記事

就業「圧力」とでも言うべきもの

 近年の就職事情を表すために、3つのキーワードを考えてみたいと思います。一つは「就業機会」これは説明するまでもありませんね。就業する機会(求人数、採用数)の多寡はもちろん、就職事情を大きく左右するものです。そして就業機会に対比されるものとして、就業しようとする人の数も考慮されます。一口に言えば「就業需要」とでも言ったところでしょうか。就業の「ニーズ」、就業する必要性の度合いもまた大きく関わってくるわけです。これに加えて「就業圧力」みたいなものもあるように思います。つまり、「仕事に就きなさい」という社会的な圧力の存在もまた、就職事情に影響しているはずです。

 そして不況が続く中ではまず、「就業機会」が減少します。では仕事に就かなければ、という「就業需要」や「就業圧力」はどうでしょう。「就業機会」<「就業需要」の場合、就職する必要性に迫られているけれど、就職する機会がないためにあぶれる人が続出することになります。そして「就業機会」<「就業圧力」の場合、就職しなさいと周囲から迫られているけれど、就職する機会がない人が世間に溢れることになるわけです。「就業需要」と「就業圧力」、この両者の違いを念頭に置いて、今の状況はどのようなものなのかを考えていただければと思います。

・就業機会――職に就くチャンスの多寡、椅子が用意されているかどうか
・就業需要――職に就いて給与所得を得るという必要性の度合い
・就業圧力――職に就かなければならない、という周囲(世間)の圧力

 就業需要は、増えているのでしょうか、それとも減っているのでしょうか。昨今の就職難を聞かされるに需要が供給(=求人)を上回っている、つまりは就業需要が増えているように見えるところもありそうです。ただ、配偶者なり子供なり、あるいは老親なり養わなければならない家族がいて資産もないとなればともかく、独身で健康、両親も健在という若者(新卒者)の大多数にとって、本当にそこまでして就職する必要性があるのか、その辺は疑問に感じないでもありません。若いうちは、もっと好きなことをしていた方がいいんじゃないかというのは私見であるにせよ、無理に働かなくても当面は平気でしょ、と思うわけです。

 そこで注目してほしいのが「就業圧力」の方なのです。就職できない新卒者や定職に就いていない若者、あるいは夫の稼ぎで暮らす専業主婦に対する世間の目線を考えてください。そういった人々が働く(給与所得を得る)必要性に迫られているとは限らないはずですが、にもかかわらず「働け」という周囲の圧力は少なからず存在しているのではないでしょうか。職に就いていないと白眼視される、若い内から切れ目なく働いておかないと社会不適合社として将来の就業機会を奪われる等々、給与所得を得る必要からではなく、世間の非難をかわすという目的から職に就こうとする人々もまた多いものと推測されます。

 学校を出たら即、就職するが当たり前という「常識」の元で就職活動に打ち込む人々の中の、果たしてどれほどが「就業需要」から行動しているのでしょうか。むしろ就職しておかないと人生の落伍者になるという恐怖、「就業圧力」に押されての就職活動になっているようにも思うわけです。「外で」働いているのが正しいことで、「外で」働いていないのは正されるべきこと、みたいな文化が就職活動を加熱させているところもあって、それは偏に「就業機会」の減少によるものだけではないでしょう。

 本当に給与所得を得る必要性のある人だけが就職しようとしているのなら、昨今ほどの異常な超・買い手市場にはならないはずです。しかるに「就業圧力」の強さ故に、直ちに給与所得を得る必要性のない人までもが就職戦線に殺到、熾烈な椅子の奪い合いが繰り広げられるようになってはいないでしょうか。採用する企業側からすれば、自分の立場が強くなるだけでいいことずくめなのかも知れません。しかし、この結果として「働く必要性はないのに仕事に縛り付けられる若者」や「何とかして稼がなければいけないのに仕事を得られない人」が出てくるわけです。こうした「ゆがみ」を是正するのが政治の役目ですが……

 たとえば雇用関係の規制緩和で統計上は雇用が増えた、すなわち「就業機会」が増えました。しかるに、増えたのは非正規ばっかりです。非正規でも正規雇用の新入社員と同じくらいの手取りは得られるケースも多いだけに、当座の糧にはなるのかも知れません。ところが非正規ですと、就業していても世間からは低く見られたり、正規雇用への移行は年を追うほどに絶望的になっていったりするものです(そしてトウが立ったら首を切られる、と)。必然的に、正規雇用に就かねばならないという「就業圧力」も高まるのですが、非正規雇用が増えた分だけ正規雇用は置き換えられてゆきますので、ますますもって椅子の取り合いは激化してきたのが失われた十数年というわけです。

 結局のところ「就業機会」を増やすのは経済成長であって、規制緩和で見せかけ上の雇用を増やしても就職事情は改善されないどころか悪化してしまいます。だから経済成長を進めるのは当然として(それができていないのがこの十数年なのですが)「就業圧力」を和らげるための対策も必要なのではないでしょうか。若い内は定職に就かず遊び歩いていても良い、親が定年を迎えたり子供ができたりとか、ある程度まで年をとってからでも新たに安定した仕事に就ける、そういう環境作りもまた必要であるように思います。若者を会社に縛り付ける代わりに遊ばせておけば、「若くなくなった」人が会社に入るチャンスも増えます。そっちの方が両世代どちらにとっても好都合ですから。まぁ、買い手市場が維持できなくなるのが嫌な人も多いのかも知れませんし、近年の「改革」とは真逆の方向性ではありますけれど。

トピックス

ランキング

  1. 1

    保育士を見下す堀江氏のさもしさ

    赤木智弘

  2. 2

    2chの賠償金 ひろゆき氏が告白

    西村博之/ひろゆき

  3. 3

    ネトウヨが保守論壇をダメにした

    文春オンライン

  4. 4

    白票・棄権票が持つ大きな意味

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  5. 5

    投票率は? 前回が戦後最低52.66%

    THE PAGE

  6. 6

    大混乱を未然に防いだ小池都政

    上山信一

  7. 7

    売春島と呼ばれた渡鹿野島はいま

    文春オンライン

  8. 8

    ネトウヨによる保守のビジネス化

    文春オンライン

  9. 9

    辻元氏 米は他国民を救出しない

    辻元清美

  10. 10

    日本の中枢に浸透する人種主義

    保立道久

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。