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北朝鮮の危険なゲームに挑むトランプ大統領

 20年ほど前、米ニューメキシコ州でキャンプファイアを前に北朝鮮の国連大使がある米国人に説明した。北朝鮮がどうして米軍を寄せ付けずにいられるかの理由についてだ。「わが国には脚を一本切り落とす覚悟があるが、米国には足の小指を切る覚悟しかない」

 トランプ大統領はそうした認識を変えようとしているようだ。

 トランプ氏は27日、ロイターとのインタビューで「北朝鮮と大きな衝突に発展する可能性がある」と述べた。他の米政府高官は、北朝鮮の金正恩党委員長を指導者にとどめておくかもしれない対話の可能性を模索している。しかし、トランプ大統領のこの発言には、核開発計画を進める北朝鮮に対し、依然として米国が軍事力を行使する可能性に含みを持たせている。

 一部の北朝鮮ウォッチャーは、その発言と北朝鮮という独裁国の瀬戸際外交に類似点を見出している。北朝鮮は数十年にわたって軍事衝突や人命の損失に関して、より強い耐性があるという認識を利用してきた。同国は外交交渉を有利にするために戦争になる可能性をちらつかせ、支援物資や安全保障を確保し、しばらくするとまた新たな脅迫サイクルに入る。

 北朝鮮は数分で韓国の首都ソウルに壊滅的な打撃を与える能力を持つ数百の砲兵部隊を韓国との国境付近に配備している。そのため、そうした脅迫は深刻に受け止められている。韓国の人口5000万人の半数、それに数千の米国の将兵や民間人がソウル首都圏に住んでいる。

 軍事衝突の公算を強め、米海軍の空母打撃群を北朝鮮近海に向かわせることで、トランプ大統領は自身がその公算を受け入れるだろうというメッセージを北朝鮮に伝えたいようだ。

 韓国の梨花女子大学校の紛争管理論センターに籍を置く交渉戦略の専門家、ジャスパー・キム氏は「これまでは北朝鮮の独壇場だった危険なゲームだが、今やトランプ大統領もこれに参加している」と指摘する。

 キム氏はトランプ大統領がそうしたアプローチをとる背景には、非常に大きなリスクを背負うことが多い不動産業での実績があるとみている。キム氏によると、北朝鮮は新たな核実験などで緊張をさらに高める可能性もあるが、米国の戦術を認識し、慎重に対応する公算も大きいという。

 北朝鮮が緊張の緩和に動く可能性を示唆する最近の前例もある。金正恩氏が権力を継承して3年が経った2015年、北朝鮮は韓国が国境付近で流している大音量の反北朝鮮プロパガンダ放送をやめなければ攻撃すると通告し、48時間の猶予を与えた。これに対し、韓国はその期限を無視し、攻撃されたら報復すると述べた。すると北朝鮮政府は協議を求め、その膠着状態は結局解決した。

 ティラーソン米国務長官は27日、北朝鮮が「核兵器放棄に向けた交渉に応じる」のであれば、直接対話の可能性もあると述べた。この発言は、金正恩政権に対し、今回の危機で出口を提示するための戦術だったのかもしれない。

 オーストラリアの「パースUSアジア・センター」の朝鮮半島情勢の専門家、ゴードン・フレーク氏は、このいちかばちかの戦術が奏功したとしても、筋の通った長期戦略の一環とは思えないと話す。

 トランプ氏は、北朝鮮からのミサイル攻撃から韓国を守るために配備されている米軍のミサイル迎撃システムに関して、韓国に費用負担を求めると発言した。フレーク氏はこれについて、そうしたメッセージは米国に対する同盟国の信頼を損なうものであり、韓国や日本といった国々は米国との同盟関係のヘッジを検討することになるだろうと述べた。

 その発言を受けて、昔から米国と韓国の同盟関係を弱めようとしてきた北朝鮮がつけあがる可能性もある。

 米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」で勤務していた1998年にキャンプファイアの前で北朝鮮の国連大使の話を聞いた前出の米国人フレーク氏は「あらゆる面でメッセージが食い違っている」と話した。

By Alastair Gale

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