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韓仏大統領選挙の結果と「中道」政党

5月7日に行われたフランス大統領選挙の決選投票では中道勢力「前進(En Marche!)」のマクロン候補が66.1%の得票率で勝利し、9日に行われた韓国大統領選挙では中道左派の最大野党「共に民主党」の文在寅氏が得票率41.1%、二位以下に大差をつけて勝利した。両国の政治にはあまり共通点があるように思えないかもしれないし、同じく選挙結果にも共通点がないと思われるかもしれない。しかしながらまず、制度的にはフランスと韓国は共に大統領制と議員内閣制が共存しているという共通点がある。

この政治制度は「半大統領制」とも呼ばれるが、直接選挙によって選ばれる大統領が強力な権限を有している一方で、大統領から指名され議会から承認された首相が実際に各行政機関を統括する役割を有しているという特色を持つ。同様または類似の制度を持つ国としてはロシア・台湾などが挙げられる。なお、台湾(中華民国)の総統は大統領にあたり、行政院長はフランスの首相と同様な権限を有している。

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一方で選挙結果に関しては、右派でも左派でもない「中道」と中道左派の関係がキーポイントになっている点で共通点がある。さらに、いずれも議会での与党の安定多数確保は不透明であり、中道と中道左派の協力関係の構築が政権運営の安定に直結する可能性が高い。以下、詳細を記す。

仏 マクロン政権は「偽装社会党政権」となる?

2012年に誕生したフランスのオランド社会党政権は、最初の内閣であるエロー内閣において、所得が100万ユーロ以上の国民に対して75%の富裕税を課すなど伝統的左派色が強い政策を打ち出した。しかしながら経済は好転せず、2014年に行われた統一地方選での社会党大敗を受けてエロー内閣は退陣、新たに誕生したヴァルス内閣では反対に企業優遇政策を打ち出すなど方針転換を図った。

第二次ヴァルス内閣で経済相を務めたのがマクロン氏である。その後経済相を辞任し、中道路線を掲げる政治団体「前進」を立ち上げ大統領選に出馬、今日に至る。現在、前進(先日、名称を「共和国前進」に変更)は国会下院である国民議会に議席を持っていない。いわば、小池東京都知事と都民ファーストの会のような関係である。来月行われる予定の国民議会(下院)選挙においては、共和国前進は577すべての選挙区で候補者を擁立するようであるが、実際に過半数を獲得できるかは不確定な部分が多い。

今回の選挙結果に関しても、マクロン氏を積極的に支持したからというよりはルペン氏を当選させないという消極的な理由で選ばれた側面も強い。それゆえ、必ずしも大統領選の結果が議会選に反映されない可能性がある。

仮に共和国前進が過半数を獲得できない場合は、社会党か最大野党の保守政党である共和党のいずれかと連立を組む必要性が出てくる。マクロン氏本人は、社会政策的にはリベラルだが経済政策的には市場原理を重視している。アメリカのクリントン政権、イギリスのブレア政権、ドイツのシュレーダー政権に代表されるような「第三の道」が、政治路線として最も近いという見方は強い。

もともとオランド政権の閣僚であったこともあり、仮に社会党と組んだ場合には、実態としてより中道寄りになった社会党政権の継続との指摘を受けよう。都民ファーストが「偽装民進党」と揶揄され出したように、マクロン政権も「偽装社会党政権」と揶揄されるかもしれない。5年後の大統領選挙で、マクロン氏が社会党からの支持を受けることは十分ありうる。しかしながら、より左派的なアモン氏を大統領候補に選んだ社会党との経済政策における溝は深く、公務員の削減や規制緩和といった新自由主義的な政策の実現は(それが良いものかであるかどうかは別として)不十分になるであろう。

