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東芝メモリが欲しかった中国企業「XMC」の驚くべき実力 - 湯之上隆 (微細加工研究所所長)

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中国のXMCが3次元NAND量産を発表

 「中国への技術流出を何としても阻止しなくてはならない」。

 東芝メモリの売却に関して、政治家、官僚、ジャーナリストらが口を揃えてこのようなことを言う。しかし、これはまったく的を射ていない。というのは、本稿を読んで頂ければ分かることであるが、中国には既に3次元NANDの技術があるからである。つまり、東芝メモリから流出する技術などは無いに等しいのである。

 米半導体業界誌のEE Timesは3月26日に、「中国XMCが3D NAND工場建設ヘ」という記事を報じた。それによれば、中国のファンドリーXMCが2016年3月末に3次元NANDの新工場建設に着手し、18年に量産を開始、総額2.7兆円を投じて月産20万枚を目指すという(後に30万枚に訂正された)。

 XMCは現在、米スパンジョンの依託を受けて、NANDフラッシュとはちょっとタイプの違うNORフラッシュという半導体メモリを月産2万枚規模で生産している。そして、3次元NANDの技術は、米スパンションと共同開発する計画である。また、XMCは紫光集団の傘下に入ることになり、長江ストレージと呼ばれることになったが、本稿では旧称のXMCと呼ぶことにする。

 私はXMCが3次元NANDに参入することに対しては、否定的な見解を示してきた。というのは、「中国人は半導体製造に向いていない」と考えている上、XMCは、2次元NANDもつくったことがないからだ。

 2007年に学会発表し、2013年夏に3次元NANDの量産を宣言した東芝ですら、2016年3月時点で僅か5.4%しかつくれていないほど難しい技術なのだ。いくらスパンジョンが協力するといっても、新興企業がたった2年で量産できるほど、3次元NANDは甘くない。

 またスパンションへの不信感もある。スパンションは、米AMDと富士通の合弁会社として1993年に設立された。日本法人スパンション・ジャパンはリーマンショックの余波で2009年にあっけなく倒産した。ある知人からは、「<スパンション技術>と書いて<立ち上がらない>と読む」という格言があることを教えてもらった。それ程、スパンションは技術的に頼りない半導体メーカーであると認識していた。

 以上から、いくら中国が2.7兆円も大金を投じようとも、XMCとスパンションが3次元NANDを量産できるはずがないと、はなから馬鹿にしていた。ところが、これらを覆して、XMCが3次元NANDの檜舞台に躍り出るかもしれないことが明らかになった。

XMCが立ち上げる3次元NANDの技術とは

 XMCの事情を良く知る関係者から、驚くべき情報がもたらされた。その内容を説明する(図1)。


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①30年以上前の大昔に、ゲートにアルミニウム(Al)、絶縁膜にシリコン窒化膜(SiN)とシリコン酸化膜(SiO2)の積層膜を使うROM(Read Only Memory)と呼ばれる半導体メモリが存在した。この構造を、Metal-SiN-SiO2を略してMNOSと呼んだ。

②1990年代に富士通が、MNOSの延長線上にある、SONOSと呼ぶメモリを開発した。SONOSは、多結晶シリコン(PolySi)をゲートに使い、SiO2、SiN、SiO2の3層の絶縁膜から形成されていた。SiO2でサンドイッチされているSiNには欠陥準位があり、ここに電荷を捕獲することにより、メモリとして使えることを富士通が見出した。

③1993年に富士通と米AMDの合弁会社として設立されたスパンションは、SONOSを用いたNORフラッシュを開発し、これをMirror Bittと名づけた。その動作を以下に示す(図2)。



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「0」の状態: SiNの欠陥準位には電荷が無い。
「1」の状態: ソースからドレインに電子が流れ、ドレイン付近で発生したエネルギーの高い電子(ホットキャリア)がSiNに注入され、これが欠陥準位に捕獲される。
「2」の状態: ソースとドレインの電位を逆転させて電子を流すと、「1」で書きこんだ場所とは異なる場所にホットキャリアが注入され、これが欠陥準位に捕獲される。

 「1」と「2」で捕獲された電子の位置が中心軸を挟んで対称な位置にあることが、Mirror Bitの名前の由来だ。「2値メモリ」として機能するMirror Bitは、スパンションがXMCに生産委託して量産され、ソフトウエアなどを格納するNORフラッシュとして使われている。

④SiNの欠陥準位に電荷を捕獲する技術を、2008年ごろサムスン電子がNANDに応用した。つまり、スパンションの技術をサムスン電子がパクった。この背景には次のような事情があった(図3)。


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 それまでNANDは、フローティングゲート(FG)方式が主流だった。FGでは、SiO2にサンドイッチされたPolySi膜に電荷を捕獲することによってメモリ動作していたが、この方式では、層間絶縁膜やトンネル絶縁膜を薄くすることが困難になった。その結果、NANDを微細化していくと、隣のメモリセルの間の容量結合が大きくなり、セル間の情報が干渉し合うクロストークと呼ばれる現象が起き始めた。

 クロストークを起こさないようにするためには、絶縁膜を薄膜化するしかない。そのためには、PolySiに電荷を蓄えるFG方式以外に切り替える必要があった。そこで浮上したのが、スパンションがMirror Bitに採用しているSiNの結晶欠陥に電荷を蓄えるチャージトラップ(CT)方式だった。

 スパンションは技術を盗まれたことに気付き、2009年にサムスン電子を提訴した。サムスン電子は実質的に敗訴し、和解金7000万ドルを支払うとともに、フラッシュメモリの技術についてクロスライセンス契約を結ぶことになった。こうして、スパンションはサムスン電子のNAND技術を無償で使用できることになった。

⑤サムスン電子は、スパンションのMirror Bitの技術を応用し、MONOSと呼ばれる構造のNANDを開発した。

⑥サムスン電子は、MONOSを基本技術として、3次元NAND(V-NANDと呼ぶ)を開発し、2016年から中国の西安工場で量産を開始した。

第3回目のコラムで詳述した通り、深孔加工で苦しんだ東芝が、サムスン電子の3次元NANDの構造をパクった(東芝関係者によれば、正確には、サムスン電子をパクったSK Hynixをパクったとのことである)。

⑧2016年3月末に、XMCがスパンションと共同で3次元NANDを開発し、2018年からの量産を発表した。

 つまり、XMCがスパンションと共同開発し量産しようとしている3次元NANDの技術は、ルーツをたどれば、富士通が開発したSONOSであり、スパンションが開発したMirror Bitでもあり、そしてサムスン電子が開発した3次元NANDの技術なのだ。さらに、そのサムスン電子の3次元NANDをSK Hynixがパクり、それを東芝がパクっている。

 半導体業界とはこのように、どこかがある技術で成功したら、蟻が群がるようにしてどこもかしこも模倣する世界であるということがお分かり頂けよう(いや、半導体だけではないか。携帯電話だって、スマホだって同じようなものだ)。

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