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中国はなぜ東芝メモリを買いたかったのか 世界の半導体企業〝爆買い〟後の新戦略 - 湯之上隆 (微細加工研究所所長)

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 中国の武漢にあるXMCは、2020年までに240億ドルを投じて月12インチウエハで月産30万枚の3次元NANDフラッシュメモリの大工場を建設中である。XMCは紫光集団の傘下に入り、2030年までに月産100万枚の規模に工場を拡張する計画を発表した。

 その紫光集団は、東芝メモリの1次入札前に2.4兆円の買収金額を準備したと報じられた。しかし、日本政府が外為法違反を持ち出してきて、中国や台湾に業による東芝メモリの買収を阻止する意向を見せたため、紫光集団は応札を取りやめた。

 紫光集団の趙偉国董事長は、「市場経済を標榜しながら、実際はこれに制限を加えている国家がある」と日本政府を批判し、東芝メモリへの出資は「入札価格を引き上げる道具にされるだけだ。エネルギーを無駄にする価値はない」と切り捨てた。その上で、「中国(の半導体)が世界に追いつくのは時間の問題だ」と自信を見せ、いずれ中国が世界のトップになることを言外に匂わせた(日経新聞4月25日)。

 なぜ中国は、半導体に注力するのか? また、デジタル家電、液晶、太陽電池などは、中国が猛威を振るっている。にもかかわらず、これまで中国の半導体が鳴かず飛ばずだったのはなぜか? そして、低空飛行を続けてきた中国半導体産業は、今後、どのようになると予測されるか?

中国の紫光集団のとんでもない半導体計画

 紫光集団傘下のXMCが3次元NANDに参入し、着々と立ち上げを進めている。しかし、XMCは紫光集団が計画している半導体計画の氷山の一角に過ぎない。米半導体業界誌の吉田順子記者によれば、紫光集団は2020年までに、以下の半導体工場を建設する予定である。

①武漢のXMCに、240億ドルを投じて、月産30万枚の3次元NAND工場を建設する
(この工場は、2030年までに月産100万枚に拡張すると発表している)
②南京に、300億ドルを投じて、月産30万枚のDRAMまたは3次元NAND工場を建設する
③成都に、280億ドルを投じて、月産50万枚のファンドリーを建設する
 (ファンドリーとは、半導体製造専門の工場のことである)

 これらを合計すると、紫光集団は、2020年までに、820億ドルを投じて、月産110万枚の半導体工場を建設するということになる。

 これがどれほどとんでもない計画であるかは、台湾TSMCと比較すれば一目瞭然である。1987年にモリス・チャンCEOが設立したTSMCは、その後30年で世界最大最強のファンドリーに成長した。毎年1兆円規模の投資を行い、約40%の営業利益率を叩きだすTSMCは、世界のファンドリービジネスの60%を独占し、近年は微細加工技術でもインテルを凌ぐ勢いである。

 そのTSMCは、43,591人(14年末時点)の社員がおり、12インチウエハ換算で月産75万枚の生産キャパシティがあり、半導体売上高は1位インテル、2位サムスン電子に次ぐ3位が定位置となっている。

 ここで、紫光集団が成都に建設する予定のファンドリーに目を向けてみよう。2020年までに月産50万枚規模のキャパを建設すると言うことであるが、これは、TSMCが30年かけて築き上げてきたキャパ75万枚の2/3に相当する。それを紫光集団は僅か数年で構築すると言っているのである。

 TSMCは、75万枚のキャパを43,591人で運営している。全員が技術者という訳ではないが、数万人の技術者(それも飛び切り優秀な人材)が在籍しているのは間違いない。紫光集団はそのような数万人規模の技術者を何処から連れてくるのだろうか? 

 つまり、紫光集団の計画はおよそ常識では考えられない暴挙に見える。しかし、その計画は、中国国家が承認した文書に明確に記載されているのである。そして、その背後には中国が設立した18兆円に上るIC基金の存在がある。計画経済の国である中国は、本当に、暴挙とも思える計画を実現しようとしている。なぜ、中国は暴挙と思えるほどの計画を遂行するのか?

