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アメリカのシリア空爆は合法か



植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)

【まとめ】

・米のシリア空爆が「人道的介入」かどうか議論呼ぶ。

・安保理の支持無し単独軍事攻撃は国際法上違法。

・最終的には国際政治力学で決まる。

■シリア空爆は「人道的介入」か?

シリアのイドリブ地方で4月4日に起きた化学兵器を用いた空爆をアサド政権の仕業と断定して、アメリカは6日、シリア中部ホムスのシュアイラート空軍基地をトマホーク巡航ミサイル59発で空爆した。この空爆を巡っては、国際法上合法か違法かの議論が起きている。

国際法上は、武力の行使は基本的には個別的、集団的自衛権の行使に加え、国連憲章第7条下で集団安全保障体制による強制行動が認められている。アメリカの武力使用は、化学兵器使用によって起きた人道的介入となる。

人道的介入で国際的合法性が認められるのは、2005年の世界サミットの成果文書で支持された国際社会の「保護する責任」であるが、これは、戦争犯罪、人道的犯罪、ジェノサイド、民族浄化の4つに限られる。この保護する責任が具体的に言及され、国際社会が軍事介入したのは、2011年のリビアに対してだった。この時は、国連の安全保障理事会(安保理)による決議で国際社会の人道的介入が認められた。

■化学兵器使用は人道的違反行為

今回のアメリカの空爆は、安保理決議に基づいた介入ではなく、反対勢力はこれを国際法上違法との見方をしている。アサド政権を支えるロシアは、「侵略行為」とまで述べ批判している。他方、日本を含めた西側諸国は概ねこれを政治的に支持している。支持している根拠は何かというと、化学兵器使用が人道的違反行為に当たるという見方である。また、シリアが批准した化学兵器禁止条約に自ら違反したことになる。

シリアは2013年にアメリカの空爆を避けるために、自国の化学兵器の撤廃と化学兵器禁止条約を受け入れている。この条約では、化学兵器の開発から、生産、貯蔵、使用まで包括的な禁止が課されており、さらに、現存の化学兵器は撤廃する義務がある。

シリアの化学兵器は、シリアの申告に基づき、国連と化学兵器禁止機関(OPCW)、アメリカなどの関係各国の協力で撤廃されたが、未申告のものがあるのではないかとの疑惑は残った。その後、クロリンなどの使用が取り沙汰されたが、今回はサリンが使用されたとの疑惑が高まっている。クロリンは水の消毒など民生用にも使用されるため、禁止されてはいないが、サリンはクロリンよりも強力な神経性の毒ガスである。

■安保理支持無しの単独軍事行動は国際法上違法

国際条約に違反した国が出た場合は、最終的には安保理による強制行動によって対処することになるが、ロシアは拒否権を持っていることから、安保理を通じてはシリアに対して制裁を課すことは出来なくなる。安保理の支持を得ないで単独の軍事行動に出た場合は、個別的、集団的自衛権の行使以外では国際法上違法ということになる。

しかし、これまでに、安保理を通じないで人道的介入が正当化されたことがある。それは、1999年に起きたコソボ紛争での旧ユーゴスラビア(現セルビア)によるアルバニア系コソボ人の弾圧に対する北大西洋条約機構(NATO)の対ユーゴ空爆だった。この時は、大規模な人権侵害が起きた時には、しかも、安保理が有効な手段を即時に取れない時には、人道的な観点から軍事介入できる、というものだった。しかし、これは例外的な措置として見られ、既成事実化したものだった。

■最終的には国際政治力学が働く

今回のアメリカの空爆は、アメリカも、禁止されている化学兵器の使用に対する「熟慮した、相応の対抗措置」だとして、その正当性を主張している。トランプ大統領の対立候補だったヒラリー・クリントンや共和党の有力議員で日頃トランプ大統領に批判的なジョン・マケイン上院議員も、今回のトランプ大統領の行動には支持を表明している。

国際法は、主権国家がそれを順守するかどうかで、その有効性が試される。また、その解釈も国際政治によって影響を受ける。世界政府が存在しない主権国家社会で、化学兵器禁止という国際的規律をどのように順守させるかは、最終的には国際政治力学に左右されることになる。

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