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トルコの新しい悲劇 - 岡崎研究所

 4月16日にトルコの国民投票で憲法改正が承認されたことを受けて、フィナンシャル・タイムズ紙は、エルドアン大統領が欲するままに独裁的権力を行使出来るようになったことはトルコの悲劇だとした上で、EUはトルコとの関係を作り直す必要がある、とする社説を4月18日付で掲載しています。社説の要旨は次の通りです。

 憲法改正を巡る激しい争いにエルドアン大統領は辛くも勝ったが、これはトルコの歴史の転換点である。新たな憲法は大統領を現代のスルタンに変える。大統領は殆ど無制約の行政権を握り、政治の仕組みを完全に牛耳る機会を得ることになる。

 もっとも、エルドアンは51%の支持を得ただけである。AKP(公正発展党)の地盤であるアンカラとイスタンブールでも反対が賛成を上回った。クルド人の地盤である南東部でも反対が上回った。メディアは抑圧され、反対派は放送時間を殆ど与えられず、非常事態の下での明らかに不公正な選挙戦だった。

 この勝利によってエルドアンがもっと融和的で実際的な方向、即ち、反体制派の追放を止め、クルド人反乱分子との対話を再開し、あるいは経済改革に取り掛かることに転換する望みはまずない。エルドアンは、敵意を煽りナショナリズムに訴える戦術が巧く行ったと結論付けよう。新しい権力を完全に掌握するには遅くとも2019年に予定される次の選挙に勝たねばならないので、エルドアンは融和ではなく戦いが有利と読むであろう。

 欧州はジレンマに当面する。憲法改正は、EU加盟の条件に整合的とはとてもいえない。トルコのEU加盟の試みは薄っぺらな虚構であったが、今や茶番である。エルドアンは死刑制度を復活させることでEU加盟プロセスを殺し、茶番を終わらせ得る。もし、エルドアンがそれをしないなら、欧州の首脳達は近くイニシアティブを取ることを余儀なくされよう。しかし、彼等は貿易、安全保障、移民に関するトルコとの枢要な関係を作り直す方途を見出さなければならない。更には、圧力に抗して反対票を投じ、権利を守り民主主義の原則を堅持するために欧州に頼るほぼ半数のトルコ国民を見捨てることがあってはならない。

 EU・トルコ関税同盟を拡大することによって緊密な経済関係を追求することは可能かも知れない。トルコの司法制度がエルドアンに従属する状況となるのでEUが人権侵害についてトルコの責任を問い続けることも重要である。しかし、これはトルコがかつて夢見た欧州内部での完全で平等なパートナーシップに代わり得るものではない。トルコの西側への途は常に困難であったが、夢は何十年もの間、挫折に耐えて来た。しかし、夢は遂に消え失せた。

 これはトルコにとっての悲劇であり、ムスリム諸国の民主主義に対する打撃である。「国民投票による独裁制」への世界的な進行の更なる一歩である。

出典:‘A bitter victory for Turkey’s new sultan’(Financial Times, April 18, 2017)
https://www.ft.com/content/afbb75cc-235f-11e7-a34a-538b4cb30025

 憲法改正によって、トルコの議院内閣制は大統領制に置き換えられます。首相の職は無くなり、権限は大統領に集中します。大統領は法律の効果を持つ制令を行う権限、議会の解散権、閣僚の任命権を持つことになります。議会の行政の監督権限は弱くなります。大統領によって差し戻された法律を再可決するハードルは高くなります。大統領に対する弾劾手続きは複雑になります。

 かくして議会のチェック・アンド・バランスの権能は損なわれることになります。従って、大統領はスルタンであり、議会はスルタンにお追従を並べる取り巻きとなるのです。司法権はといえば、裁判官・検察官最高評議会および憲法裁判所の人事は従来通り大統領と議会が握りますが、大統領のグリップが強まります。エルドアンと与党AKP(議会の議席550のうち317を握る)の存在を前提とすれば、司法権は大統領の影響下に置かれることになります。かくして司法権の独立性に大きな疑問符が付きます。

少なくとも2029年まで大統領であり続ける

 昨年7月のクーデター未遂事件以来、エルドアンは権威主義的統治を手荒に進めていますが、憲法改正は彼の権威主義的支配を固めることになります。もちろん、憲法改正はエルドアンとAKPが勝ち続けることを前提にしなければ意味をなしませんが、この前提は(国民投票では51.4%の支持しか得られなかったものの)目下のところ崩れそうにありません。エルドアンといえども、選挙に勝つ必要がありますが、彼は少なくとも2029年まで大統領であり続けることが可能になります。欧米メディアの憲法改正非難の合唱は、憲法改正そのものもさることながら、エルドアンという人間の強権政治に対する嫌悪感によるものでしょう。

 そういうトルコとの関係をどうするかは、欧州にとって悩ましい問題に違いありません。この社説は、欧州はトルコとの関係を作り直す方途を見出さねばならないと言いますが、明快に整理することは出来ないでしょう。トルコはNATO加盟国です。シリア問題の重要なプレーヤーでもあります。EUにとっては難民流入の防波堤になって貰っているという事情もあります。トルコのEU加盟の希望の火が消えたことは確かです。トルコが加盟を真剣に望んだ時期もありました が、加盟交渉プロセスは大体において虚構であり、実現に近づいたことは一度もありません。

 希望の火が消えたことをEUが宣言するようには思えません。エルドアンは死刑の復活(EU加盟を目指すために2004年に廃止)、あるいはEU加盟の是非を問う国民投票を示唆しているので、トルコがイニシアティブを取る可能性はあるでしょう。かねて検討の俎上にあるEU・トルコ関税同盟の拡大(製品のみならず、サービス、農産品、政府調達を対象とする)を今後のトルコとの関係の1つの拠り所とするというアイディアがあるようであるが、現下の状況でこういう構想が進展するようにも思えません。

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