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<メルカリの実態>2017年は「ネットメディアの正体バレた元年」か

藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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スマホを利用して手軽に個人売買できるフリマアプリ「メルカリ」の不正・不適切出品騒動。「メルカリ」と言えば、以前から、ありえない出品(ゴミや拾った不要物、明らかなジョーク出品を含め)や利用者のマナーの悪さなどが話題になっていたが、現金や領収書の出品といった限りなくグレーに近いブラックな状態が露見したことで、ようやくその存在が社会的な関心となった。

メルカリ騒動に限らず、近年、ネットメディア利用から発火する良識の欠如をベースにした社会問題/不正行為は多い。最近でも「DeNAキュレーションサイト騒動」や「Youtuberチェーンソー襲撃事件」「クックバッド蜂蜜入り離乳食レシピ問題」など枚挙にいとまがない。

いづれも、ネットメディアのあり方が社会問題へと発展した事例だ。そして、それら続発するネットメディア利用(者)を苗床にした、メルカリ騒動を含めた一連の社会問題には、2つの共通点があることに気づかされる。

まず1つ目が、それら事件や問題が、良識の欠如した幼稚で、バカげた行為による騒動ばかりである、ということだ。従来であれば、客観的に考えれば誰もやらないことをやってしまい事件化する、そんな状態だ。

そして2つ目が、事件や騒動が、スマホやネットメディアという近年急速に普及したメディア環境の中で生みだされた「新しい問題」のように見えて/見せているが、実態は、その多くが従来から存在している古典的な違法行為や不正行為に過ぎない、という事実である。

例えば、メルカリ騒動の発端にもなった額面より高い金額で1万円札を出品し、それをクレジットカードのショッピング枠で購入させることで、瞬間的な現金の送金を可能にする仕組み。これなどは従来からある(そしてクレジットカードの利用規約には反する)「ショッピング枠現金化」であり、古典的な手口だ。

つまり、使い古された今時の一般リアル社会ではおよそ成立しない不正がメルカリで再利用されていた、というわけだ。同様にメルカリで多発している「領収書の出品」による事実上の「脱税幇助」についても、架空請求、経費捏造を含め、決して新しくはない不正である。

DeNAキュレーションサイトの問題も、「キュレーションサイト」「キュレーションメディア」といった目新しいネットおしゃれ用語を使い目くらましはしているが、結局はただの違法アングラサイト、無許可コピペサイトの再現でしかない。運営者だってそれはわかっていたはずだ。

違法なコピーや無許可転載は、インターネット黎明期から続く最も古典的な違法・不正行為だ。元を正せば、インターネットが普及する以前のパソコン通信時代から続く古い文化であり、知らなかったとは言えない。

自称Youtuberによるチェーンソー襲撃事件なども、容疑者のキャラクターを含めたバカレベルのインパクトこそ大きかった、突き詰めれば「ネットに悪口を書き込まれたくなければ、言うこと聞け!」の拡大版でしかない。

【参考】<チェーンソーYouTuber>メディアを勘違いした「SNSバカ」たちの狂騒

匿名掲示板やSNSなどの普及とともに、不満があればすぐに「ネットに書き込む」ことで、攻撃力・抑止力を高めようとする手法、ターゲットに対していわゆるグーグル汚染、SNS汚染をチラつかせることで発揮させる脅迫や示威行為だってもはや伝統芸能だ。

乳幼児にはタブーとされるはちみつを生後6ヶ月の男児に食べさせたことで死に至った事件を受け、「はちみつ入り離乳食レシピ」を配信していた大手レシピサイト「クックパッド」への批判が展開した問題も同様である。問題本質は、ネットだから起きた騒動なのではなく、クックパッドが単に、PV(アクセス数)を稼ぐためだけに、「曖昧な知識と、いいかげんな管理体制」でメディアやプラットフォームを運営していた、というだけだ。利益ばかりを追及したがためにチェック機能を麻痺させてしまった企業が起こす問題は昔から多い。

つまり、今日「ネットの問題」とされていることの多くが、近年のメディア環境や価値観の多様化によって登場した新しい問題・・・などではないのだ。

もちろん、いわゆる「ネット民」などによる過剰な騒ぎ立て、あるいは炎上を誘導するような着火行為、延焼活動が騒ぎを深化させたり大きくさせたりする、という現象は今日的で新しいことかもしれない。それらに限ればネット社会、SNS社会特有の生態ではあるかもしれないが、そのネタになっている問題自体は、決して目新しいものではなく、むしろ古典的なまでに古いものばかりだ。

このような錯覚をおこさせてしまう背景にあるのは、ネット新造語を駆使し、スマホやアプリといったITデバイスやネット環境を使えば、古い手法の再利用でも途端に新しさを感じさせることのできる「デジタルマジック」だ。幼稚なデジタルマジックにハマってしまう大人は想像以上に多い。

しかしながら、DeNAのキュレーションサイト騒動以降、急激にネットメディア業界に自浄作用が生まれつつある。利用者の側の見識を含めたリテラシー能力が、騒動を契機をとして止むを得ず高まっているからだ。まさに怪我の功名だ。

署名のない記事や客観性の乏しい媒体によるニュース配信、明らかに切り貼りや引用(コピペ)だけで構成された信頼性の薄いコンテンツ、出自不詳の情報に対して「間違っている可能性がある」といった認識を持ったり、「ソースはどこだろう?」といった裏どりをしようとする利用者の良識も急速に高まっている。

これまで、規制やルールが曖昧だった上に、「しょせん、ネットですから」という感覚が、甘さを生み、判断基準をみぶらせ、利用者・消費者のリテラシー能力も涵養させてこなかった。その結果、ネットメディアは「質よりも量」を基本に、個人も法人も「PV至上主義」に突き進んできたことは否めない。

しかし、最近の利用者たちのリテラシー能力と要求水準の高まりが、大手ネットメディアを中心に急速に危機管理意識とクオリティ管理の向上を推し進めている。カオス状態がネット魅力という面から見れば残念な傾向かもしれないが、ネットメディアがもはや「主要メディアの1つ」になった今日、これは不可避な流れだろう。

その中で、ここ数年で急速に成長を遂げたネットメディアが、一体何であったのか、といういわば「ネットメディアの正体」も最近になり徐々に明らかになりつつある。そして、その多くが古典的な手法の焼き直しや再利用でしかない、いささか虚しい「正体」である可能性も見え隠れしている。

もし、テレビを中心とした巨大な既存メディアが、そんな瑣末な化石の再利用を仮想敵にして、「黒船来襲!」とファイティングポーズを続けているのだとすれば、メディア学者としては「本当の黒船はソコではないですよ」と耳打ちしてあげたい気分だ。

いずれにせよ、2017年という年は、ネットメディアの問題が多発した年ではなく、むしろ「ネットメディアの正体バレた元年」になるような気がしてならない。2017年もそろそろ半分を迎えるが、これから年末に向けた後半戦で、続々と「正体がバレる」ような問題は多発するのだろうから。

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