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担任からの暴行・暴言に対する訴訟は和解。「学校側は訴えを認めず」でも裁判を終わらせた理由

さいたま市立小学校の2年生(当時)の沙織さん(仮名)が元担任の女性教諭(50代)から暴言を吐かれたり、暴行を受けたことで、不登校になったとして、沙織さんと母親が元担任と校長と教頭(いずれも当時)とさいたま市を相手取り、謝罪や慰謝料543万円を求めていた裁判で、原告と被告が和解していたことがわかった。

被告側は訴えの内容を認めなかったが、和解には「不登校のまま卒業した気持ちを理解し、斟酌する」との文言が入った。「斟酌」という言葉は、沙織さんからの希望。通常、和解などでこうした言葉は使用されないが、裁判長もそれを認めた。

原告「くるくるぱー」とばかにされた 長時間廊下に立たされたと主張

訴えなどによると、沙織さんは2009年4月、小学校に入学した。2年生のときの元担任から、暴言や暴行を受けた。加害行為は2年生のゴールデンウィーク明けから始まった。沙織さんは、授業中、「くるくるぱー」と、バカにされていたと証言した。日記にも、「目があったときに、くるくるぱーといってバカにした」と書いていた。

また、沙織さんは隣の席の児童に算数のやり方を聞いていたが、担任は「先生が話をしているのに何でしゃべっているの!」と大声で怒鳴った。そして腕ごと強く引っ張り上げ、倒れた状態で引きずられたという。

さらに、沙織さんは週に3、4回は廊下に立たされていた。それは3時間以上に及ぶこともあった。立たせる場所は、教室側の壁ではなく、教室の対面にある昇降口の下駄箱の近くか、教室の隣にある「資料室」内だった。クラスの近くには職員室や校長室があるが、下駄箱側や資料室は職員室から死角で見えない位置だ。

小学校の下駄箱。ここで、沙織さんは毎日のように立たされた(母親撮影)

自傷行為を繰り返し、「死にたい」と思うように….

母親は沙織さんが元担任からの暴言、暴行を受けていたことを知らなかった。沙織さんが「学校に行きたくない」と言っても、母親はその理由はわからず、兄が学校に付き添ったこともあったが、次第に腹痛や頭痛が続いた。夜泣きをし、「先生が怖い」と言い出した。手の甲を見ると赤くなっていた。「つねられていていたのではないか?」と母親は勘ぐった。

夏休み明けには、沙織さんは爪を剥いだり、指の皮をむく、などの自傷行為をするようになった。そのため、メンタルクリニックに通うことになった。そこで、沙織さんが受けてきた暴言や暴行を主治医に初めて話した。母親に言えなかったのは「ママに心配かけなっくなかったから」と、主治医から聞かされた。

母親が校長に会いに行くと、校長は「子どもの言うことを信じちゃだめ」と、相手にされなかった。また、「(元担任は)くるくるパー、とは言っていない。(手遊びの)くるくるぽん、とやっただけ」と主張した。「くるくるぽん」とは、保育園で行われる「くるくるポン体操」のことだ。のちに、「頭の回転、早くして」の意味だったと回答を変えている。

沙織さんの心の傷は深く、心因性の難聴にもなった。そして10月中旬から、学校に行けなくなった。4年生のときには「死にたい」と漏らした、という。

暴言や体罰の対象は他にも?

ただ、元担任の態度は学校側も問題視していたのか、「体罰・暴言等不適切な指導に関する調査」を行った。母親は情報公開請求したが、「個人の権利利益を侵害する」等として、公開されなかった。ただ、元担任の行為は保護者の中では話題だったことから、母親は、沙織さんのクラスメイトとその保護者に自ら聞き取りを始めた。同級生32人中、子どもと保護者の25組から話を聞いたところ、以下のような証言を得られたという。

