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「子どものため」の呪縛 休まないことが美化される教育現場 教員の「働き方改革」をデータから考える - 内田 良

教育は無限、教員は有限

 教育とは厄介なもので、いくらやっても終わりがない。

 勉強一つをとっても、子どもそれぞれに得手不得手があり、理解の進度もちがう。個々の状況に応じた手厚い指導ができるに越したことはない。

 しかも勉強だけをみていればよいというわけでもない。いじめをはじめとする子ども間の人間関係にも十分な配慮が必要であり、さらには親子関係にまで踏み込まざるを得ないこともある。教育とは「善きもの」であり、それゆえ、無限の足し算がつづいていく。


©iStock.com

 その一方で、それを担ってくれる教員は、無限にいるわけではない。「教育は無限」だけれども、「教員は有限」なのだ。だから、教員は疲弊していく。

 そしてこの記事で指摘したいのは、その疲弊の流れに、教員集団がみずから乗っかってしまう危険性である。

教員の勤務実態――学校滞在は約12時間


図 小学校教諭(上)と中学校教諭(下)における平均的な出勤・退勤の時刻(連合総合生活開発研究所『とりもどせ!教職員の「生活時間」』より転載。ただし一部省略)

 連合総合生活開発研究所が2015年に実施した教員調査では、教員の過酷な勤務実態が改めて浮き彫りになった。

 小学校教員の平均像は、出勤時刻が7時31分、退勤時刻が19時4分で、在校時間は11時間33分に達する。中学校教員は、出勤時刻が7時25分、退勤時刻が19時37分、在校時間は12時間12分で、小学校教員よりもさらに長時間の勤務実態が認められる。

 同研究所による2007年時点の調査で、民間の労働者では出勤時刻が9時00分、退勤時刻が18時15分、在社時間(職場にいる時間)が9時間15分であり、小中学校の教員はそれと比べて圧倒的に長時間働いていると言える。

休みなき教員の一日


図 小学校教員の一日(「教採合格ネット」の「教師の1日(小学校編)」のページをもとに、筆者が作図)


図 中学校教員の一日(「教採合格ネット」の「教師の1日(中学校編)」のページをもとに、筆者が作図)

 インターネット上ではいくつかのサイトで、教職を目指している大学生に向けて「教員の一日」が紹介されている。たとえば、教採合格ネットにも、小学校と中学校それぞれの具体的な例が示されている。これらのページは、けっして教職の過酷さを誇張するためのものではなく、単純に「教員の一日」を具体化したものである。

 朝早くから夜遅くまで、授業以外にもさまざまな業務が詰め込まれている。よく見てみるとわかるように、教員の一日には、労働基準法第34条に規定されている「休憩時間」がない。

 昼食の時間帯は、給食指導である。配膳の指導から生徒とのコミュニケーションまで、けっして休憩にはならない。じつは制度的には、授業後の15~16時台の時間帯に「休憩時間」が設けられているものの、そんなものはまったく機能していないのだ。

休まないことが美化される!? 「子どものため」の呪縛

 過酷なスケジュールの上に、教員には残業代は支払われない。土日の出勤も、(とくに部活動指導の場合には)当たり前である。


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 そして私が懸念するのは、これほどまでに負担が大きいにもかかわらず、それを美談にする教員文化があるということだ。

 たとえば、校長は教育実習生における勤務時間外の活動を、次のように高く評価している。

教師を志して日々奮闘する姿を、本当に頼もしく感じます。

私が実習生だった頃、子どもがかわいくて仕方なく、先生方からの厳しく温かい指導のもとで、夜遅くまでときには徹夜をしながらも、授業の準備に打ち込みました。それが、その後の教師人生に大いに役立ちました。

(ある学校だよりから。文章の意味内容を保ちつつ、表現を改変した)

今日も教育実習生が、朝は早くから夜は遅くまで、真剣に誠実に、実習に取り組んでいます。教育とは、子どもの可能性を引き出す営み、それがどれほど素晴らしいことか。教師という仕事への憧れとやり甲斐を、しっかりと感じてもらいたいと思います。

(ある校長のブログから。文章の意味内容を保ちつつ、表現を改変した)

 実習生が長時間にわたって励む姿こそが、教師のあるべき像だという。なぜなら、それが「子どもがかわいい」「子どもの可能性を引き出したい」という意志のあらわれとみなされるからである。


©iStock.com

不満を言うことの罪悪感

 なるほど、先述した小学校教員の一日に関する記事においても、最後にその教員は「子どもと過ごすのは楽しいし、教材研究や校務も苦痛だと思ったことはなく、むしろどうしたら授業が楽しくなるか、クラスが盛り上がるかといつも考えています」と、語っている。そして、記事はこう締めくくられている――「これぞ教師の鑑ですね」。

「子どものため」に夢中になって職務に没頭していく。それを教師のあるべき像として讃えるかぎり、どれほど教員の仕事が増えていっても、それをこなしていくことが正当化され、長時間労働の問題はまったく見えてこない。

 教育という仕事は、たしかに子どもの未来をつくりだす、尊い仕事である。だが、だからこそ先生たちには健全な労働者として過ごしてほしい。疲れ切った労働者のもとで、よい教育が生まれるとは、私には思えない。

 私が知る教員は、「匿名にしているけれど、Twitterで仕事の不満を言うことに罪悪感がある」という。先生たちは、本当に熱心に、「子どものため」を思って仕事をしている。教員の働き方改革を進めるためには、学校内部の教員文化に風穴を開けなければならない。そのためには、国や自治体の教育行政による外部からの積極的なはたらきかけが、不可欠である。

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