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「在宅医療」の罪深い現実を見せられて

先日テレビを観ていて大きな衝撃を受けました。それは著名な医師・早川一光さんの『こんなはずじゃなかった 在宅医療 ベッドからの問いかけ』というNHKのETV特集です。昨年に放送された分の再々放送のようなものでしたので、ご覧になった方も多いと思います。

何にショックを受けたかというと、信じていた人に裏切られたということでしょうか。早川さんという人を私は深く尊敬していました。それは一度だけ聴いたラジオ番組に起因しています。ご自身の病院を訪れる高齢の男女の患者の姿の観察を通じて、人間はひとと繋がっていることが大事であることを説き、そして笑いがひとの健康にもたらす効用について語った含蓄ある中身のものでした。

▼この人は、現在93歳。戦後京都市西陣で住民の手による堀川病院を作り、「在宅医療」という言葉も制度も未だなかった時期から、積極的に地域にでて往診医療活動を展開して、病院ではないところでも安心して医療を受けられる仕組みを整えることの大事さを訴え続けてきたのです。今回私が観た番組では、その偉大な医師自身が「多発性骨髄腫」というがんを患われ、いたって気弱になられている姿を描いていました。早川さんが信じてきた「在宅医療」が結局は砂上の楼閣だったのではないか、という風にご自分が思っておられるように受け止められました。

ご自分の病んだ姿を赤裸々に放映されるということに大変な勇気を感じますが、一方でここまでさらけ出さずともいいのではないかとの思いが禁じえませんでした。医療の現状と人間の弱さが同時に映し出されて、信じていたものが同時に崩れ去る危うさを実感してしまったのです。どこまでも先生には孤高の姿を貫いてほしかったのに。

▼後輩の主治医が訪問して「早川先生が死を怖がっているのを見るのは最高です」と言っている場面や、早川先生に究極の選択を迫った場面が極めて印象的でした。それは、主治医が「痛みや苦しみを感じた際に、自宅から病院に行くと、それから解放されるが、それだと、自宅で死を迎えるという(早川さんの)年来の願望を果たすことができないかもしれません。また、ずっと自宅にいると、痛みや苦しみから逃れられないかもしれません。さあ、どっちを選びますか。先生ご自身の判断ですよ」という風に早川さんに迫ってるところです。結局、早川さんは決断を先送りしてしまうのです。

▼「自分ががんを患うとは思わなかった」とか「枯れたくない。熟れるのならいいが」とか、極めて人間的な発言も口にされるのは聴きたくないとの思いが強くします。テレビ放映の狙いは、在宅治療の制度的問題点に早川さん自身が気づいたことを「こんなはずではなかった」とするところにあったと思います。しかし、実際には人間の生き方をして早川さんに「こんなはずではなかった」と言わせているように思われます。人生の晩年にあたって、ひとを根底から救うのは医療だけではない、宗教、哲学、芸術といった分野も含む「総合人間学」だということに、早川さんは早い段階からひとに訴えていたはずなのに。

それにつけてもこの番組は罪深いと思います。できれば早川さんには、強がりであっても、たとえ幻想であっても、強い人のままの姿を見せてほしかった。かつては患者の急な容態の変化に対応するために枕元に置いてあった携帯電話。それが今ではご自身が夜中に寂しくなって安心を得るために掛ける役割へと180度変わったというのではあまりに残酷という他ないのです。

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