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9条改憲のために「朝鮮半島危機」を利用することは許されない

 「ギアを一気に高速に切り替えた印象です。野党が反対しようが、世論が反発しようが、衆参で改憲勢力が3分の2を保持しているうちに突っ込むことにしたのでしょう。ただ、国の根幹である憲法を変えるというのは重要な問題ですから、憲法改正の発議は野党第1党の民進党も巻き込んで行うことが自民党の基本路線だったはずです。安倍首相の進め方は、丁寧にやっていたのでは2020年に間に合わないから、野党なんて無視して、数の力で押し切ってしまえと言っているに等しい。おごり高ぶりの極みで、暴君そのものです」(政治学者の五十嵐仁氏)

 「戦後政治がこれまで積み上げてきた民主主義の手続きを平然と踏みにじり、独裁者気取りで、何でもかんでも数の力で押し切ってしまう。仮にも民主主義を標榜する国家で、ここまで首相の暴走がひどくなるものかと戦慄します。その強権手法を徹底批判するでもなく、まるで迎合するかのようなメディアはどうかしている。民主主義の基本理念も理解していない狂乱首相に高支持率を与え、甘やかしてきた国民の責任とも言えますが、権力の暴走は、自分たちがナメられているのだということを有権者は自覚しなければなりません」(五十嵐仁氏=前出)

 これは、「3日の憲法記念日に開かれた右派組織「日本会議」系の改憲派集会にビデオメッセージを寄せた安倍は、そこで9条改正に言及し、2020年に新憲法の施行を目指すと表明した」ことについての私のコメントです。昨日の夕刊紙『日刊ゲンダイ』に掲載されました。

 いよいよ、憲法9条をめぐって安倍首相との「ガチンコ勝負」が始まったということです。このような形で安倍首相が挑戦状をたたきつけたのは、いつまでたっても事態が動かないことへのいら立ちがあったからだと思われます。
 それは焦りの表れそだと言って良いでしょう。同時に、「今ならやれる」という見通しを持ったためでもあるでしょう。
 そう考えた理由の一つは国会と自民党内での「一強」体制です。国会内では衆参両院で改憲発議可能な3分の2の勢力を維持していますし、自民党内でも多少の抵抗はあっても結局は乗り切れると考えたからでしょう。

 もう一つの理由は、国民の反応です。色々な不祥事や森友学園問題などでの野党による追及があっても、内閣支持率は比較的安定しているからです。
 その背景には、「朝鮮半島危機」があります。北朝鮮による核開発とミサイル発射が続き、国民が不安を高めている状況を意図的に利用し、危機を煽り立てているのが安倍政権です。
 14日にも新型とみられるミサイルの発射実験が行われました。高度は2000キロを超えて約30分にわたって約800キロ飛行し、日本海に落下しています。

 これについて、首相官邸幹部は「日本に向けて普通に打てば8分程度で届いていた」と述べています。今回は角度を通常より高く打ち上げる「ロフテッド軌道」で飛距離を抑えたと見られていますが、このような軌道は落下速度が速く迎撃が難しいとされています。
 わずか8分で着弾し、高高度から落下して迎撃が困難なミサイルの技術開発が進んでいるというわけです。これによってミサイル防衛体制の見直しなどの議論が加速するという見方がありますが、そもそもミサイルによる迎撃などは不可能で日本に向けて発射されれば防ぐ手立てがないということを、なぜきちんと国民に伝えないのでしょうか。
 トランプ米大統領は「あらゆる選択肢」と言い、安倍首相はこれを評価し歓迎していますが、とんでもありません。日本にとっては、唯一の選択肢しかないのです。それは、外交交渉による対話です。

 岸田外相は韓国の外相と電話で協議し、北朝鮮とは対話のための対話では意味がなく、圧力をかけていく必要性などを確認したと報じられています。まったく愚かなことです。
 「対話のための対話」にすぎないのか、それとも具体的な成果に結びつく「対話」となるのか、それこそ「対話」してみなければ分からないではありませんか。まず、無条件で会い、相手の言い分を聞くことからしか「対話」の糸口は見いだせません。
 自民党の二階幹事長は、北朝鮮による弾道ミサイル発射への政府の対応について、「同じコメントをしているだけではなく、協議する必要がある」と苦言を呈したそうです。より有効な対応策を直ちに検討すべきとの考えを示したとされていますが、実は軍事的な対応策を含めた「あらゆる選択肢」を用意しているアメリカ政府の方が、このような努力を始めているようです。

 米朝間の極秘協議がノルウェーで開催されたと報じられました。久しぶりの直接「対話」が、水面下で実施されたというわけです。
 トランプ米大統領は内政面では失態続きで、弾劾される可能性さえささやかれるほどに追い込まれています。それを挽回するためには、外交で華々しい成果を上げなければなりません。
 オバマ前政権がなしえなかった外交的な成果を上げることができるのは、パレスチナ和平と朝鮮半島危機の解決です。トランプ米大統領は20日からサウジアラビアとイスラエルなど中東地域を訪問して新たなパレスチナ和平に向けての働きかけを行い、同時に水面下で米朝協議の可能性を探っているのではないかと思われます。

 この間、立て続けに北朝鮮がミサイルを発射しているのは、ある種の「駆け込み実験」なのかもしれません。今のうちにできるだけ実験を繰り返してデータを蓄積し、来るべき米朝協議での「取引カード」として役立てようとしているのではないでしょうか。
 それは新たな戦争への準備というよりも、いずれ受け入れざるを得ない「対話」に向けての準備なのではないでしょうか。核とミサイルを交渉のための「取引カード」としてできるだけ有効に活用したいという金正恩の意図が隠されているように見えます。
 このような見方は、あまりに楽観的で希望的な観測にすぎないかもしれません。しかし、このような可能性やシナリオこそが問題を解決して緊張を緩和する唯一の道であり、いたずらに危機を煽り立てるのではなく、それを現実のものとするためにできるだけ力を尽くすことがいま求められているのではないでしょうか。

 戦争になったらどうするかを考えるのは軍人です。しかし、政治家は戦争にならないためにどうするのかを考えなければなりません。
 改憲のための世論工作を意図して戦争の危機を煽り立てている安倍首相は、政治家としての立場も役割も忘れているというべきでしょう。外見は政治家でも頭の中は軍人そのもので、しかもアメリカの側からの発想しかできないこのような人に、日本の進路も国民の安全も任せるわけにはいきません。

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