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雇用環境改善だけでは消費は増加しない(高橋伸彰)

現在の安倍政権が誕生してから政府の景気判断(『月例経済報告』)で、「回復している」という総括判断が示されたのは、消費税率引き上げ前の駆け込み需要があった2014年1月から3月までの3カ月にすぎない。翌4月には「緩やかな回復基調が続いている」と判断が下方修正され、その後は今年3月に至るまで36カ月連続の「回復基調」、すなわち「回復の途上にある(道半ば)」が続いている。

「回復している」と「回復基調」の間にどのような違いがあるのかを一般論として論じるのはむずかしいが、安倍政権下の景気に焦点を当てるなら個人消費が鍵を握っている。というのは政府が個人消費が「増加している」と判断したのも、14年1月から3月までの3カ月にすぎないからだ。つまり日本の景気が「回復している」という結果を出せずに、いつまでも「回復基調」という道半ばで足踏みしているのは、GDP(国内総生産)の6割を占める個人消費が増加しないからである。

一方、政府の景気判断によれば雇用情勢は15年12月以降、16カ月連続して「改善している」。この3月末に公表された「労働力調査」でも完全失業率は2.8%と22年ぶりの低水準となり、昨年11月以降すべての都道府県で有効求人倍率が1.0を上回っていることと併せ考えれば、雇用の需給が逼迫していることは間違いない。

それにもかかわらず雇用情勢の改善が、賃金上昇を通して個人消費の増加に波及しないのはなぜだろうか。政府・日本銀行は五右衛門風呂の例えを使って、釜は熱くなっているが、釜の湯が温まるまでにはなお時間を要していると嘯くが、ここまで湯が冷えたまま(消費が増加しない)なのは、そもそも湯を温められるほどに釜は熱くなっていない(賃上げが不足している)からではないか。

実際、『朝日新聞』は失業率が22年ぶりに低水準となったと報じる4月1日付の紙面で「人手不足感が強まっているにもかかわらず、賃金の伸びは鈍い」と指摘、『日本経済新聞』も同日付で「人手不足が賃金や物価上昇に波及する経済の好循環は実現していない」と報じている。安倍首相は「官製春闘」で賃上げを実現すれば消費も増えると目論んでいたようだが、今春闘の失速ぶりをみれば当てが外れたのは明らかだ。

筆者は本誌への寄稿(「永遠の『道半ば』に潜む安倍首相の真意」、2017年1月20日号)で、累計約340兆円の「失われた賃金」こそが消費不調の主因だと述べたが、その責任は経営側だけでなく積極的な賃上げ闘争を怠ってきた労働組合にもある。言うまでもなく、雇用の需給が逼迫したからといって市場メカニズムの作用で賃金が自動的に上がるほど現実は甘くない。賃上げは労働組合が対立覚悟で経営側と交渉して勝ち取るものであり、そのために団体交渉権やスト権行使などの闘争手段が法律で認められている

連合は一部大手組合の賃上げをもって春闘を総括するのではなく、すべての労働者が失われた賃金を奪還するまで間断なく闘争を続けるべきだ。そうでなければ安倍政権の命運が尽きる前に、連合に対する労働者の信頼が失われてしまうのである。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。4月7日号)

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