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日本も負けてない

(ゆがむ事実:1)虚偽拡散、気づけば「真実」(朝日新聞)

 昨年の米大統領選で、トランプ旋風とともに全米に広がったフェイクニュース。「火付け役」の一人に会おうと、アリゾナ州フェニックスを訪ねた。男性は、半袖シャツ姿で待ち合わせ場所のレストランに現れた。

 ポール・ホーナー(38)。株のネット取引などで稼ぐかたわら、abcnews.com.co▽cnn.com.de▽nbc.com.co――といった、大手メディアに似せたサイトを次々と開設。でっち上げのニュースを選挙序盤から発信した。

(中略)

 トランプが大統領選で勝利すると、米内外のメディアから取材が殺到。「トランプをホワイトハウスに入れた男」などと報じられた。だが、ホーナーは「俺はトランプが嫌いだ。後押しするつもりはなかった」と主張する。

 では、なぜフェイクを広めたのか。自らの発信を「Artwork(芸術作品)」と言うホーナーに動機を聞くと、「トランプの言葉をうのみにする人も批判するメディアも、自分たちの信じたいことのみを受け入れ、伝えている。何が真実なのか、みんなに突き詰めてほしかった」。

 ホーナーは発信後に「実はフェイクだ」と明かしたこともあったという。だが、「一度本当だと信じた人の考えを変えることはできなかった」と振り返る。

 さて偽ニュースを流してヒラリー陣営のネガキャンに努めていた人がいたわけですが、殺到する取材に恐ろしくなったのか、苦しい言い訳に努めている様子が伝えられています。日本の政治家が言うところの「誤解を招いた」「真意が伝わらなかった」みたいなものですね。もちろん、問題視されてからの釈明に真実など微塵もあろうはずはなく、日本でもアメリカでも真意が伝わったからこそ世間で大きく取り上げられるのです。このホーナー氏が(相対的にではあれ)トランプ支持であることに疑いの余地はないでしょう。

 本人の言い訳はさておき、「実はフェイクだ」と明かしても「一度本当だと信じた人の考えを変えることはできなかった」とのコメントは聞くべき価値があるかも知れません。日頃からブログやTwitter、2ちゃんねる等々でデマの発信に努めている人も多いと思いますが、自分の発言(デマ)が拡散して自分の手の届かないところまで行ってしまう、そんなリスクは考えた方が良いのではないでしょうか。それが問題視されてから「何が真実なのか、みんなに突き詰めてほしかった」などと言い訳しても、それを信じる人などいないですので。

 往々にして、人は事実よりも信念で動くものです。どんなに事実を突きつけられようとも、そんなことは意に介さず自分の信じたいものを信じ続ける、これは珍しいことではありません、むしろ「普通の」こととすら言えます。史実をねじ曲げるために情熱を捧げる人もいれば、科学的根拠のない健康食品を愛用し続ける人もいる、とりわけ原発事故の後では事実を力強く無視してデマの発信に努め、「福島」がモノだけではなく人までも排除、差別されるよう努めてきた人がいたわけです。彼らの信じる世界観を否定する材料はいくらでもある、むしろ彼らの根拠には妄想しかないと言えますが、それでも多く人にとって信念は事実よりも重いのではないでしょうか。

 利益よりも理想を追い、全く成果の上がらない改革を追い求める政治家や財界人、財務官僚には枚挙にいとまがありません。誰しもが「モノ」よりも「こころ」を重視すると言いますか、現実的な利益よりも精神的な満足感を得られる方を選びがちではないでしょうか。それが虚構に過ぎなくとも、「そうあって欲しい」と願う気持ちの前では妄想と事実の境界は容易く揺らいでしまいます。「嘘も百回言えば真実になる」という言葉の起源には諸説ありますが、確かに嘘も百回言えば「真実として受け止められる」という実態はあるわけです。

 石原慎太郎を都知事に据えた日本は、トランプを大統領に選んだアメリカよりもずっと先を行っていると感じるところですが、そんな我が国では「安全」とは別個に「安心」が論議されていたりもします。そして「安全」が証明されても「安心」が得られていなければ物事を進めることが許されない、「安全」とは切り離された「安心」のためにコストを費やす社会でもあります。安全という「事実」が何ら力を持たない、そういう人が闊歩する社会なのです。そして根拠のない、妄想まみれの危険論が「真実」として少なからぬ人々の間で――時には政治家、首長にまで浸透していると言えます。アメリカの事例は対岸の火事どころか、日本でこそ症状が深く進行した問題ではないでしょうかね。

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