記事

戦略なきシリア攻撃、背景にホワイトハウスの権力闘争 - 佐々木伸 (星槎大学客員教授)

 トランプ政権のシリア攻撃は長期的な戦略に基づいたものではなく、場当たり的な作戦だったことが一段と明らかになりつつある。その背景には、孤立主義を主張するバノン首席戦略官派と、国際的な関与を強めるトランプ大統領の娘婿クシュナー上級顧問派との権力闘争が激化していることがある。

沈黙する大統領

 「米第一主義」を掲げてきたトランプ氏が化学兵器を使用したシリアへの攻撃に踏み切ったことで、「米国の国益に関係のない他国の問題から距離を置く」としてきたこれまでの「不介入戦略」は大きく転換、時には人道的な問題でも軍事介入する姿勢が示される形になった。

 トランプ氏自身、攻撃に関する声明の中で「シリアでの殺りくや流血を終結させるため米国の行動に加わるよう」世界に呼び掛け、シリアの和平に主導権を取っていく考えすら示唆した。

トランプ政権の方針転換を鮮明にしたのはティラーソン国務長官だ。長官はG7の開催されたイタリアで、「世界のどこであっても、無辜の人々に対する犯罪をなすどんな者に対しても責任を取らせる」と踏み込み、トランプ氏が批判してきた米国の伝統的な価値観に回帰するような態度を見せた。

 だが、7日以降、トランプ氏はツイッターも含め、シリア問題に関する発言を一切控え、沈黙している。なぜか。その大きな理由はシリア介入派とこれに反対する一派が対立し、長期戦略を描けないでいるからだ。

 米メディアなどによると、シリア攻撃を積極的に主張したのは、クシュナー上級顧問やコーン国家経済会議委員長らニューヨーク出身の実業家勢力だ。これにマクマスター補佐官(国家安全保障担当)、マティス国防長官、ティラーソン国務長官らも賛同したようだ。

イバンカの助言が影響?

 特にクシュナー氏の夫人で、トランプ大統領が溺愛する長女のイバンカ氏が化学兵器で被害を受けた赤ちゃんらに衝撃を受け、トランプ氏に助言したことが攻撃に傾いた大きな引き金になったと見られている。家族重視のトランプ氏の姿が思い浮かぶ。

 対して慎重論を唱えたのは、バノン首席戦略官やプリーバス首席補佐官、ミラー上級顧問らトランプ氏の大統領当選を支えた「米第一主義」論者たちだ。ミサイル攻撃後、この一派の支持者らからは「介入は裏切り」という批判も出始めている。

 「不介入戦略」を掲げてきたトランプ政権にはもともと、長期を展望したシリア政策はない。ミサイル攻撃のほんの数日前まで、アサド政権の存続を「政治的現実」(スパイサー大統領報道官)として容認していたにもかかわらず、攻撃後唐突に「アサド氏の退陣を要求」(ヘイリー米国連大使)している事実が場当たり的な政策しか持っていないことを浮き彫りにしている。

 シリア内戦の終結のため外交的なイニシアチブを取り、和平交渉を積極的に推進する考えはあるのかどうか。アサド政権の居座りを認めるのか、追放を掲げるのか。反体制派をオバマ政権同様、支援するのか、支援を打ち切るのか。過激派組織「イスラム国」(IS)の壊滅作戦と並行して内戦終結も目指すのかどうか。

 本来はこうした点を入れたシリア政策を策定していなければ、武力行使には踏み切ることはできないはずだ。戦略のないまま、軍事的に攻撃することはその後の展開に不確定要素が多すぎてリスクが大きいからだ。

こうした戦略の欠如に加え、両派の権力闘争が激化しているため、シリア政策を策定することがさらに困難な状況になっていると言えるだろう。トランプ氏が何らかの発言をすることはどちらかの意見に与することになり、同氏としても簡単には決められない。

IS壊滅作戦にも影響

 アサド政権側にも大きな疑問がある。アサド政権がなぜ、米国の懲罰攻撃を招く恐れがある化学兵器を使ったのか、ということだ。ロシアやイランの支援が奏功して反体制派に対して圧倒的な優位に立っていた現状を考えれば、化学兵器をあえて使う必要はなかったはずだ。

 これに対してはさまざまな見方がある。軍の一部が独走したという説や、過去3回に渡って化学兵器で攻撃をしたが、国際社会から大きな関心は呼ばず、今回も見過ごされると慢心したのではないかという見方もある。

 アナリストの1人は「計算された使用」だったと指摘する。その背景には政権軍の人員不足がある。政権軍は今や1万8000人ほどしかいない上、ロシアから結果を出すよう強い圧力を受け続けていたため、大きな打撃を与えられる化学兵器に「つい頼ったのではないか」という分析だ。

 ロシアが化学兵器の使用を前もって承知していたという米当局者の発言も報じられたが、トランプ政権はこれを否定した。ロシアをこれ以上怒らせてはIS壊滅作戦に支障が出かねないと危惧したためだったろう。

 というのも、ロシアは米国のミサイル攻撃後、シリアにおける偶発的な衝突を回避するための米ロのホットラインを一方的に遮断した。このため、ロシアの防空網に引っかかることを恐れた米国のIS攻撃は激減、IS壊滅作戦が遅れる懸念が高まっている。

 ティラーソン国務長官は12日、ロシアを訪問し、ロシアのラブロフ外相にアサド政権支援を弱めるよう要求するといわれているが、ミサイル攻撃を「国際法違反の侵略」と非難するロシアがこれを受け容れる見通しは全くない。米ロ関係は改善どころか、新たに悪化の道をたどるのは決定的だ。

あわせて読みたい

「トランプ政権のシリア攻撃」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    クロ現「日本の防衛」報道に驚き

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    笹子トンネル事故に"新事実"判明

    週刊金曜日編集部

  3. 3

    テレビの報道が信頼されないワケ

    メディアゴン

  4. 4

    加計で総理批判する国民に疑問

    青山社中筆頭代表 朝比奈一郎

  5. 5

    田原氏語る共謀罪強行採決の理由

    田原総一朗

  6. 6

    小林麻央 2年8ヶ月ガンとの戦い

    渡邉裕二

  7. 7

    石破氏 自民党は議論の自由ない

    『月刊日本』編集部

  8. 8

    石破氏「暴言は人間性の問題」

    石破茂

  9. 9

    麻央さん死去 報道の姿勢に苦言

    中村ゆきつぐ

  10. 10

    "保守化"を認められない老人たち

    城繁幸

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。