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日本はなぜ電柱だらけ?東大教授に聞く「電柱地中化が必要なワケ」

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欧米はおろか、中韓をはじめとするアジア各国からも大幅に遅れている日本の「無電柱化」。東京都の小池都知事が国会議員時代から注力する政策で、都は無電柱化を推進するための条例案を6月に都議会に提出する予定です。

その小池都知事と2015年に「無電柱革命」を共著で発表した東京大学の松原隆一郎教授。無電柱化研究の第一人者で、電柱のない社会の実現を訴えています。

無電柱化された地域の空を見て考えさせられたという土屋礼央が無電柱化のメリット・デメリットについてじっくり聞きました。

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土屋:まず、松原先生が訴える「無電柱化」とはどういうことかご説明いただけますか。

松原:1990年代前半ぐらいから道路に立っている「電柱」が気になり始めました。思い起こせばヨーロッパで街を歩いたときに「何か変だな」と感じていたんです。何が変なのか、すぐには分からなかったんですけど、後になって考えてみたら、街中に電柱がないことに不思議な感じを受けていました。

◇阪神大震災で電柱の9割が倒れた

松原:そんな中、1995年に阪神淡路大震災が発生しました。私の実家は神戸の一番東の外れの東灘区ということころにあって被災したんです。私は発生から2日後に、東京から自転車を持って神戸に向かいました。西宮北口というところまでは電車でいけたので、そこから自転車で。実家に向かう道すがら、ずっと電柱が倒れているんですよ。これじゃ自転車が進めないし、押していったとしても、倒れた電柱があるたびに持ち上げなきゃいけない。

電線も全部地面に落ちていて、怖いのと足が引っかかるので、とにかく面倒だなというのが第一印象。実際は電柱の9割に当たる8000本ぐらいが倒れたってことなんですけど、とにかくものすごく倒れていて。 電力会社さんは「あれは自分で倒れたんじゃない」ということを盛んにアピールするんだけど、自分で倒れようが、他人が倒そうが、どちらにしても倒れているわけですね。

阪神淡路大震災の場合には、家がたくさん倒れたので、1本でも倒れると、電柱にくっついている電線の方があまりにも強くて、ドミノ倒しで電柱を引きずり倒しちゃうんですよ。 それ以来電柱には「大震災で倒れる」という印象があります。

地震の揺れで真ん中から折れ民家の屋根に倒れた電柱=95年1月17日午前、神戸市東灘区 共同通信社

阪神大震災のとき、うちの周りは幸運にも火が出なかったんですね。避難していた小学校に行ってみたら、妹の遺体が安置されていました。家の下敷きになっていたんです。妹の家族、旦那と2人の子供は、外からなんとか穴を開けてもらったり、天井を外してもらって、出てきてるんですけど。妹は震災後6時間は閉じ込められて、亡くなっていたんですよ。

でもまだ火が出なかったからよかったなと思っているんです。神戸の長田地区で火災が発生しましたが、火が出た理由として一般的に言われているのが、電力会社が「早く電気を通さないといけない」と、電気を通したら火が出ちゃったケースです。それは、ブレーカーを下ろそうにも家に入れなかったので。壊れた家もブレーカーはあがったまま。通電火災ってやつです。

お悔やみ申し上げるしかありませんが、うちにしても、妹が亡くなったまま家の下にいたので、その時火が出たらと思うとゾッとしました。 電力会社はそれでもなお、通電を急ぎます。電柱が倒れたままで、新しい電柱を建てるんですよ。それはそれで、復旧に尽くしておられるってことなんですけど、倒れた電柱は放置されたままです。本当にそれでいいのかなって印象を持ちました。

土屋:僕は松原教授の「無電柱革命」を読んで感銘を受け、友人などに「電柱は地下に埋めた方がいいんだよ、景観がよくなるんだよ」って話をするんですけど、それだとあまり興味を持ってくれないことも多いんです。

だけど「災害があった時に倒れて危険なんだ」って話をすると、みんな「なるほどね!」と言ってくれる。災害時に邪魔になるっていうことが、僕の周りの人には響いたというか。さらに驚いたのが、先進国は無電柱化が進んでいるのに、日本は後進国だってことです。

◇電柱だらけの国、ニッポン

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松原:ロンドン、パリといったヨーロッパの都市。アメリカもこの100年、無電柱化をやってきたんですけど、日本が自分たちよりも遅れていると思っていた韓国、中国、台湾なども、ものすごい勢いで電柱をなくしていて、日本よりも少なくなりました。 普通の国は「自分達は先進国の仲間入りをしたんだ」って思った時点で、電柱を無くすらしいんですよ。先進国で電柱が大量に残っているのは、日本だけなんです。

土屋:逆に増えていってるんですよね?

