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終焉に向かうグローバリズムを理解できない周回遅れのニッポンーフランス大統領選を巡るお粗末な認識

 5月7日に投開票が行われたフランス大統領選挙、第二回投票で、無党派勢力 “ En marche!”代表のマクロン候補が、Front National (以下、「FN」という。) 代表のルペンを破り、第五共和制下で第8代目となる大統領に選出された。

 マクロン候補(次期大統領)は絵に描いたようなフランスの権力エリート。グランゼコールの最高峰であるENA(国立行政学院)を卒業し、財務監査官となり、その後投資銀行へ天下りしている。かつては財務監査官なり国務院(le Conseil d’etat)なりから電力、ガス等のインフラ系大企業、大手メディア等へ天下るというのがお決まりのコースだったが、近年ではどこぞの国と同様に、投資銀行人気が高いということなのだろうか。

その後オロンド政権で経済産業情報(デジタル)大臣に就任、今回の大統領選への出馬となった。若干39歳でというところに注目と期待が勝手に集まっているようだが、経歴的に行政能力は高いとしても、政治家としての能力、ましてや大統領として欧州の大国フランスを統治する舵取りを担う能力については、あまり期待できないように思う。(2013 年の話だが、トッドはその著『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』の中で、当時オロンド政権の大統領府次長の任にあったマクロンを「銀行システムの中にあり」とバッサリ斬り捨てている。要はその程度の人物で、銀行、より的確に言えば金融資本の言いなりになるであろうということである。)

 さて、この大統領選の結果に関する我が国での大方の見方は、極右勢力で反EUのFNの保護主義や排外主義に、自由主義が、EUを守る勢力が勝った、フランス人の良識が勝ったといったもの。こうした見方は、安倍総理からマクロン次期大統領への祝辞の中で、「マクロン次期大統領の勝利は、内向き志向や保護主義的な動きに対する象徴的な勝利であり、EUへの信任です。」等としているところに端的に表れている。(全文は官邸ホームページに掲載。)

 こうした見方の背景には、EUはいいもの、EUによる欧州統合は進歩であり、これを止めること、ここから離脱することは後退であるという短絡的な発想が我が国に蔓延し、それに蝕まれているということがあるように思われる。

 加えて言えば、今、欧州では極右対自由主義の闘いが繰り広げられており、オランダに続いてフランスでも極右が負けて自由主義が勝ったといった、これまた単純な構図が何の疑問もなく受け入れられてしまっていることがあるように思われる。

 しかし、当然のことながら実態はそういう話ではない。今回のフランス大統領選を対立の構図で説明するのであれば、フランスを、フランスの社会や共同体を守ろうというナショナリズム対グローバリズムの闘いであった。

 FNのルペン候補は、今回の選挙戦において、移民の流入の阻止を政策の一つの柱に掲げていた。「そんな排他的な政策は否定されるべき」と日本では簡単に批判されるだろう。しかし、フランスは長きにわたって移民問題に悩まされてきた国である。パリの街を歩いていれば、犬も歩けばなんとやらと言いたくなるぐらいに、タドタドしいフランス語を話す移民に出会う。無論彼らの中には帝国主義時代に植民地から連れてこられた移民の子孫もいるわけだが、それを上回る数の大量の移民がアフリカや旧東欧圏を中心にフランスに流れ込んできているようである。

移民の大量流入は、治安の観点から問題視されることが我が国では多いが、それよりも、地域共同体や地域社会を変容させる、もっと直接的に言えば不安定化させたり破壊したりすることにつながることが問題である。(もちろん雇用を奪うという問題もあるが、それよりもこちらの方が問題であると考えられる。)ルペン候補はこうした点から移民の流入阻止を訴えていたわけであり、共同体を守る、社会を守るという観点からは至極当然の、まっとうな主張、政策であろう。

