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10年後、AI”武装”しない記者は生き残れない

報道人にとって最高の栄誉であるピュリツァー賞を運営しているのはコロンビア大学ジャーナリズム大学院です。

そこからジャーナリストに向けて発信されているのがCJR(Columbia Journalism Reviewで、その使命は「to be the intellectual leader in the rapidly changing world of journalism」とあります。

「急速に変化するジャーナリズム世界の知的リーダーであること」。それにふさわしい興味深い記事が、最近のCJRに掲載されました。「2027年、ジャーナリスト生活の1日:報道はAIに出会う」

これは、Springfieldと言う架空の町のメディアで働く一人の環境問題担当記者が、10年先のある朝、重大な大気汚染に気づき、すぐに原因を突き止め、関係者の声も集めて夕方には記事にまとめた、という話です。

今の時代なら、複数の記者によるチームが何週間も、何ヶ月もかかるかもしれない調査報道記事を、たった一人で1日で仕上げるのです。でも「それはSFではない」とCJRの記事は主張します。なぜなら。このストーリーは「AP通信による、最新の調査報告書で詳述された、とても実際的な技術的進歩に触発されたもの」だからです。

AP通信の研究は、ジャーナリストが現在から近い将来に活用できそうな人工知能(AI)をを組み込んだデジタル技術について広く言及していますが、ここでは、刺激的なCJRのストーリーをかいつまんで紹介します。(太字は新技術)

[午前8時] 運転手なしの自動運転車で職場に向かう記者。その車のダッシュボードに「町の大気の質が10%悪化」という警報が表示された。それは、彼自身が町の全域に設置した大気汚染センサーが感知したためだ。彼がデータサイエンティストと共に開発したテンプレートで、どこの地点でどのくらい汚染が進んだかも分かる。警報を確認するために、彼は大気と水質汚染のテストキットを搭載したドローン2機を飛ばした。

[午前8時30分] 職場に着く前に、車載コンピュータがソーシャルメディアを解析し、Springfieldで、大気汚染と子供の喘息発作の悩みについての書き込みが増えており、投稿が地元の母親からの割合が多いことを検知した。そこで記者は「町の母親たちは大気汚染と子供達について大きな関心を表明している」と解釈する。

[午前9時] 職場に到着。音声入力でドローンによる大気汚染と水質検査のデータをコンピュータに表示するように指示。その数値を複雑なスプレッドシートに入力し、統計的に異常値かどうかを判断するプログラムで、今日の汚染値は歴史的に見て異常に高いことを確認。そこで、記者は大気汚染について投稿した母親の一人にツィートし、インタビューを申し込む。

[午前10時] デスクトップパソコンにある一連の画像を拡張現実(augmented reality)ヘッドセットに投映させる。空中に数百枚の写真が浮かび、数日前に新たに作られた工場の周辺で視界が悪化していることに気づく。より正確に把握するために、その地域一帯に配置されたロボットカメラの画像をダウンロードし、時間の経過とともにどうなったかがわかるコンピュータビジョンを使う。

[午前11時] スマートアシスタントで公文書を検索。数千の政府文書と許可証を迅速に調べるためのAIによるテキスト分析ツールだ。これは、罰金の記録、許可の取り消し、住民の批判、法的トラブルなどを探す。その結果、この工場所有者が他の場所での排出試験で不正を働き罰金を科されていたことを発見。そこで、工場所有者の代理をする広報会社に電話して話を聞く。その会話記録を音声分析システムにかけると、相手がためらいがちで緊張しているという結果が出る。

[正午] AIによるフードデリバリーサービスでランチを注文。欲しい成分を伝えると相手が最適レシピを考えてくれる。20分後に、オフィスの窓の外に伸びたプラットホームにドローンが食事を届けてくれた。

[午後1時] スマートアシスタントで、別の公的記録の調査を指示。その結果、結婚証明書、出生証明書、ソーシャルメディアのデータから工場建設に責任がある会社のCEOは、問題の工場の試験を行うために指名された女性が遠い親戚にあたることを示唆するファイルを発見。文書を理解し文書間の関係を導き出すアルゴリズムのおかげ。記者はデジタル家系図を視覚化し、二人のつながりを見る。

[午後2時] 仮想現実(Virtual Reality)ヘッドセットを装着。2機のドローンを操縦し、調査エリア上空を飛行。そこで、工場のパイプが真っ二つに裂けていて、ある種の物質を空中に排出しているのを発見。同時に、抗議行動が行われていて、警備員が一つのエリアに集中していることも。さらに工場内の小さな区画の周りにバリアが作られ、デジタル温熱マップで見て、その向こうは裂けたパイプがあると確信する。すぐ自動運転車で現場に向かうが、警備員は化学物質漏れを起こしているのを隠すバリアに近づくのを妨害する。でも、二人の工場労働者から「警報が出て以来、息をするのも苦しかった」「操業を始めて以来、検査官は見たことがない」などという証言を得る。

[午後3時] 職場に戻る途中のカフェで午前中に約束した母親と会って話を聞く。それによると「開けた窓際に寝ていた子供は、夜中に呼吸が苦しくて起きた」などと話し、咳を繰り返すビデオを見せてくれた。職場に戻って、感情分析システムに録音したインタビューをかけると、母親のトーンは「本物で、分析的」と判断された。

[午後4時] 広報会社に再度、電話。今回はコメント拒否。幸い、以前に、その企業と保健省がこの地域を汚染していると告発しているプレスリリースのストックがあったので、スマート分析システムを走らせると、当事者はいかなる謝罪声明を出していないことを発見する。

[午後5時] 記者はスマートコンピュータ上のアプリで、記事を口述する。アプリは書式を整え、スペルチェックを行う。通知を受けた編集長は、その記事をレビューし、承認する。ほんの数分で、彼はSpringfieldにおける大気汚染レベルについてよく調べた内容のある記事を書いた。その記事は、スマホ、スマートウォッチ、スマートミラーという全てのスマートなプラットフォームに配信され、たくさんの「いいね」がついた。

以上がCJRがAPの研究を基礎にして描いた記者の未来像です。「たった10年先に、そこまで劇的に変わるとは思えない」というのが普通の感覚でしょう。

しかし、思い起こしてください。日本の大手新聞社がニュースサイトを開いたのは1996年前後。当時の内容はInternet Archiveで見られますが、今から振り返ると、その貧弱さには笑っちゃうほどです。例えば、朝日新聞の1996年12月19日はこれです。

その当時のパソコンの能力の低さ、通信回線の遅さはもう泣きたくなるほどでした。それから20年。今の高速インターネット環境、動画コンテンツの豊富さ、そして何より、モバイルインターネットの躍進は、当時には誰も想像できなかったことです。

それらを思えば、10年後の記者が、CJRが描いたように、AIを取り込んだデジタル機器を駆使して、内容のある記事を軽やかに日々、生み出すことは決して奇想天外には思えません。

他方、それは、記者減らしの要素にもなりうるわけですが。デジタルマインドの薄い記者には辛い時代になるかもしれません。

先のAPの報告書にもありました。Growing gap in skill setsという小見出しの下に「data scientists と computational journalistsと喜んでコラボできなければ、AIで支援された編集部で生き残るのは難しい」と。

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