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「給料より休暇が大事」は「自分ファースト」なのか。 - 後藤和也(産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)

2017年度の新入社員に対して行った調査によれば、企業に望むことは、「残業がない・休日が増える」が「給料が増える」を上回ったという。当該調査では、新入社員たちを「自分ファースト型」であると断じている。

■2017年新入社員は自分ファースト型?!

会社に望むのは給料が増えることより、休日が増えること-。今年度の新入社員が「働き方」を重視する傾向にあることが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが9日、公表した意識調査で明らかになった。「給料」を「休日」が逆転したのは平成16年度の調査開始以来初めてで、同社は「会社に尽くすのではなく私生活を重視する『自分ファースト』のライフスタイルだ」と分析している。(中略)「残業がない、休日が増える」ことや「私生活に干渉されない」ことを望む割合は増加傾向だった。
産経新聞「「給料より休日」初めて上回る 新入社員意識調査 私生活重視の「自分ファースト」」2017/5/9
もちろん小池東京都知事の「都民ファースト」をもじったものだということは理解しているが、自分ファーストという言葉に、違和感を感じた次第だ。

■休みがほしい若手社員は自分本位なのか

辞書でファーストと引いてみれば、「(順位・重要度などが)第 1 位の、最高の」等の意味が並ぶ。前掲記事で言う自分ファーストとは、「自分優先」又は、うがったとらえ方をすれば「自分本位」といったところだろうか。残業が少なく(無く)休日の多いことを企業に求めることを自分本位等と断じることは、果たして妥当なのだろうか。

言うまでも無く、近年は働き方改革が国を挙げて進められている。特に、我が国にはびこる長時間労働の撲滅は急務だ。大手広告代理店電通に新卒入社した高橋まつりさんの自死という悲劇的な事件が、皮肉にも議論を加速させる一因となっているのは周知の通りである。いかに有名企業に勤め高い報酬を得たとしても、死んでしまっては何ともならない。そんな想いを抱きながら就活に励んだ世代であろう。

逆算すれば、上記調査対象の新入社員たちが物心ついた頃はまさにバブル崩壊後の「失われた10年」と重なる。リストラや大手金融機関の破綻など、子どもながらに不合理な出来事を目の当たりにしてきたはずだ。彼らは懸命に働いたとしても、景気など大きなうねりの前には自身の生活を守りきれないことを知っている。だからこそ、「朝晩問わず働くことで高い報酬を得て、車や恋人をゲットしてブイブイ言わそうぜ」的な働きかけをしても、そこには価値を見いだしづらいのだ。

■ワーク・ライフ・バランスを越えて

さらに気になる点は、休暇や休日を重視する姿勢が「会社よりも私生活を重視」と断じられている点だ。この点は、会社で過ごす時間(ワーク)とそれ以外の時間(ライフ)を全く異なる異質なもの、という2元論的な視点で論じているものと思われる。

しかし、趣味などのライフはワークと全く別個の、独立した存在なのだろうか。そうとは思わない、というのが筆者の実感だ。例えば恋人との関係が非常にうまくいっているなどプライベートが充実している時など、仕事の能率もアップした経験はないだろうか。逆に、仕事で上司に叱責を受け悶々としているときなど、プライベートもすべてうまく回らなかった経験は?

「心の定年」評論家で「働かないオジサン」研究でも知られる楠木新氏は、しばしば著書の中で、ワークとライフは切り離して考えるのではなく、縄の編み目のように複雑に絡み合っている存在と捉えるのが妥当である、と考察している。それを裏付けるように近年、「ワーク・ライフ・インテグレーション」という概念も提唱されている。

すなわち、「ワーク(職業生活)とライフ(個人生活)を柔軟、かつ高い次元で統合し、双方の充実を求めること。それによって、生産性や成長拡大を実現するとともに生活の質を高め、充実感と幸福感を得るなどの相乗効果を目指す働き方」(日本の人事部HP「ワーク・ライフ・インテグレーション」2017/5/12確認)という議論だ。ワークとライフが対立する概念という議論を越えており、筆者の経験則とも合致するものである。

■休み方改革も進めよう!

若い社員が休みがほしい、と言ってきたときに、「自分本位!」と捉えるのか、「プライベートが充実すれば仕事にも好影響があるはず」と受け止めるのか。我々先輩社員のちょっとした対応で、当該若手の成長度合いが違ってくるような気がするから不思議なものだ。

能力を発揮しながら働くということと、プライベートを充実させることは、人生設計上、車の両輪のようであるように思う。どちらも決してないがしろにはできないのだ。そのどちらを犠牲にする生き方も、長年を経れば大きなひずみとなってしまうだろう。そういった意味では、まずは休日・休暇を大切にする新入社員の気持ちも酌むべきであるし、新入社員各位も、しっかり休んだ後はその経験をバネにして各々の職場でポテンシャルを発揮すべきであろう。「働き方改革」はまさに、「休み方」改革でもあるのだ。


【参考記事】
■「新入社員が2日で辞めた」を防ぐ術は、NHK歌のお兄さん交代に学べ。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://goto-kazuya.blog.jp/archives/20692022.html
■「親子就活」が非常識でない理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://goto-kazuya.blog.jp/archives/19939501.html
■「就活に有利な資格ってありますか?」と問われたら。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/50823928-20170310.html
■キャリアコンサルタントが自身のキャリアを描けない、という笑えない話。(後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49875267-20161028.html
■電通新入社員自殺、「死ぬくらいなら辞めればよかった」が絶対に誤りである理由。 (後藤和也 産業カウンセラー/ キャリアコンサルタント)
http://sharescafe.net/49739049-20161010.html

後藤和也 産業カウンセラー キャリアコンサルタント

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