「世界の工場」となった中国のお寒い半導体事情

 21世紀に入って、中国は「世界の工場」となった。台湾に本社があるホンハイが、中国に100万人を擁する製造工場を構築した。その結果、スマホ、PC、薄型テレビをはじめとする各種デジタル家電など、もはや中国のホンハイなしに、電機製品を世界に供給することは不可能になった。

 これら電機製品を製造するためには、大量の半導体が必要となる。そのため、中国には世界で生産された半導体が雪崩れ込んできている。図1は、地域別の半導体市場の推移を示しているが、2000年のITバブル崩壊以降、日米欧などの先進国の半導体市場が停滞しているのに対して、アジアの半導体市場が急拡大している。その中で中国だけを抜き出してグラフ(赤線)を書いてみると、2013年で既に、800億ドルを超えており、世界の半導体市場の3割が中国で消費されていることが分かる。そして2016年には、中国市場は世界半導体の50%以上を占めるに至った。つまり、中国は、世界最大の半導体消費国になったのだ。


 ところが、図2に示したように、中国で生産されている半導体の規模は小さい。2014年時点では、中国が必要とする980億ドルの半導体の内、自国で生産できているのはわずか125億ドルに過ぎず、その自給率はたったの12.8%しかない。


 現在、中国では、貿易赤字の最大の元凶が、石油に代わって半導体になった。つまり、中国では大量の半導体が必要であるにもかかわらず、半導体生産が低調で、輸入に頼り切っているのが現実なのだ。

中国最大のファンドリーSMICの状況

 半導体の生産工程は、シリコンウエハ上に半導体チップをつくり込む前工程と、そのチップを切り出してパッケージングする後工程に分けられる。

 中国が半導体を自給できない最大の理由は、前工程の不振にある。そのために、ファンドリーの成長が芳しくなく、またXMCが登場するまでメモリメーカーは1社も無かった。なぜ中国は前工程が不振なのかを探るために、中国を代表するファンドリーSMICの状況を見てみよう。

 SMICは、地元銀行のほか米国、台湾、香港などの投資銀行やベンチャーキャピタルが出資して、2000年4月に設立された。2002年に、初代社長兼CEOの張汝京は、4~5年間で約1兆円を投資するという爆弾発言を行った。この投資額は、2002年当時で、台湾TSMCの約5倍、韓国サムスン電子の4倍に近い。日本は大手12社の合計が6250億円であったことを考えれば、この投資額が如何に桁外れのものだったが分かるだろう。

 もし、張汝京が描いたシナリオ通りにSMICが成長したら、上海が半導体王国になっていたはずである。アナリストの南川明氏は「半導体業界の台風の目となる」とコメントした。

 ところが、現実はそうならなかった。SMICの四半期ごとの業績を見てみると、1兆円を投資して劇的に売上高が伸びたようには見えない(図3)。それどころか、2005年以降、赤字の低空飛行を続け、2010年にやっとわずかに黒字計上できた有様である。また、ファンドリーのランキングを見ても、TSMC、UMC、Charteredに迫る気配はなく、2009年に設立されたグローバル・ファンドリーにも抜かれてしまった。


なぜ中国の半導体産業はパッとしないのか

 このように中国の半導体産業を概観してみると、PC、スマホ、各種デジタル家電が世界を席巻しているのと比べると、中国の半導体産業は“おとなしい”とすら思えるほどの低調ぶりだった。

 これはなぜなのか?中国に半導体が根付かない深刻な問題があるのではないだろうか?

 筆者は、2007年に、世界一周調査旅行を行った。その際、SMICを訪問した。たった1回ではあるが、その時わかったことから、上記問題を分析してみたい。

 SMICを訪問して、最も大きな違和感を持ったのは、マネージャーは台湾人、技術者のほとんどが日本人だったことだ。中国人の技術者はまったくと言っていいほどいなかった。日本人の技術者に、「なぜ、中国人の技術者がいないのか?」ということを聞いてみた。その結果、以下のような回答を得た。

 「第一に、中国人は、家族と少数の親友しか信頼しない。会社に対する忠誠心もなければ、グループに対する協調性もない。半導体の開発や製造には、数十人~百数十人規模のチームワークが必要となる。しかし、中国人は個人主義的であり、チームの中で協力し合って仕事をすることができない」

 「第二に、中国人には、何か判断が必要となるような仕事を任せることができない。なぜならば、中国人は、判断する際、もっとも安易な(楽な?)選択をするからだ。簡単に言えば、彼らは、“さぼる”からだ。たとえば、製造ラインのある製造装置で、プロセス開発をさせるとする。日本人の普通の技術者が10枚くらいのウエハを使って条件だしをするところを、中国人は1枚か2枚で終わりにしてしまう。そのプロセスを使って量産ロットを処理すると、瞬く間に不良の山を築くことになる。はっきり言って、中国人はズサンなのだ。したがって、この製品ロットがこの製造装置に仕掛ったら、このレシピを実行せよというように、判断の余地がない単純な仕事しか、中国人には任せられない」

 「第三に、それでも根気強く、技術開発のやり方を教えたとする。少しできるようになったかなと思うと、中国人は、もっと給料のよさそうな会社を見つけてきて、さっさと辞めていってしまう。義理人情も何もあったもんじゃない」

 結局、SMICの日本人技術者が語ったことによれば、5年ほどSMICに在籍していたにもかかわらず、その間、中国人の技術者は、まったくと言っていいほど育たなかったということである。

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