松原:毎年7万本増えている。国交省のデータをみていると、どんどん無電柱化している道路は延びているのにもかかわらずです。変な感じでしょう? これは要するに、電柱を無くした道路は増えているんですけど、それ以外の道路で、密度をドンドン上げて、電柱を植えていっちゃっているわけですね。

土屋:各国が電柱の地中化を進めるのはなぜなんですか?

松原:ヨーロッパに関して言うと、元々ロンドンの街は真っ暗で強盗が多かったらしくて、その対策として街灯を普及させる時に、ガス会社と電力会社のどちらが建てるかで競争が起きました。 その時、ガス会社が「これは不当である」と。「なんで、電力会社は電柱を地上に建てて、自分達はガス管を埋めなきゃいけないんだ。どっちも埋めないと、競争上おかしいんじゃないか」と訴えたので、当たり前のように地中に埋めるようになったんです。

だから、空に電線がある街の状態を、ヨーロッパの人は見たことがない。みんなそれを見てビックリするから日本に来て電線の写真を撮ったりするんですけど。アメリカは一時は空が電線だらけになったらしいんですね。ただ、その時代は裸電線だったので、電線に触ったり、電柱が倒れてきて感電死する人が非常に多かったので、「これはマズイ」ということで地上から無くしていった。

日本は戦争が始まる前頃、昭和10年代ぐらいに一旦、地中化しようという時期もあったんですよ。

土屋:試みたんですよね。

松原:東京だと文京区の西の北にある西片町で、地中化が広がっていたそうなんです。 中国を日本が支配していた頃、満州国の長春という町を作りました。ここを作ったのは日本の都市計画家たちなんですが、その時点では電柱は地下化されたんですよ。

その当時の建築家や都市計画家は「電柱が無いのはいいことだ」って発想を持っていたんでしょう。 東京の街では明治以来、電柱を建てていましたから。それへの反省があったんでしょうが、東京でどういう風に地中化するのか話がまとまらないまま、都心は空襲で全部燃えちゃったんですね。

そこへ終戦直後に、「一時的」という名目で、どんどん電柱を建てたわけですよ。ところが「一時」と言いながら、高度成長するところまでいこうとなり、高度成長した後も「埋めるのはまだ早い」ってなっていたんですけど。1980年代に、ドーッと円高になったことで、電力会社は買っている石油の値段がものすごく安くなり、差益が出たんですね。実はここが大きな分かれ目でした。

その時、電力会社は「電気料金を下げるのがいいですか?それとも電柱を無くしますか?」と財界に聞いたらしいんですよ。それだと答えは決まっているじゃないですか。工場を動かすのに電気料金は安い方がいい。それで「じゃあ埋めないよ」って話になってしまって。1986年以降、「そんなんじゃいかん」と国が旗を振って、国道については電線地中化を進めてきました。電力会社やNTTとやり合いをして、ここまで来ていると。

◇電柱で遠のく「バリアフリー」

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土屋:電柱が歩道にあると、車椅子の方とかにバリアフリーじゃないんですよね。東京は道が細くて、運転していても「よくここが一方通行じゃないな」というところが多い。電柱が無ければスムーズに行き違えるのにっていつも思います。電線を地中に埋めるのは、メリットしかないと思うのですが。

松原:歩道のど真ん中に電柱が建っているケースですね。その1本が無ければ、歩道だけで車いすが2台すれ違ったり出来るんですが、ど真ん中にあるせいで1台すら通るのが大変とか。そういうことがたくさんありますよね。

追突事故だけでいうと、電柱があると、死亡率が「10倍」になるんですよ。車と電柱の間に挟まれるってことはものすごい危険なことで。事故にならないとしても、電柱って角に立っているので、子供がグッと頭を出さないこうから車が来るのが見えないんですね。子供たちの安全から行くと危ないでしょう。

土屋:銀座とか大きい街から地中化するのもいいんですけど、やっぱり住宅地の電柱こそ地中に埋めてくれないかなと。僕、4歳の子供がいて、小学校の通学路が幹線道路を越えるルートで。

松原:災害があると、一時的には「電柱がない方がいい」と思いますよ。でも普段は「電柱があったって、特に大きな事故が起きているわけじゃないでしょ」って思って暮らしてますよね。しかし思い返すと、我々が直面した電柱の事故っていうのは、神戸と熊本なんです。ともに直下型地震ですよね。だから、次に直下型地震が来るところが危ない。それが首都圏、なかでも東京は関心を持たざるを得ないんです。ということで、無電柱化に一番関心を持っているのが小池都知事なのですね。

◇無電柱化に情熱を燃やす小池都知事

土屋:小池さんは都知事になる前からずっと無電柱化を訴えています。

松原:小池さんは兵庫県芦屋市出身の方です。阪神淡路大震災の折はいち早く現地に入り、私と同じように倒れた電柱だらけの光景を見たとおっしゃっていました。それからずっと引っかかっておられたのです。東京がああなっても、なんとかしなければと。

土屋:小池都知事体制になったということは、チャンスが到来したというか、無電柱化の速度は早まりますか?

