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フランス人が考える日本が「次のSONY」を生むために必要な戦略 

by Benjamin Joffe

優秀なエンジニアやデザイナーを膨大に抱える日本が、世界レベルのテクノロジー企業を送り出せないのは何故なのだろう。その理由の一つとして、グローバルでビジネスを行うために必要な視野が日本人に足りないことが挙げられる。

カナダを例にあげると、ウォータールー大学はベンチャー企業や大企業での研修制度(Co-op制度)を導入し、学生らに数千にものぼる企業で6ヶ月間の経験を積ませている。しかし、日本の大学生らはほとんど業務の実態を知ることもない会社に、卒業の一年前からアプローチを行うのが慣例だ。フランスでは多くの大学が、海外企業でのインターンシップを義務づけており、グローバルな視点から物事を学ばせようとしている。

ソフトバンクや楽天、DeNAといった日本のテクノロジー企業の創業者らはみな海外に留学した経験を持っている。彼らは海外での経験からイノベーションを生むための視野を獲得した。しかし近年、海外で学ぶ日本人学生の数は減少が続き、1994年以来で最低レベルに達している。グローバル化が進む中で日本人が内向き志向を強めていることは明らかだ。

2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二は「海外に出て、外から日本を見つめることが必要だ」と述べた。中村の発言は明治時代の日本が海外に視察団を派遣し、近代化を成し遂げたことを想起させる。

かつての明治維新は封建主義の終わりと急激な近代化の象徴として位置づけられる。その引き金を引いたのがペリーの黒船の来航だった。近年のテクノロジー分野では、グーグルやフェイスブック、そしてツイッターらが黒船として現れ、実際に砲撃を加えている。

日本のインターネットから得た資本はシリコンバレーに集約され、米国の企業やエンジニアたちを潤している。日本はそのポテンシャルを発揮できておらず、他の多くの国々と同様に米国のデジタル植民地の一部となっているのが現実だ。

起業に対する考え方も日本とその他の諸国では大きく異なっている。米国にしろ、イスラエルにしろ、スタートアップは人材の多様性を社会のエコシステムにもたらしている。失敗したスタートアップは新たな人材を別のスタートアップや大企業に与え、成功した企業は新たな価値を創造する。

起業を「はみ出し者」とみなす日本の企業カルチャー

日本では起業にかかる社会的及び経済的コストが非常に高い。企業から離職した場合の失業保険の給付期間は短く、金額も低い。フランスでは失業給付が2年に及ぶ場合もある。事業を立ち上げて、適度な収入が得られるまでは支援が受けられる。しかし、日本の伝統的企業では一度スタートアップへの道を進んだら、社会のはみ出し者の烙印を押されるのが常だ。

日本でもイノベーションの重要性の認識が増すにつれ、伝統的大企業がコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を設立する動きが起きた。しかし、そこにスタートアップや投資経験のあるメンバーが加わることは稀で、本当にイノベーティブな事業への出資は少なく、保守的なプロジェクトへの取り組みが目立つ。

しかし、希望もある。筆者がマネジメント・ディレクターを務める中国深センのハードウェアアクセラレータ「HAX」には今年、数年ぶりに日本人の起業家が参加している。数年前に電通を退社後、デジタル系人材を多数輩出していることで知られるカナダのバンクーバーの大学院「センター・フォー・デジタルメディア(CDM)」に留学した藤本剛一だ。

藤本は大学の仲間たちと共同創業したウェアラブルデバイス企業「Walkies」の代表として深センを訪れ、HAXからの調達資金を元にプロトタイプの製造を行っている。フォーブスジャパン6月号の取材記事で藤本は「ハードウェアの製造は時間との戦いだ。試行錯誤にかける時間のロスを防ぐ膨大な知識が、深センには蓄積されている」と語った。藤本はまた「日本に居たら世界が見えない」とも述べている。

この分野の日本人としてはハードウエアベンチャーの「Cerevo」創業者の岩佐琢磨も知られている。岩佐や藤本らはグローバルな考え方で中国の深センのサプライチェーンにアプローチを行い、世界に製品を送り出そうとしている。

日本人が世界に進出できない理由には、言葉の壁の問題が挙げられる場合も多い。しかし、筆者の経験では英語が全く話せない韓国のスタートアップ起業家が育成プログラムに参加し、海外の起業家らとの交流を通じ、プレゼンレベルの英語はマスターして帰国したケースが挙げられる。

筆者自身も英語を母国語としないフランスで生まれ育った人間だ。ビジネスの現場で求められるのは、英語を母語としない人々同士が意思疎通を果たす「リンガフランカ」と呼ばれるタイプの英語だ。

言語や企業カルチャーの壁を飛び越え、世界に羽ばたいた起業家から物事を学ぶことが今後、新たなソニーのような企業を日本から生み出すことつながると信じたい。

※本記事は3月に東京で開催されたカンファレンス「Slush」で筆者が行った講演「How To Create 1000 SONYs」の草稿をベースに執筆した。

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