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大学無償化について思うこと

大学の費用を公費負担とすべきかどうかについて、基本的な整理から私の考えを述べます。

まず、大学に行くことの個人的なメリット・デメリットを考えてみます。

A.収入の高い仕事に就くことができる

これは「大卒の給与は高くする」という制度があるわけではなく、統計的に大卒の給与が高い傾向にある、ということです。普通に就職した場合は、大卒のほうが圧倒的に生涯所得が高くなる率が高いです。

B.大学に費用がかかる(機会費用含む)

大学に収める学費、交通費や下宿代、教材費など直接費用も高いですけど、同じくらい大きな費用は「4年間働いていたら稼げたはずの賃金が稼げない」という機会費用ですね。もっとも、公費負担するのは直接費用の部分だけでしょうから、機会費用は無償化がなされたあとでも「自費」になります。

C.生活をより深く楽しむための教養が身につく

知識・教養の高い人は、同じ体験をしてもより深い感銘を受けたり、平凡な日常から教訓を得たりします。これは人生を楽しむ上でかなりなメリットです。ただし、大学を出ても全くそんな感じでない大人はいますし、この手の教養は独学でも身につくものかもしれません。

D.就職時の年齢が高くなる

仮に高卒で就職すれば、18歳からそこそこの可処分所得があるのですが、大学生で同じ可処分所得を得られる人はまれです。人生は一度きりなので、20歳で思い切り遊べないのはデメリットです。晩婚・晩産も(大卒に限ったことではないけど)、健康面ではデメリットとなります。

以上をまとめると、Aは金銭的なメリット、Bは金銭的なデメリット、Cは非金銭的なメリット、Dは非金銭的なデメリットです。

CとDについては"生きがい"の部分であるし、その効果も価値判断の領域なので、政策で云々する話ではないですね。個人的には、全員がCを手に入れられるなら公費負担も(社会にその余裕があるなら)悪くない気がします。

政策で問題とすべきなのは、AとBについてです。

まず、「高卒よりも大卒のほうが高収入である」が常に正しかったとしても、これは世の中に高卒と大卒がいる場合の比較にすぎないので、全員が大卒になったら大学のメリットはありません。

そうではなく、「高卒より大卒のほうがたくさんの付加価値を産む」、つまり優れた人材となる場合は社会全体の生産性が上がるので、一考の価値があります。ただしこの場合でも、社会全体でA>Bとなることが必要です。

しかし、大学教育に生産性を高める効果はないというのが定説だそうです。

仮に個人単位でもA<Bだとするとこれはかなり悲惨な話で、税金を投入して多くの人の人生を4年間浪費し、しかもその大学産業に大量の人的資源を費やすことになってしまいます。

そして少なくとも社会全体でA>Bが紛れもなく成り立つ、という実証はないでしょう。

なぜこんな危険な賭けを日本社会は(というか政治家は)提言するようになったのでしょうか?実は私たちは、この賭けに乗らなければいけない心理的な圧迫を受けてるのではないでしょうか。

我々は、「お金が足りないために諦めなければならない」ことについて、情緒的に反応しがちです。お金さえあればできたのにできなかった、というのは理不尽に感じてしまうのです。

しかしそれは言い換えると、「限りあるお金をより重要なものに使っている」ことでもあります。借金のリスクを避けて持ち金だけでできることをするのも、その人の選択としては正しいのです。

高卒で働いて賃金を稼ぐ(機会費用を得る)ことも、「人生の限りある時間をお金に換えた」ことであって、決して非難すべきことではありません。むしろ、人のお金で大学に行き、目的意識もなく無為に4年間を過ごすほうが非難されるべきことです。

「お金さえあれば全員大学に行った方がよい」とも言えないし、まして今すぐお金の欲しい人に「学費を出すから、4年後には必ず高所得が得られるから」と言って大学に行くよう仕向けるのは詐欺的だと思います。

いや、大学に行って効果のある人だけに税金を投入するんだ、そうでないと思う人は辞退すればいいんだ、という人もいます。しかしそれは公平な制度といえるのでしょうか。もし公平性を重んじるなら、辞退者にも同額の現金をあげるべきとは思いませんか? 大学に行きたくない人には何もナシ、行きたい人には多額の税金を投入する、こんな制度が認められていいのでしょうか。

現在でも特別に優秀な人には学費免除や無償奨学金の制度があります。また、大学運営には補助金が国から下りています。これに加えて、進学者全員の学費を税金で肩代わりするのはかなり偏った制度だと私は思います。

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