<沙織ちゃんに対していろいろな形で暴力を振るったり、暴言を吐いたり、廊下に立たせたり、ボールペンで叩いた。理由は言わないのでわからない>( Bさん)
<先生のことで一番覚えているのは体罰です。かなり強く腕をつかむので、腕にあざがついた友達もいます。沙織ちゃんを叩いていたことは憶えています>(Cさん)

 母親の調査では、元担任による暴言や体罰の対象は、他にもいた。児童Sによると、授業中に椅子に座っていたところに元担任が近づき、腕と髪を引っ張り、椅子から引きずり落とした。そのまま引きずるようにして教室の出口に向かい、戸を開け、廊下に出した上で、そのまま立っているように指示されたという。

下駄箱から見た教室。左の資料室内で立たされることも(母親撮影)

元担任との決別のための裁判

 13年11月、沙織さんと母親は提訴した。元担任は法廷で証言することになった。「くるくる」と頭の横で指を回したことは認めたが、「くるくるぱー、の意味ではない」と述べた。その後、沙織さんの本人尋問となった。久しぶりに担任を前にしたためか、震えて、証言台になかなか立てなかった。ただ、「遮蔽をせずに話したい」と希望していた通りに証言をした。希死念慮(死を考えること)があるために、証言台で主治医が付き添った。元担任はその間、目をつぶっていた。

 結局、裁判所は和解を働きかけてきた。原告の主張を裏付ける有力な物的証拠はなく、沙織さんや他の子どもの証言しかない。本来、証言台に立つはずだった他の子どもが、市教委や学校関係者がいる前で話すのをためらった。

 「この裁判は、沙織と元担任との決別の意味もある」と母親。勝ち負けよりも、当初から沙織さんは「担任からの謝罪」を希望していた。被告側は、訴えを最後まで認めず、取り下げを求めてきた。しかし、沙織さんは取り下げは拒否した。また、和解文言の中で、「不登校のまま卒業したことを『遺憾』」との表現を提案してきた。沙織さんは「遺憾という言葉は、心から謝っていたら使わない」と言い、沙織さんは、手元にスマートフォンで、しっくりくる言葉を探した。

沙織さん「斟酌、という言葉が一番納得する」

 沙織さんは、遺憾では「残念」「かわいそう」「気の毒」というニュアンスを感じたため、ほかの言葉を探した。結果、「斟酌」という言葉を見つけた。「相手の事情や心情をくみとること」という意味がある。その言葉に気持ちを込めた。

 「この言葉が沙織の心の中で一番納得していた。裁判では通常、この言葉は使われないと弁護士さんにも言われました。しかし、あえてこの言葉を沙織が探し、選択することで、相手方をぎゃふんと言わせることができるのではないかと考えました。すると、裁判長も、それをくみ取ってくれました。裁判長も『今回の事例は、斟酌そのものです。それ以外の言葉は出ません』と言っていました」(母親)

 口外禁止についても提案されたが、沙織さんは拒否した。ストレス性の難聴になり、視力も弱くなった。その上、裁判の話もできないのは不服だったからだ。裁判所も最終的には沙織さんの気持ちに寄り添った。

  賠償金については結局「ゼロ」になった。母親は言う。

 「五年間病院に通い、付き添った私と本人の交通費を兄がバイト代から捻出して、出してくれた分を請求しました。これからも病院に通わなければいけない。心配してくれるお兄ちゃんに申し訳ないと思ったから請求した。でも被告側に断られました。すると、沙織は『あんな人たちから一銭ももらいたくない』と思うようになりました。和解が成立して、沙織は『あ、終わった!』とつぶやきました。裁判をして、心が強くなったように見えました。私の方がまだ引きずっています」

 裁判を終えた沙織さんはこう話した。

 「裁判の最中は苦しかった。過去の辛いことを思い出さないといけないから。でも結局、(元担任は)謝ってくれなかった。(元担任の証言を聞いていても)何を言っているんだろう、大人ってずるいなと思った。ただ、裁判をしたことで何かをしてみようとは思えた。中学には行けていないけど、高校には行きたい」

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