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誤った不審者イメージが子供を追い込む可能性

千葉県松戸市に暮らす小学校3年生の少女が殺された事件。逮捕された容疑者が被害者の少女が通う学校のPTA会長だったという事実が、多くの人を驚かせているようだ。(*1)

しかしそれは、本当に驚くようなことだろうか? 今回の事件は何か珍しい事件だろうか?

容疑者がPTA会長であり、地元ではそれなりの権力を持っている人だということが、驚きをもって受け入れられているようだが、別にそうした「別に不審ではない人物」による犯行というのは、まったく珍しくない。

警察庁がまとめた『平成26、27年の犯罪情勢』という資料(*2)に記載されている「被疑者の年齢層・被害者との関係別殺人検挙件数 H17-H27 の推移」の図を見ると、平成27年であれば、殺人の検挙件数の総計が864件のうち、被疑者と被害者の間に面識がないのは1割強の99件に過ぎない。754件は何らかの面識がある間柄であり、殺人においては不審者とは言えない人物の犯行のほうが多数派である。

また、容疑者は子供の登下校の見守りなどをしていたと伝えられ、この点でも驚いているようだが、以前から見守り隊による子供への犯行はたまに発生している。この連載でも、2010年の3月に72歳の見守り隊隊員が女児に対してわいせつ行為を行った事件を取り上げている。(*3)

この事件は個人的に「子供への性的欲望を持つ人間が、子供相手のボランティアに潜り込もうとする危険性。もしくは子供と近くなることによって性的欲求が産まれる危険性」に気付かされた事件なのだが、世間の人の記憶からは消え去っているようだ。

また、PTA会長の逮捕をもって「不審者情報との齟齬がある」と主張している人もいる。しかし「空を鳥が飛んでいても、それが何の鳥か確定できなければ未確認飛行物体なのだから、空を飛んでいるものはすべてUFOだ!」という、つまらないギャグがあるように、不審者情報もその大多数はその程度の情報にすぎない。

それこそ、僕が自動販売機の前で買ったお茶を5分くらい立ち止まって飲んでいたとして、もしたまたまその日にその付近で殺人事件などが起きれば、その時の僕は「事件前後に自動販売機前で立ち止まる不審者」とみなされるだろう。

本当に見知った人しか来ないような、田舎の限界集落ならともかく、事件が起きたのは住宅街であり、知らない人がいるのが当たり前の場所である。そのような場所での不審者情報のほとんどすべてがノイズに過ぎない。

警察はもちろんこうした不審者情報からごく僅かな「本当に重要な情報」を割り出していくのだろうが、我々素人がマスコミから伝え聞いた不審者情報から事実を割り出すのは不可能である。

また、不審者のイメージというと「全身黒ずくめで、サングラスをかけていて、若い男で、顎が尖っている」とか「口の周りが丸い髭で、太り気味で、唐草模様の風呂敷を持っている」といったステレオタイプがあると思うが、本当の犯罪者はスーツや作業着を着ていることが大半である。(*4)

理由としては、住宅街であろうと外回りのサラリーマンが昼間に歩いていてもおかしく思われないからだ。下見であればスーツが一番目立たない。もし犯罪を実行するとすれば作業着姿だ。作業着を着た人が、他の人の家にハシゴを立てかけていたり、モノを運び出していてもおかしく思われない。本当の不審者は用心深く不審に思われないような風体をしているのであり、見た目で不審者と分かる不審者など、そうそういないのである。

こうしたことから、別に犯人が立場を持ったPTA会長であろうと、不審者情報との齟齬があろうと、そのことは全く珍しくもなんともない。ただ単に年間1000件程度発生している、殺人事件のうちの1つというだけのことである。

ただ、これに対して1つだけ言っておきたいことがある。

こうした「子供を害する犯人は不審な他人である」という典型的なステレオタイプが、子供の逃げ場を減らしている可能性についてである。

全体としての殺人件数は全体的に右肩下がりであり、日本全体としては安全な社会になっているにも関わらず、どこが始めたか「体感治安の悪化キャンペーン」のようなものがあり、なぜか日本人の多くは、昔と比べて、いつ犯罪に巻き込まれても可笑しくない不安な社会になったと思い違いをしている。

そうした中で「子供を守ろう」として、社会が子供のためにと行っていることが、子供を「見知った人達で囲い込む」ことだ。家では親が、学校では先生が、そして登下校の際には近所の大人がと、常に子供は大人の監視下で生活することが、さも「子供の安全のために大切なこと」であるかのように考えられるようになってしまった。

しかし、警察庁などの統計資料を見ても分かるように、子供に対する加害者の多くは「顔見知りの大人」である。そこには当然、見守り隊の人間や教師、そして親も含まれる。特に親による子供に対する性的虐待は暗数が大きく、真相は藪の中である。

子供を顔見知りの大人の中で囲い込み、また子供を見守るという関係性の中で大人たち同士の関係性が親しく濃密になればなるほど、重大犯罪から、子供たちは逃げ出しづらくなってくる。

さすがに今回のような殺人であれば、問題はすぐに露見するし、警察も威信をかけて調査をするが、これが性的被害だった時に「犯人は外部の知らない人間であろう。私達の知っている人達の中に、そうした変な人がいるはずはない」という思い込みが、事件の解決を遅らせたり、また大人たちの人間関係を慮った子供が、被害を胸の中にしまいこんで告発を諦めてしまうようなこともある。

また子供が勇気を出して少しだけそうした可能性を匂わせることをいい出したとしても、大人の側が「あの人がそんなことをするはずがない」と押さえ込んでしまうことも考えられる。

今の世の中は、決して子供が常に危険に迫られているような社会ではない。

しかしその一方で、危険に迫られていたり、すでに継続的な被害にあっている子供もいる。

「この事件は特異なケースだ(*5)」とか「オタクのような人間が犯人像だ」などという、ステレオタイプ認定ごっこで終わらせるのではなく、実際の被害そのものに真っ向から向き合って考える必要があろう。

*1:千葉女児殺害:遺棄容疑者は保護者会会長、事件後も見回り(毎日新聞)https://mainichi.jp/articles/20170414/k00/00e/040/256000c
*2:平成26、27年の犯罪情勢(警察庁)https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/h26-27hanzaizyousei.pdf
*3:【赤木智弘の眼光紙背】安全な他者という神話(BLOGOS)http://blogos.com/article/23419/
*4:セコム防犯ブログ|最近の不審者はどんな服装をしているの?(セコム)https://www.secom.co.jp/homesecurity/bouhan/c/bouhan018.html
*5:<千葉女児殺害>「特異なケース、子供見守り否定しないで」(毎日新聞)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170414-00000122-mai-soci

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