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特集:「反グローバル時代」の日本外交

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 「最初の100日」を過ぎてからも、トランプ政権のお騒がせぶりに変化はありません。先週は2017年度予算が成立してホッとしたものの、今週はコミーFBI長官が解任されてワシントンに激震が走りました。「ロシアゲート」事件がますます過熱しそうです。
ただしこんな風に、トランプ政権の「不確実性」を語っているのもだんだん疲れてきました。そろそろ「様子見」ではなく、日本外交に何ができるのかを検討すべきではないかと思います。特に世界的な「反グローバリズム」潮流に対し、どんな手を打つことができるのか。アジアを舞台に、できることは少なくないように思われます。

●「反グローバル旋風」は止まったのか

 今週はフランスと韓国の大統領選挙が相次いで行われた。前者ではエマニュエル・マクロン前経済相が、後者ではムンジェイン(文在寅)候補が勝利者となった。いずれも事前の世論調査通りの結果であり、対立候補には大差をつけている。今後の両国における政治の安定を考えれば、望ましい結果であったと言えるだろう。

なにしろ昨年は、英国民投票(Brexit)と米大統領選挙(トランプ旋風)という2つのサプライズがあった。今年も年初から、「反グローバル旋風」と「読めない民意」に対する不安が続いていた。本誌4月14日号「地政学リスクの時代を考える」でも取り上げたように、経済活動にとって困るのは、確率計算ができる「リスク」(Risks)よりも、見通しがつかない「不透明性」(Uncertainty)である。2つの大統領選挙が終わってみると、世界経済を取り巻く不透明性はそれだけ後退したことになる。案の定、今週のマーケットは「リスクオン」ムードで、限定的ながら株高と円安が進んでいる。

 世界経済の状況も改善している。先月発表されたIMFの新しいWEO(世界経済見通し=年4回改訂)を見ると、前回の1月発表分よりはわずかに上方修正されている。どうやら世界経済は、2016年をボトムにわずかながら回復傾向にある。何よりも資源価格の底入れが、そのことを示しているように見える。



 面白いのは今回の報告書に、”Gaining Momentum?”(勢いを得た?)と前向きなタイトルがついていることだ。前回1月分は”A Shifting Global Economic Landscape”(移り変わる国際経済の景色)、その前の昨年10月は”Subdued Demand: Symptoms and remedies”(抑圧された需要~その症状と治療法)、昨年7月は”Uncertainty in the Aftermath of the U.K. Referendum” (英国民投票後の不透明性)、そして1年前は”Too Slow for Too Long”(かくも長き停滞)であった。つまり、ずっと不景気なタイトルが続いていたのである。

世界経済が金融危機後の「長期停滞」から一歩抜け出せば、昨年来の「反グローバル旋風」も一段落するかもしれない。「干天の慈雤」といったところだろうか。



●反グローバリズムを背負ったトランプ政権

 もっとも楽観論を唱えるのは時期尚早であろう。1月には米国でトランプ政権が発足し、保護主義や移民制限などの政策が採られ始めた。3月には英国でメイ首相がEU離脱に向けての交渉開始を宣言した。「反グローバル旋風」は着実に形を取り始めている。

今週5月10日、青山学院大学で行われた公開シンポジウム「トランプ政権は世界に構造的な変化をもたらすか」を傍聴していて、しみじみその思いを強くした。以下、印象に残った発言をメモしておく1

○ 中山俊宏・慶応義塾大学教授
* トランプ支持者にとってオバマ大統領は「向こう側の人」だった。逆にトランプは「下品な金持ち」のイメージであり、「自分たちの側の人」である。選挙期間中に彼らを取材していて感じたが、トランプは彼らの”Last Best Hope”であった

* ゆえにコアな支持者たちは、「成果が出ない」からと言って容易にトランプを見捨てないだろう。トランプ政権は支持者との約束があるのだから、バノン的な世界観(保護主義、移民制限など)を試してみて、それらが挫折するプロセスが必要

* 米国政治における大統領弾劾のハードルはかなり高く、トランプ政権は4年間続くものと考えて対応すべき。

○ 細谷雄一・慶応義塾大学教授
* オバマはウィルソン的な理念を有しながら、軍事力行使を嫌悪したためにかえって国際秩序を損なった。逆にトランプは軍事力を行使するものの、国際秩序を守るつもりがない。2人がセットになって、リベラルな国際秩序(LIO=Liberal International Order)が危うくなっている。その分、日本やEUがLIOを守らねばならない。主力選手が怪我で欠場したときに、控え選手がいい仕事をすることもある。

○ 宇野重規・東京大学教授
* LIOは本来、各国のデモクラシーとセットになっているもの。ところが先進国では中間層の没落が始まり、デモクラシーが悲鳴を上げている。

* 「ポピュリズム」という言葉は、米国ではPositiveな意味がある。エスタブリッシュメントが行き詰まると、ポピュリストが登場するのが歴史的なパターン。1830年代には、「成り上がり者」のジャクソン大統領が圧倒的な人気を誇り、それを目撃したフランス貴族のトックビルが名著『アメリカン・デモクラシー』を残した。

* 今日のトランプ現象もいろいろ問題があるとはいえ、国民の不満の「可視化」に成功した点は評価しなければならない。

○ 会田弘継・青山学院大学教授
* むしろLIOが、先進国の中産階級を壊してきたのではないか。サービス産業が8割を占めるようになった今の米国経済で、労働者の再教育は難しい。

* かつては労働者の政党であった民主党は、80年代のレーガン政権に労働者層を奪われた。それが今ではエリートの政党になっている。90年代のクリントン政権はNAFTAもやったし、ハイテク産業や環境ビジネスと結びついた。今はそのことに対して、民主党が労働者から反撃を受けている。

 ほとんどの点に同意したくなるが、会田教授の「LIOが中産階級を壊した」という指摘にだけは反論しなければならない。というよりも、「自由貿易が諸悪の根源」という意見に対しては、たぶん8割以上のエコノミストが反対するはずである。

その反面、中山教授の「バノン的な世界観が一度、試されて失敗する必要がある」という指摘も重く響く。民意の負託という面では、まさしくその通りであろう。ただし、その間にもたらされるであろう経済的損失を考えると、つい気が重くなるところである。

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