている(3月13日)。

――半導体業界では東芝のメモリ事業売却が大きな話題です。「機構の出番だ」という声もありますが。
 「そんな声はツイッターぐらいでしか聞いていない。頼まれてもいないし検討もしていない。何もしていない。シャープの時と全然違ってうそはつかない(湯之上注:シャープのときはウソをついていたんだな!)」

「産業革新機構は産業競争力強化法という法律に基づき設置されており、成長事業にしか投資できない」

 「今東芝の件を頼まれていない最大の理由は、そのニーズがないからだと思う。フラッシュメモリを買収するだけでは意味がない。成長戦略が描けず我々としても身動きができない。資金繰りに困っている会社の資産を、税金を使ってうちが持つのはおかしい」

――成長シナリオが描けたら投資もありうるのでしょうか。
「どこかのフラッシュメモリ会社から「東芝と一緒になってシナジーを作りたいが資金が足りないから一緒に投資してくれ。将来的にはIPOも考えている」というシナリオを頼まれれば検討できるかもしれないが、機構1社で持つのはイグジットを考えると難しい」

――資金の出し手として都合よく使われる不安は。
「少なくとも私が会長兼CEOをやっている限りは、そんな都合のいいお財布にはならない」

 この記事を読んだ時、筆者は、「よくぞ言った。革新機構は企業救済機構ではない。ルネサスやジャパンディスプレイの救済のために違法に出資したり、日本電産がルネサスを買収しようとしたときに汚い手を使って妨害したことは忘れてやろうじゃないか」と思ったものだ。

 ところが、志賀会長がこれほど明確に否定していたにも関わらず、革新機構が東芝メモリの買収先に浮上してきた。志賀会長に問いたい。「あなたの言ったことは、またもやウソなのですか?」

世耕経産相も革新機構の志賀会長も菅官房長官も大嘘つきだ

 1月20日に、米ウエスチングハウス(WH)の損失額が最大7000億円となる可能性が大きくなり、17年3月期に東芝が債務超過に陥ることは避けられない事態になったが、世耕弘成経産相は、閣議後の会見で「経産省として支援策など対応を検討していない」と述べた(ロイター)。

 3月8日に、世耕経産相は衆院経済産業委員会で、民進党の近藤洋介衆院議員に、東芝に対する革新機構の関与を問われ、「一般論だが革新機構は『企業救済機構』ではない」と述べて否定的な考えを示した(日経新聞)。

 前節で紹介した通り、3月13日に、革新機構の志賀会長が東洋経済のインタビューで、「産業革新機構は産業競争力強化法という法律に基づき設置されており、成長事業にしか投資できない」、「少なくとも私が会長兼CEOをやっている限りは、そんな都合のいいお財布にはならない」と東芝メモリの買収を完全否定した(東洋経済)。

 3月14日に、菅義偉官房長官は、東芝の経営再建について「支援策を政府として検討している事実はない」と語った(日経新聞)。

 ところが、3月17日に世耕経産相が渡米して米商務省長官及びエネルギー省長官と会談した直後から、革新機構及び政策銀が東芝メモリの買収に急浮上してきた

 世耕経産相も、革新機構の志賀会長も、菅官房長官も、大嘘つきである。

中央大学教授の竹内氏の意見

 東芝メモリを政策銀や各機構に買収して欲しいという意見を言う人が他にもいる。東芝出身で、中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授の竹内健氏は、3月18日の『東芝のフラッシュメモリ事業をアメリカ企業に買ってもらい 「日米連合」という幻想』というタイトルの記事の中で、以下のように述べている。

 「(東芝のNANDは)これだけの高収益事業、しかも日本が生み出した製品ですので、むざむざと外資系にくれてやるのはもったいない。こういう時こそ、政府系の金融機関、政策投資銀行や産業革新機構の出番ではないか、と主張し続けてきました」。

 筆者は、竹内氏に一目置いてきたのだが、正直言ってこの発言にはガッカリした。

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