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北朝鮮、米空母に打つ手なし

米海軍の空母カール・ビンソン

文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

北朝鮮の対艦攻撃能力は低く、米空母に手も足も出ない。

・最新鋭機持たぬ北朝鮮、空対艦ミサイルも無し。

・従って北朝鮮の反撃目標は韓国国内の米韓軍事基地となる。

■  米空母カールビンソン日本海へ

ようやく米空母カールビンソンが日本海に入る。今月初旬には「即座にインド洋から北朝鮮周辺に展開する」と発表されたものの、遅れて今月末となった。

到着以降、北朝鮮に圧力を掛けることになる。北がどれほど痛痒に感じるのか、そもそも危険視するのかはともかく。少なくとも北や国際社会に米国の封じ込めの意思を示すものとなるだろう。

この米空母機動部隊に対し、北朝鮮は対抗できるのだろうか?

北は空母機動部隊には手も足もでない。対抗するとしても陸上での停戦ラインを越えた銃砲撃、あるいは弾道弾の発射試験や核実験に限定される。

なぜなら、北朝鮮の対艦攻撃能力は低いためだ。北朝鮮は航空機、艦艇、潜水艦といったいずれの攻撃手段でも米空母を傷つけることはできない。攻撃しても戦力を消耗させる結果に終わる。

■ 航空攻撃は通用しない

まず、北朝鮮による航空攻撃は行われない。これは戦力として通用しないだけではなく、それにより北朝鮮はなけなしの防空戦力を失うだけだからだ。

北朝鮮空軍は最新鋭機を保有していない。『ミリタリー・バランス 2016』によれば戦闘機等を545機保有しているが、ほぼ旧式機である。例外は18機+のMig-29だけ、足してもMig-23を56機程度だ。対地攻撃機のSu-25を34機のぞけば、残りは旧式のMig-21やそれ以前の機体である。

すべてを可動状態に持っていくのは難しいが、仮にこのMig-29と23を一挙投入しても米空母に有効打は与えられない。米空母側の迎撃戦闘機やイージス防空システムを突破できないからだ。もともと後者は5分間に200発の対艦ミサイル同時攻撃に耐えられるように整備されたシステムであり、その後も性能向上は続いている。

そもそも北が空対艦ミサイルを保有している話はない。まずは短射程の対地攻撃用ミサイルか爆弾で攻撃しなければならない。一応だが新型の艦対艦ミサイルができた話がある。目視照準ならこれは戦闘機に積んで発射できるが、イージス側の防空ミサイルの射程内に入る必要がある点で大差はない。

唯一の手段は新旧あわせて545機すべてを一挙に投入する手法だ。あまり期待はできないが、うまくすればイージスシステムを飽和させられるかもしれない。

だが、引き換えに北はミサイル以外の有効な防空戦力を失う。北の戦闘機は米韓の戦闘機を落とすためではなく、数によって侵入コストを上げ、爆撃等を制約するための戦力だ。だが、旧式でも戦闘機がいなくなるとその効果は見込めなくなる。平時から米韓航空機の自由な行動を許すこととなる。

■ 水上攻撃も通用しない

また、水上艦艇によるミサイル攻撃も通用しない。同様に空母機動部隊の防御網を食い破れない。

北の実用兵器はミサイル艇だけだ。五〇年代型のコマール(ちなみに木造)、オーサといったものを含めて34隻保有しているとされる。

だが、まず空母機動部隊の攻撃圏内に入ることは厳しい。高速艇であるものの、米空母部隊も俊足であり最高速力はさほど変わらない。しかもミサイルの射程も短いため。米空母が距離をとる方向に針路を向ければなかなかたどり着けない。

当然だが、米艦載機や艦載ヘリを出し抜けない。ちなみに、米軍は中東の例では衝突コースをとる高速艇には警告射撃を行い、それでも針路を変えなければ沈めている。

高速艇は脆弱であり、有効な対空兵器を持たないので簡単に沈む。通例では誘導爆弾マーベリックや対戦車ミサイルのヘルファイアを使うが、それ以下の武器でもよい。特異な例では湾岸戦争でカナダ軍のCF-18ホーネットは空対空ミサイルのスパローや機関砲で高速艇を沈めた。

米護衛艦すら出し抜けない。軍艦のほうが遠くまで捜索できるレーダーをもっており、対艦ミサイルの射程も長い。86年のシドラ湾事件ではリビアのミサイル艇は米イージス巡洋艦からの先制攻撃を受けた。

首尾良く対艦ミサイルを発射しても命中しない。これはイージスの優位以前の話だ。北のスティックス対艦ミサイルも年代物であり、80年代の改修を受けていたとしても比較的高い高度を漫然と飛ぶ。目標としては迎撃しやすく騙しやすい。ちなみに沿岸配置の陸上型シルクワームは中国製の同等品だ。

■ 潜水艦も通用しない

強いて対抗するとすれば潜水艦だが、あまり期待できない。よくいわれる騒音以前に攻撃位置につけない問題がある。

潜水艦には潜水攻撃圏(LLSA)といった概念がある。これはその目標を攻撃できるかどうかを見極めるものだ。一般的に潜水艦は水上艦船よりも遅い。このため後ろから目標を追いかけて攻撃位置にはつけない。たまたまその前方にいて、向こうから近づく目標しか攻撃できないのだ。

結果から言えば北朝鮮潜水艦は空母の前方25度の範囲にいなければ攻撃ができない。魚雷の発射距離に入れないのだ。

当然だが、米軍もその範囲を警戒する。広めにみて針路前方60度を虱潰しにする。そのため、攻撃位置につくまえに「何処の国の潜水艦か?」の質問を受けて撃退されるか、情勢次第では沈められる。

なお、長距離からの音響誘導魚雷は効かない。米艦はニクシーと呼ばれる魚雷探知・音響欺瞞装置をもっている。魚雷は頭が悪いので目標と欺瞞信号を聞き分けられない。フォークランド紛争ではアルゼンチン潜水艦のドイツ製誘導魚雷はすべて英艦の類似装置に騙されている。通用したのは英潜の直進魚雷だけだった。

付け加えれば、水中兵器としての機雷も脅威とならない。日本海には仕掛けるべき航路収束部がなく、しかも北朝鮮海岸から10kmも離れれば水深200mであり、深すぎて敷設できない。

■ 空爆されても反撃できない

つまりは、北朝鮮は空母には手も足もでないということだ。

仮に米空母機動部隊の空爆を受けた場合の報復も同じだ。空母への攻撃は成果が見込めないので、反撃目標は韓国国内の米韓軍事基地となる。

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