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東芝の悲劇は音楽事業からの撤退から始まった…。

音楽事業を切り捨て、原子力事業を推進した結果が1兆円超える損失にーー。

AP

日本を代表する大手電機メーカー「東芝」の顛末記である。

東芝は、16年4〜12月期の決算報告を11日に発表した。それも監査法人の「適正意見」もつけない上場企業としては異例の発表となった。それによると最終損益は5325億円の赤字となり、16年12月末には2256億円の債務超過に陥った。17年3月期の最終損益は1兆100億円もの赤字を見込んでいるという。

経営危機を引き起こした要因は、東芝の子会社だった米原子炉技術大手のウェスチングハウス・エレクトリック(WH)の経営破綻。巨額損失を実態より少なくするようにWH幹部が部下に圧力をかけていたという。現状はどうであれ東芝の原子力事業への投資の失敗が悲劇を及ぼしたわけだ。

このニュースを耳にした時、東芝が音楽事業を切り捨てて原子力事業に突っ走った当時のことを思い出した。国策だったのかもしれない。とは言え、結果的には目先の利益しか考えようとしなかった東芝のトップの判断が、今回の悲劇を導いたことは明白だろう。

音楽メーカー「東芝EMI」の消滅


渡邉裕二
2006年から2007年にかけてのことだった。

「東芝EMIがなくなる」

当時、そんな記事を何度ともなく書いた。

十年一昔と言うが、10年の月日が経って、今度は東芝そのものが先行き不透明の瀬戸際に立っているのである。因果なものだ。

東芝EMIは、60年に東京芝浦電気(東芝)の音楽ソフト部門が「東芝音楽工業」として分離独立したのがスタートだった。その後、73年には英国のEMIミュージックが資本参加し、名称を「東芝EMI」とした。当初は共に50%の出資比率だったが、その後、東芝が45%、EMIミュージックは55%という比率になった。この持株に関しては諸説あるが、結果的には東芝というよりEMIミュージック傘下の外資系レコード会社として歴史を刻んできたことになる…。

言うまでもなく世界のレコード・メーカーは4つあった。その中でEMIミュージックは全世界50都市に拠点を持ち14%のシェアを維持していた。具体的にはユニバーサルミュージック、ソニー・ミュージックエンタテインメントに続いて第3位にランクされていた。国内売上だけをみると、およそ500億から450億円だった。

世界的なレーベルだけに所属アーティストも大物揃いだった。

Getty Images
ザ・ビートルズ、ポール・マッカートニー、デビッド・ボウイ、ミック・ジャガー、レディオ・ヘッド、ピンク・フロイド、ローリング・ストーンズ、ティナ・ターナー、レニー・クラヴィッツ…。ドメスティックでは矢沢永吉、松任谷由実、小沢健二、アルフィー、長渕剛、宇多田ヒカル、椎名林檎、矢井田瞳など…合わせると1500組以上にのぼっていた。その他、オフコースやチューリップ、加山雄三、BOØWYなど過去の音源カタログも豊富だった。

レーベルには「EMI」「Virgin」の他に「ブルー・ノート」「キャピタル」「クリサリス」「クラシックス」「Parlophone」等があった。名実共に世界を代表するレコード会社として君臨してきた。

音楽事業から原子力事業へ

AP

しかし、「不況に強い産業」と言われ続けてきた音楽産業も99年をピークにCD売上げが減り続けていく。その一方でデジタル音楽配信が急伸していった。そういった中で05年に東芝の社長に西田厚聰氏が就任した(09年に会長、14年に相談役、15年に辞任)。

西田氏は、パソコン事業で功績を残した、いわば功労者だった。社長に就任後は事業整理で財務体制の強化を図った。そこで真っ先に結論を出したのが「音楽事業からの撤退」だった。「社長就任と同時に積極的な設備投資に力を入れた」と言う。

西田氏率いる東芝は、所有していた45%の株をEMIミュージックに売却することで合意した(06年12月)。ところが、その譲渡価格はたったの210億円。この210億円を適正価格と見るかどうかは、もちろん価値観によって違うとは思うが、どう見ても叩き売りだろう。当時、東芝EMIとしての売上げは決して赤字ではなかった。「業界が低迷していく中でも業績は安定していた。当然、利益も上げていた」(当時の幹部)。

