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清張の「闇」とバカリズムの「光」を掬い取った2本のコラム ~「週刊文春」5月18日号 最新レビュー~ - urbansea

 スクープ記事で注目されることの多い週刊誌だが、読者に毎週毎週の読み応えを担保してくれるのは連載ものではなかろうか。連載ものへの信頼があるから毎号毎号、安心して買えるのだ。『週刊文春』には小説、漫画、コラム、書評、映画評、パズルなど多種多様な連載がある。それらから2つのコラムを紹介する。


 

「この世の全ては清張の世界」

 春日太一の「木曜邦画劇場」は来月で、連載開始から丸5年をむかえる。毎週1本の旧作邦画を紹介するこのコラムでは、映画への洞察もさることながら、著者が吐露する幸せへの焦燥感や並外れた妄想力・空想力が読みどころのひとつ。さらにこれらを活かした個人的な話を導入にして、映画のレビューへと続けていく、これが上手いのである。

 たとえば昨秋の「筆者を『エア登山』へといざなう峻厳たる映像美!『植村直己物語』」(11月3日号)は、空想力を駆使した傑作回である。“エア登山”とは「山の画像やルートマップを見ながら『俺なら、こう攻略する』と空想するだけの行為」なのだが、空想の精度をより上げるべく、山に関する情報のインプットを重ねた結果、「たいていの有名な山は、さも本当に登ったかのように語れるようになった」という。その際、参考にしていたのが、「関連書籍はもちろんだが、登山家を描いた映画だ」。これをフリに、「植村直己物語」の紹介に入るのだ。

 鍛え上げられた妄想力・空想力の極めつけが、今週号(5月18日号)の「幸せそうな男女を見ても妬かなくなるお薦め作! 『黒の奔流』」である。なにしろ「この世の全ては清張の世界」なる名言が高らかに謳われるのだから。


下山事件の現場を訪れた松本清張 ©角田孝司/文藝春秋

「黒の奔流」は松本清張原作の映画である。ハイライトは男と女が湖でボートに乗る場面、「二人はそれぞれ別に目的があった。男の目的は、女を湖に沈めること。女の目的は、愛する男と二人で湖に沈むこと」。端から見ると仲睦まじいデート中のカップルだが、たがいに違う肚をもっている。

 清張原作のほかの映画でいえば、「鬼畜」の東京タワー見物の場面は、一見、幸せそうな普通の親子だが、内実は愛人との間に生まれた子供が邪魔になって捨てにきた父親と、預けられた正妻の家に居づらいがために外出ではしゃぐ子供なのである。

 これが清張の世界である。そのなかに立つ春日は「どんなに楽しげな男女や家族を前にしても『表向きそうかもしれないが、実は裏にはそれぞれドロドロした事情が渦巻いているに違いない』と自然と脳内変換され」、輝いて見えるようになる。

「この世の全ては清張の世界」。これは、数多くの清張作品を読み続け、見続けた者のみが到達できる高みなのであろう。

バカリズムの天才性を見極める「テレビ健康診断」

 “テレビっ子”を自認するライター戸部田誠(てれびのスキマ)は昨年10月、「テレビ健康診断」の執筆陣に加わった。彼は勝負づけの世界の外にいる。ビートたけしが、やすし・きよし、ドリフ、欽ちゃんを打ち負かしながら頂点に昇りつめていく、あるいはお笑い第三世代と呼ばれる芸人からダウンタウンが抜け出す、いやそもそも……などの芸人対芸人の勝ち負けにもとづく史観とは無縁である。その点で、同じテレビっ子でもナンシー関とはスタンスを異にする。言うなればフラットにテレビ番組に接し、今、目の前に映し出されているものを素直に楽しめる人である。

 今週号で書くのは「バカリズムの天才さを知る『架空OL日記』」。ここで取り上げるバカリズム原作・脚本のドラマは、いたって普通のOLたちの日常を見せるドラマなのだが、一点の奇態がある。男性であるバカリズムが主人公のOLを演じているのだ。


バカリズム ©時事通信社

 コラムでは演じ方に着目している。「このドラマにおけるバカリズムはデフォルメが一切ない」と。ベタに極端な女装をすることなく、創作物特有の「~だわ」といった女性口調をつかうこともない。男が男のままである。それでいて、紛れもなくOLなのだと賞賛する。

 そんなバカリズムのふるまいを、戸部田誠はこう評して締めている。「バカリズムは普通の顔をしたまま狂っている。安易に『天才』と言うのは憚られるが、これを『天才』と呼ばずなんと呼べばいいのだろうか」

文春には84歳の小林信彦や、今年で80歳になる東海林さだおもいれば、春日太一、戸部田誠のアラフォー世代もいて、様々な世代のコラムが並ぶ。これも雑誌の魅力、雑誌の「雑」である。

(urbansea)

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