 かつて、「アラブの春」と言われた単なるクーデタが北アフリカ諸国で連鎖的に起こった際に、地中海を渡り、イタリア経由でフランスに大量の移民(難民)が押し寄せた。この時、当初フランス政府はイタリアからの流入を阻止した。しかし、それではイタリアに移民が滞留することになり、イタリア政府としてはたまったものではないので、EUで協議することとなり、フランス政府はしぶしぶ国境を開けて移民の通過を認めた。これは一つの例であるが、EUがある限り、EUに加盟している限り移民の阻止を完遂することは難しいと考えるのは無理からぬこと。(厳密に言えばシェンゲン協定であるが、同協定もEU法の一つに位置付けられている。)

無論それだけではなく、トッドの表現を借りれば、EUという仕組みを使ったドイツによる欧州支配、その下請けに成り下がったフランスをその地位から脱出させるといった大きな目的もEU からの離脱にはあるのだが、そうした大きな目的も含め、フランスを守る、フランス人の生活や社会・経済を守るということを考えれば、EUからの離脱は当然に選択肢に入ってくるし、直ちに離脱という選択にならなくても、十分検討に値する話なのだが、根拠なき進歩主義を無批判で受け入れる傾向がある日本では理解されにくいのかもしれない。(無論、早くからEUの問題、欧州統合の弊害を指摘されてきた識者の方々は少数ながらおられるが。)

 これ以上細部には入らないが、ルペン候補の主張は別に荒唐無稽なものでもなんでもない、単純化すればフランスを守ろう、フランス人の権利を守ろうというものであり、いい意味での保護主義ではあるが、排外主義でも極右でもなんでもないのである。

 また、選挙結果を詳細に分析していくと、必ずしもマクロン候補が圧倒的な支持を得て当選したわけではないことも分かる。まず、第一回投票での両候補の得票率はフランス全国で見た時、マクロン候補が24.01%、ルペン候補が21.91%であり、前者が後者を上回っているが、大差とまでは言えない。これを地域(県)別に見てみると、北部や南部を中心にルペン候補の得票率が一位となっているところが多くある。マクロン候補は2位や3位にさえなっていない地域も見られる。(逆に、ルペン候補が3位や4位という地域もある。)

 フランス北部は工業地域であり、EU統合やグローバル化の影響をモロに受け、衰退していった地域である。南部は、移民の流入ルートにも当たり、元々FNの支持が多かった地域である。ルペン候補の先代の父親ルペンが代表であった頃の地方選の結果を地図上に塗り分けたLe mondeの記事で、南部の多くの地域がFN色で染められていたことを記憶している。

 ちなみに、第一回投票で4位(得票率19.58%)に終わったメルション候補もEUへの懐疑的な姿勢示す等、ルペン候補に近い立場。大きな方向性はルペン候補とメルション候補は同じであると考えることができ、両者の協力が成っていれば結果は異なっていたかもしれない。要はそれだけ、EUへの懐疑、EUからフランスを守ろうという意識は広がってきているのである。

 しかし、どうやら特に都市部では反FNが親FNより勝っていたようであり、マクロン支持というより反FN票が第二回投票ではマクロン候補に向かい、今回の結果となったということのようである。

 このことは、2002年の大統領選と比較すればよりよく理解できる。2002年の大統領選では、第一回投票でFNの父親ルペン候補が二位となり、これに「危機感」を抱いた三位の社会党のジョスパン候補と一位のRPR(共和国連合、現在のUMP。)のシラック候補が父親ルペン候補の当選阻止の一点で協力し、大差でシラック候補が当選したが、その直後から、社会党や共産党とその支持者を中心に、FNの大統領阻止では協力したが決してシラックやRPRを支持したのではない、これからは新たな闘いが始まるといった運動が展開された。(当時たまたまパリに滞在していた筆者は、滞在先からほど近いバスティーユ広場で開かれていた彼らの集会を間近で見ている。勢いに飲み込まれて最終的には演壇(街宣車)の最前列まで行って、彼らの街宣活動を見聞していたが、熱狂的に勝利を祝うシラック支持者の集会が開かれた共和国広場とは全く雰囲気、空気感は異なっていた。)

 今回も大統領選の直後からマクロン次期大統領の掲げる労働規制改革に反発する大規模なデモが起きているようであり、ナショナリズム対グローバリズムの闘いは形を変えてまだまだ続くことになろうし、ナショナリズムの勢いは、必ずしもFN支持と結びつかなくとも、拡大していくであろう。

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