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政治や改革は起爆剤になり得ない。景気が良くならないことには今の息苦しい社会はどうにもならない - 「賢人論。」第36回西田亮介氏(後編)

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著書「不寛容の本質」の中で、“羨望の昭和”という言葉を使った社会学者の西田亮介氏。世代間ギャップの根底にある意識を指摘し、さらにそこから目を背けては問題は解決しないと力説する。話はさらに年金にも及び、今、若年世代が考えなければならない方向性についても語ってもらった。

取材・文/安濃直樹(編集部) 撮影/公家勇人

「お金はないけど現場でなんとかしろ」。そんな風潮がまかり通っている現状には息苦しさを感じる

みんなの介護 中編「いつも付け焼き刃でやってきたのが日本の社会保障システム。団塊ジュニアの現役時が人口対策の最後のチャンスだった」では、政界がもう間もなく次世代の支持層を育てることを考え始めて、社会保障の施策も変革の時期に入る、といったお話を伺いました。「その頃に手遅れになっていなければいいけれど」という注釈付きでしたが。

西田 ほんとはなるべく早く…なるべく早く何をすればいいのか、もうわかりませんけどね。短期の人口回復というのはあり得ないですし…何よりも景気を回復させることが先決だというところに合意します。

社会が今しんどくなっているのは、結局、私たちが経済状態が良い中でなんとなくみんな仲良く右肩上がりの環境の中で共存する以外の術を培ってこなかったからだと思います。だから、とにかく景気が良くならないと我々の社会というのはまわらないんじゃないと見ています。例えば政治におけるリーダーシップや改革が起爆剤になるかというと僕はちょっとならないと思うんですね。

みんなの介護 そうなると、景気回復のための政策に期待したいところですね。

西田 政治が大きく変わって、そのことが我々に何か元気をくれるというのは期待しづらい。それよりも民間発の力で、この息苦しい社会をどうにかしないといけないと思いますが、規制改革は必要でしょうね。

みんなの介護 先生自身も息苦しさを感じる時があるんですね。

西田 例えば日本の大学業界というのはある意味ではわかりやすくて、輝かしい思い出と、そのギャップのなかで、少しずつ退潮している業界でもあります。たとえばかつて日本の大学というのはアジアでもナンバーワンでした。東大を筆頭に京大、阪大…そして僕が今いる東京工業大学(以下:東工大)もそのグループでした。でも今では、毎年ランキングが下がっていって、ある有名なランキングでは東大の5位前後が最高で、京大が10位前後、東工大にいたっては20位以下にまで順位を下げています。

では1位はどこかというと、シンガポールのシンガポール国立大学なんですね。2位が、同じくシンガポールの南洋理工大学で、中国の北京大学、清華大学などが続きます。最近は香港の大学もランキングを上げていますね。

みんなの介護 1位の大学がシンガポールというのは意外ですね。

西田 国が小さいですし、大学の数自体も少ないので、少数の大学に集中投資することができることが大きいようです。人材の引き抜きにも積極的で、日本や海外からも研究者だけではなく、それこそ研究室ごと引き抜いたりするんです。そんな中で日本では、「お金はないけどなんとかしろ、競争しろ」と言われていて…これはたいへん息苦しいですよね。

みんなの介護 お金はない、だけど現場の力でなんとかしろ。介護業界とも似た感じがしますね。

西田 そうですよね。しかしお金がないし、より良い人が職場に就くためのポストも給料水準も上げられない。国立大学には運営交付金というものがあってそれが各大学の経営に大きな影響を与えているんですが、それも大幅な増額は期待できません。この状況は、介護報酬が上がらない介護業界と、確かに似ていると思います。



シルバーデモクラシーは、ある。その問題を直視しないと問題は解決しない

西田 さらに苦しいのは、一方で我々は、良かった時代のこともまだそれなりに覚えているからです。例えば大学業界でいうと、ひと昔前なら、東大京大に入れば「末は博士か大臣か」といわれ、そのランクはアジアのトップに君臨して、卒業したら終身雇用で働くことができました。もうちょっと頑張れば日本の大学も世界でもトップクラスに、というのが現実味をもった時代もあったわけです。いまは政策目標としては声高にいわれますが、どうでしょうね。今の大学が置かれている状況、毎年だらだらとランキングが下がっていく現状を見ていると、ギャップを痛感せざるを得ないですよね。

みんなの介護 先生が著書「不寛容の本質」で書いていた“羨望の昭和”という言葉は、そんな思いから生まれたんですね。

西田 前編「シルバーデモクラシーが存在するのは、今の日本社会の構造上、否定できない」での税収の話の延長として、「昭和の古い常識は忘れろ」といった話をお説教のように、ある意味ではその時代に良い思いをしてきた年長者が言うじゃないですか。「もうそういう時代じゃない」といった風に。でも若い世代からすれば「よく言うよ」と思える部分があるんじゃないですか、という問題提起です。

みんなの介護 シルバーデモクラシーの根底にある、意識的な部分ですね。例えばですが、そうした意識さえも客観的に理解することができれば、世代間の対立構造みたいなものにも寛容になれるのでしょうか?

西田 いや、なれないと思います。そしてならないほうがよいのではないでしょうか。我々の社会は、ともすれば対立していること自体を隠そうとしますよね。例えばシルバーデモクラシーも「そんなものはない」と言う人がとても多いじゃないですか。でも、そうじゃない。「ある」というところから、問題の存在を認めるところからスタートしないと、いつまでたっても問題は解決できないと思うんですよ。保育の問題などが良い例ですよね。

「世代ごとの利害関係は合致しない、トレードオフにある」ということをきちんと直視した上で、それでどうやって解決するのかを考えていかないといけないのではないでしょうか。

みんなの介護 臭いものには蓋、では問題は解決しないということですね。

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