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「産後クライシスは夫婦が機能しているサイン」育児ジャーナリスト・おおたとしまさ氏に聞く、夫婦喧嘩の作法

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子供が生まれると、夫婦の関係性がガラッと変わってしまう——。これは筆者が実際に経験したことでもあるが、子供が最優先の生活が始まると、夫婦間のちょっとしたすれ違いが頻繁に起こるようになる。そのような時期の夫婦関係を上手に維持するためにはどんなことに気をつければいいのだろうか。

パートナーを大事にするコツや、近年話題になっている「産後クライシス」報道の問題点について、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏に話を聞いた。

BLOGOS編集部

—— 個人的なことですが、昨年子供が生まれて、新米の父親になりました。子供が生まれてまずビックリしたのが、SNSに遊んでいる写真をアップしたところ、ある男性から「子供はどうしたの?」とコメントされたことだったんです。父親になると周囲からそんな風に見られるようになるんだと。

おおたとしまさ(以下、おおた):おめでとうございます。でもそれは完全に余計なお世話ですよね(笑)。育児もせず、毎日飲み歩くような人はもちろんよくないですが、夫婦できちんと話をしてお互いの時間を作っているとしたら、それはむしろ歓迎されるべきことですから。

—— 実際に育児をやってみると、育児休暇を取り、家事も仕事もバリバリやって…というような父親になるのは難しいということがわかります。

おおた:それでも「イクメン」という言葉がもてはやされた時期にくらべれば、いわゆる「理想の父親像」というものの要求レベルは下がってきていると思います。以前はおっしゃるようなどう考えても現実的じゃない父親像がカッコイイとされていましたから。今は「男性学」の田中俊之先生みたいなアカデミックな背景を持っている方が、「それは難しいんじゃないの」というようなことを言ってくれるようになった。それに女性の目線も優しくなってきていますよね。

また現在では「イクメン」批判も増えてきています。女性にしてみれば「お宅の旦那はイクメンでいいわよね」と言われると、自分がラクをしているように感じてしまう。ところが母親も自分のことをそこまで客観視していないので、「このくらいでやったつもりになってるの」とつい夫を責めてしまうんですね。

—— 最近では積極的に子育て支援をする管理職を指す「イクボス」という言葉もありますね。

おおた:結局、女性から男性、男性から中間管理職へと育児の大変さを押しつけあっているだけなんですよね。元々は女性が活躍する社会がいいと言われていて、働きながら子育てをする母親が崇拝されていたんです。でも普通の人にはなかなか実現できるものではなかったので、「夫にも子育てに参加してもらおう」という話になり、「イクメン」という言葉が登場した。ところが男性にしたって、フルタイムで働きながら家事や育児をすることは大変なわけです。そこで今度は「イクボス」という言葉ができた。中間管理職が部下の育児や家事を支援するというのはいいことだと思いますが、その分の人員補強がないのに成果は同じように求められるのだとしたら、この取り組みもいずれ難しくなってくると思います。

BLOGOS編集部

男性の育休取得にこだわる必要はない

—— 最近では行政も男性の育休取得率を上げるために躍起になっています。目標は2020年度に13%の取得率だと言われていますが、数字はなかなか上がってきていません。

おおた:男性も育休を取れるようになるのはいいことですが、目標達成のために無理に数字を作るような事態は避けなければいけません。男性の育休取得率アップだけを考えるなら、本当に短い期間、たとえば1週間や1日だけ取らせればいい。男性の育休取得率100%というような企業ではこういった本末転倒なことが実際に行われています。企業のイメージ戦略といえばそれまでですが、本質的ではありませんよね。

—— 1日や1週間といった短い期間の育休では、奥さんをサポートすることさえも難しい気がします。

おおた:奥さんをサポートするという目的であれば、育休にこだわる必要はないんです。育休を取るよりも、毎日定時に上がって、食事の準備をしてくれたり、赤ちゃんをお風呂に入れてくれる方が嬉しいという方はたくさんいます。産後、不慣れな育児を頑張る奥さんにとって一番怖いのは孤独ですから、旦那さんがいつでも家族のことを考えてくれていれば、奥さんも頑張れます。孤独感を感じてしまうと旦那さんにも不信感を持ってしまいますし、そうなると頑張れませんよね。