そう言えば、東芝はこの時に〝次世代DVD〟と言われた規格戦略でソニー、松下連合の「ブルーレイ・ディスク(BD)」に敗れ、それまで推し進めていた「HD DVD」の開発・生産からも撤退する羽目にもなっていた。

音楽事業を切り捨てる一方で東芝は経営破綻したWHを買収したのである。その金額は54億ドル(日本円で6210億円)だった。社長に就任した途端、西田氏は原子力事業の推進のために音楽事業を犠牲にしたとも言えなくもない。しかし、それが経営方針だった。

「音楽コンテンツ事業は当社グループの他の事業との関連性が低い状況になっている」。

冷め切ったようなコメントを発表していたことを思い出す。
いずれにしても東芝にとって、それまでの音楽事業は必要ないということだった。

振り返ってみれば、日立にしても日本コロムビアを米投資会社のリップルウッドに売却して音楽事業から撤退している(現在の日本コロムビアはIT関連企業のフェイスが主要株主となっている)。

一方、東芝から株式を譲渡されたEMIミュージックはどうだったのか?

当時、株式譲渡に関して東芝はEMIミュージック側から「提案された」とは言うが、現実にはEMIも財政難だった。しかし、 「日本市場への期待感と同時に、グループ自ら100%の株式を保有することで、世界のリーディング・カンパニーとしてのEMIミュージックを、さらに発展させていこうという思惑があったのではないか」(音楽関係者)。

もちろん、その根底にあったのは日本の音楽マーケットが米国に次いで2位の市場だったことが大きい。結局、東芝はすんなりと株式を譲渡してしまい、東芝EMIは07年6月30日に名称を「EMIミュージック」に変更。同時に本社移転が明らかになった。

同社の本社は当時、東京・赤坂の溜池の交差点の近くにあった。9階建てビルが2つ。ちょうど首相官邸の隣である。

本社ビルは「寺尾ビル」と呼ばれていた。寺尾聡が「ルビーの指環」を大ヒットさせた時に建てたからだ。もう一つは裏側の別館ビルだったが「ユーミン・ビル」と言われていた。文字通り松任谷由実のアルバム・ヒットで建てたという。さらに、本社ビルの1階は宇多田ヒカルの〝功績〟もあって、豪華にリニューアルした。これは「宇多田ロビー」と呼ばれていた。

Getty Images
東芝が離れて、100%外資になった途端に、〝宇多田ロビー〟のあった〝寺尾ビル〟と〝ユーミン・ビル〟は、アッと言う間に売却されてしまい、移転と同時に取り壊されてしまった。今や影も形もない。そんなものだろう…。

そう言えば、07年の大晦日の「第58回NHK紅白歌合戦」では寺尾聡が26年ぶりに出場し、「ルビーの指環」を歌っていた。あれは実にタイミングがよかった。因みに寺尾は第1部で歌ったが、視聴率は1部では最高の38.3%だった。

話を戻すが、東芝から株式を譲渡されたEMIミュージックは、前述した通り資金難に陥っていて、現実的に経営は大変だった。

「EMIグループはデジタル音楽配信の出遅れが経営に響いていたのです。東芝から株式を譲渡された以降、一時は英国の大手投資ファンド、テラフォーマからEMIグループに株の買収を提案したこともあったと言います。その買収金額は24億ポンド。日本円にして5700億円でした。これにEMIグループの負債を合算すると買収金額は日本円では7000億円以上になったそうです」(事情通)。

結局、テラファーマとの買収交渉は消滅したが、12年に音楽出版の「EMI音楽出版」はソニーに、そしてレコード部門をユニバーサルミュージックグループが買収した。レコード部門の買収金額は1463億円だった。

西田氏は、当時のことについて「その時点で最適な経営判断をしたつもり」という一方で「僕は、もう1年以上も前に東芝を退職しているので、東芝とは何も関係がない」とうそぶいている。

西田氏は今でも「原子力事業は非常に長いタイムスパンで考えないといけない」と言うが、創業113年を迎える〝東芝の悲劇〟は、音楽事業を切り捨ててまで原子力事業に舵を切った時から始まったとも言えなくもない。

そして、あるいは…亡き忌野清志郎の叫びが届いたのかもしれない。

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