韓国 少数与党の文政権は「国民の党」との協力関係構築が必要

一方で、韓国大統領選挙では文在寅氏に大差をつけられて3位の21.4%に終わった安哲秀氏は、「共に民主党」に所属していたが、左派色が強い文氏と袂を分かち中道路線を掲げる「国民の党」を結成した。一時は、北朝鮮に融和的な態度をとる文氏に不満を持つ保守層の受け皿になり、世論調査で文氏に迫る支持率を得ていたが、テレビ討論で応対能力不足を指摘され保守層が離反したようである。

保守政党である当時の与党、自由韓国党の洪準杓氏が終盤激しく追い上げ、最終的には得票率が安氏を上回った(24.0%)ことを考えれば、保革二大政党の壁は厚かったと言えよう。文氏にとっては、決選投票のない韓国の大統領選における今回の勝利は「大勝」だったと言えようが、文政権の政治基盤は決して強いとは言えない。

現在、定数300の韓国国会に占める共に民主党の議席数は120で過半数に足りない。韓国では連立政権を組む伝統がないようであるが、現在の国会の議席構成・政策距離を考えると、国民の党(議席数40)からの協力を得ることは政権安定のためには必須になる。

何よりも韓国の国会は解散がないので、大統領にも首相にも解散権がない。次の国会選挙は2020年とずいぶん先なので、同党との協力関係構築に失敗すれば文政権は早晩レームダック化する可能性がある。日本の民主党政権が2010年の参議院選挙で敗北し、参議院で少数与党になったことによりレームダック化したことが思い出される。

賞味期限切れが早い「中道」政党

これまでの各国の選挙結果を見ると、(中道)左派政権への政権交代が実現した場合は往々にして経済の停滞と格差の拡大がその背景となることが多い。しかしながら、上記のオランド政権だけではなく下記のような結果になるケースが多々ある。

①左派政権が推進した過剰な再分配政策が産業の競争力の低下を招き経済は好転せず、②中間選挙や統一地方選挙での与党敗北を受けて、途中で経済政策を転換し市場原理を重視した競争的政策を採用、③与党において右派(全体としては中道派)と左派の対立が激化し、場合によっては党分裂が生じる。その結果、④政権の求心力が失われる。

これから始まる文政権の5年がオランド政権と同じ道を歩まないように願うばかりである。一方で、マクロン政権に関しても中道は根本的に安定的な政治勢力になりにくいことを指摘せざるを得ない。伝統的な対立軸である保守-革新(中道右派-中道左派)においては、保守政党を財界が、革新政党を労働組合や市民団体が支援するという構図が定番である。

しかしながら、純粋な中道を掲げる政党に対しては、財界も労組も積極的に応援するインセンティブはない。支持基盤の弱い中道政党は往々にして「改革」をスローガンとして掲げるが、その改革が実現されてしまえば存在意義を失うのである。宗教政党でもなく政策的に「ど真ん中」の中道政党が、各国において長続きせずまたは少数派でありつづける理由はそこにある。共和国前進はマクロン氏が大統領でいる間は一定の勢力を維持するであろうが、フランスにおけるこれまでの中道政党の歴史を見てみると、長い目で見て保革二大政党にとって代わるものになるとは筆者には思えない。

補足-民進党の受け皿となる中道左派新党を

翻って日本である。都議選を前に民進党を離党し都民ファーストからの公認または支援を目指す候補者が相次いでいる。確かに民進党から立候補しても当選しない上に党のコンセプトそのものが不明確であることを考えれば、民進党の都議選候補が、非自民かつ中道的な都民ファーストに移籍したくなるのは理解できることである。

しかしながら、都民ファーストの会は仮に国政に進出したとしても政策的に自民党との明確な違いを打ち出すのは難しいであろう。自民党と対峙する二大政党の一翼を担うとは考えにくく、小池知事がかつて所属していた日本新党同様、暫定的な政党になる可能性が高いことを理解したほうが良い。筆者が繰り返し主張しているように、二大政党制を復活させるためには民進党の受け皿となる中道左派新党を創ることが必要であろう。

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