松原:最初に小池さんから連絡をいただいたのは、2002年に私が出版した「失われた景観―戦後日本が築いたもの (PHP新書)」 を読んだということからでした。その後、小池さんは「無電柱化に向けた法案を作るんだ」と仰いました。政治家としては法案作りだと。

当初、小池さんは安倍首相を中心として議員連盟を作られたんですよ。だけど、民主党に選挙で負けて政権交代。1回下野して、ブランクをおいて、2012年に与党に戻ってからはまた議連をつくって、一気呵成にやり始めて、2015年には私と「無電柱革命」という本を一緒に出すことになるんです。

ところが法案ってなかなか通らないんですよね。政局の問題が色々出てきて何度か流れたんです。安保法案もあった。電柱の話をしている場合じゃないとなって。去年の5月に小池さんからメールが届きました。「悔しいけど、法案がまた出せなかった。流れちゃった」と。私も頭にきて、その時、ちょうど舛添元都知事の問題が起きていたので「いっその事、東京でやった方が早いんじゃないですかね?」ってメールを返したんです。

返事は来なかったんですけど、どうもその時、すでに都知事選への出馬を準備していたみたいなんですね。小池さんも法案が通らないなら東京からやっちゃえと思ったんじゃないですか。私は詳細を聞いてないので憶測ですけど(笑)。

◇無電柱化のデメリット

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土屋:話を聞いているとメリットばかりな気がするんですが、国会議員を含めて反対する方もいらっしゃるわけですよね?

松原:去年12月末に無電柱化推進法案が国会を通過した段階では、反対した人は1人もいませんでした。ですがここに至るまで「理念はいいけど、お金がかかるから難しいんじゃないの?」とおっしゃる方は沢山いました。

土屋:デメリットはお金の部分が大半ですか?

松原:反対意見で多いのが、地中化にお金がかかるということです。 他にも反対意見があって、1つは電柱がなくなっても、大きな変圧器を地上に置いたら同じじゃないかと。 電線は自治体主導で埋めていくわけですけど、その時に、昔から立っている木を切って、そこに変圧器を置くような事件もあったらしくて。「こんな立派な木をなんで切るんだ」、「電柱が無くなったって、木まで無くなったら意味がないじゃないか」と。そんな意見も多いですね。

土屋:ロンドンなどは変圧器が地下にあるんですよね?

松原:地下だけとは限らないんですけど、日本のように大きいものが目の前にあるような目立ち方はしていません。日本では予算で言うと、1km辺り、5億3000万円かかると言われています。その数字と変圧器が大きいなどのいくつかの条件を見せられると、「こんなにしてまで埋める必要があるの?」って話になりかねない。だけど、実は大きな変圧器であるとか、5億3000万って数字自体が、今後はチャラになるはずの話なんです。

どういうことかというと、元々、あんな大きな変圧器があること自体が変なんですよ。例えば、今、1行だけしか打てないワードプロセッサがあるとして、それが、「こんなに大きくて150万円です」と言われたら、「アナタ、何を言ってるの?」って話になるじゃないですか。歴史を見ればワードプロセッサは数年でものすごいレベルが上がってドンドン安くなっていきました。

対照的に、戦前から変圧器の大きさはそんなに変わっていないわけですよ。つまり、戦後電力会社は変圧器を小さくするような努力を怠ってきたのではないか。ところが、このところ電力会社がすごい努力を開始して、変圧器は一気に小さくなってきているんですよ。今、80cmや70cmのものがあります。これも東京電力が80cmのものを作ったら、関西電力がもっと小さくして、さらに東京電力が小さくしたりという競争が生まれているす。

面白かったのは、東京ビッグサイトで無電柱化の見本市が行われています。2015年に第一回目が行われて、昨年が第二回で。第一回の時は、ほとんどが道路に電線共同溝を埋めて、そこに電線を収める管を入れる従来型の技術だったんですよ。ところが第二回の昨年は、共同溝は前提せず、直接電線を埋めたり側溝に入れたり管路を埋めたり、色々な技術が展示されていました。たった1年でこれですから、これから技術革新の競争がいっぺんに始まっていくと思いますね。

土屋:考え方によっては、ものすごく巨大なビジネスチャンスですよね。

松原:そうです。だから、今地面の下に宝が埋まっていると思っている人は多いですよ。先にやった方が得だってことで、各社がドンドン技術開発をして、提案しています。

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