男性が奥さんをサポートするべきタイミングはいくつかあって、1つは産後すぐ。この時期は体調的にも精神的にも本当に大変なので、1ヶ月程度休みを取ってサポートしてあげるのが理想ですが、里帰り出産やご両親に来てもらうというやり方を取る方もいます。

もう1つは奥さんが職場復帰をするタイミング。この時期から子供を保育園に預ける方も多いのですが、子供が慣れるまでは後ろ髪を引かれるような思いで保育園に預けることになりますし、何かあればすぐ呼び出しがかかります。奥さん自身も職場では浦島太郎状態で大変ですから、休みは取れないにしても、お父さんの方が定時で上がれるように仕事をセーブして、「呼び出しは自分が行く」と決めてしまうといいと思います。自分自身にも負荷がかかっている奥さんにイレギュラー対応までさせてしまうと、「両立なんてムリ!」となってしまうのは容易に想像できますよね。

—— 夫婦ともにフルタイム勤務だと、保育園のお迎えは課題になりますよね。

おおた:よくあるケースとして、夫婦共働きで両方ともフルタイム勤務だったりすると、つい「対応できる方が対応しよう」という方針を立ててしまうんです。そうすると毎回「どっちが忙しいか競争」が起こって「この前だって私が行ったでしょ」というやりとりから喧嘩になってしまう。そうならないように、1ヶ月単位でも半年単位でもいいから、「この期間は俺が見る、この期間は私が見る」というふうに主従を決めておく。そうするといちいちストレスの溜まる議論をしなくて済みます。無理をして平等にするのではなく、不平等な状態をバランスよく割り振ることが大切です。

「産後クライシス」は夫婦が機能しているサイン

—— 近年、産後すぐの夫の行動が将来の離婚に繋がる「産後クライシス」という言葉が取り上げられることが多いですよね。これを恐れている男性も多いのではないでしょうか。

おおた:「産後クライシスが離婚の原因」だと言われれば確かに怖いですよね。でもよく考えてみると、2人だけで楽しく暮らしていたところに大きな責任とともに子供が増えれば、人間関係に影響が出るのは当たり前なんです。子供が生まれてから夫婦が不仲になる現象を「産後クライシス」と名付けてパッケージ化したことは、話がしやすくなったという意味では大発明だったと思います。

しかし、一面的なデータ分析を元にした報道によって、産後クライシスの犯人捜しが始まり、「男が悪い」という結論になってしまった。結果、男と女の不毛な闘いを煽っただけだったんですよね。その点は「産後クライシス」という言葉が与えた負の影響だといえるでしょう。

—— 産後クライシスはありふれた現象だとして、それに直面した夫婦はどのように対処すればいいと思いますか。

おおた:必然的に起こるものだとすれば、夫婦で力を合わせて乗り越えて行くしかありません。子供が思春期を経験して大人になるように、夫婦は産後クライシスというやっかいな時期を乗り越えることで家族として成長することができます。子育ては生まれて初めて経験することの連続ですから、対立が起こったり、喧嘩が増えるのはやむを得ません。それをネガティブにとらえて「喧嘩はやめましょう」と小学生みたいなことをいうのではなく、お互いを理解するための課題として、前向きに捉えることが大事です。

産後クライシスに限らず、子供の成長やライフイベントが起こるたび、家族の関係は常に変動します。夫婦の衝突が起こったり、セックスレスになるのは当たり前。そういう意味では、産後クライシスは一種の成長痛であり、夫婦がちゃんと機能しているサインであるともいえます。産後クライシスも乗り越えていけるものなんだと知っておけば、必要以上に怖がらなくて済むと思いますよ。

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