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ボーイングVSエアバス――大型旅客機闘争にみる欧米の産業競争の歴史

敗戦で廃れてしまった日本の航空機産業

スタジオ・ジブリの宮崎駿監督「風立ちぬ」(2013年)の主人公は太平洋戦争に投入された名機と言われる零式艦上戦闘機の設計者・堀越二郎であった。開発当時、世界最高水準の性能と言われたこの戦闘機も敗戦近くにはアメリカ陸海軍に研究し尽くされ、マリアナ沖海戦(1944年)で大敗を喫する。ただ開発当時の零戦の性能が物語る様に、戦前の日本の軍事技術は世界レベルであった。巨大な航空母艦もアメリカ・イギリス・日本しか製造できなかった程であった。

戦後日本を占領していたアメリカのGHQは日本に「航空禁止令」を敷き、まるで日本の航空機産業の根を断つかの様に全ての航空機・航空会社・航空教育などを破壊・消滅させる。そして、戦後世界では、もう目の前に「巨大船舶による各国渡航の時代」から「大型航空機による各国渡航の時代」が来ていたのだ。

(c) BALANGA

日本も、旅客機製造計画に1957年やっとの事で乗り出すことができた。あの零戦の堀越二郎も主要設計チームに加わった。1964年「YS-11」と名付けられたその中型プロペラ機は名機と呼ばれアジア各国にも多数売れた。だが、YS-11の様な中型プロペラ機では当然世界市場には入って行けない。すでに世界的な「巨大旅客機利権」はすでにもう戦勝国「アメリカ」と「ヨーロッパ」に握られていたのである。しかもドイツ、イギリス、アメリカで開発された肝心のジェットエンジンの技術は完全に彼らに握られている。

自国が常に背後にいる「国策企業」

その欧米の2社が今回ご紹介する「国策企業」のボーイング社(米国)とエアバス社(フランスを中心とした欧州4カ国連合)である。現在、ボーイング社は売上高7兆円以上、エアバス社は5兆5千億円という超巨大企業である。つまりアメリカとEU間での国家間産業戦をこのドキュメンタリーを丹念に描いている。巨人・ボーイングに対して欧州のエアバスは各国連合で小規模から始まりボーイングに迫ってゆく。この作品では「弱」が徐々に「強」に迫る過程を息詰まる展開で描いている。もちろん両社とも国の背面協力が無ければここまで来なかったと言う意味ではまさに「国策企業」である。ここでの「国策企業」というのは国が常に背後に付いており、企業戦略にも国家規模の協力が期待できるということである。私の友人のあるアメリカ人銀行家に「国策企業」について聞いてみた。

「昔、イギリス・オランダ等に『東インド会社』と言うのがあっただろう。あれがたぶん世界初の国策企業だ。彼らは植民地化と多国間貿易でアジア中を引っかき回したから歴史にもずいぶん影響を与えた。現代の国策企業は『東インド会社』の様に強欲でも悪徳でもないが、今で言うとアメリカでは『Google』あたり日本では『トヨタ』この辺はボーダーラインだが国策企業と言えるかも知れない。もちろん『ボーイング』や『エアバス』は間違いなく国策企業だろう。」

(c) BALANGA

今や日本企業は旅客機の製造には欠かせない存在

なるほど。しかし、調べると面白い事がわかって来た。今や一国で旅客機を全て製造する時代は去り、『ボーイング』も『エアバス』もその部品・部分を作るのが得意な国に製造を委託しそれを組み合わせて製品化しているそうである。考えれば、コンピューターなどは随分前から世界各国から取り寄せたモジュール化した部品で製造しているので当たり前の話なのだが。しかも、旅客機では他ならぬ日本企業が結構重要な位置を占めているという。

どのような企業かと言うと、例えば、三菱重工、川崎重工業、IHI,富士重工、東レ、パナソニック等。ボーイング787に至っては日本企業の分担率が35%に至っていると言うのだから、ボーイング社もエアバス社も今や日本企業の助け無く大型ジェット機が製造できない状態なのである。

映画「風立ちぬ」の堀越二郎は飛行機の機体の美しさに憧れて、飛行機の設計を始めた。しかし、それは戦争に使われる軍事兵器だった。この人間的矛盾が宮崎駿監督のあの映画でのテーマの一つでもあったと思う。人間はなかなか自分が生きている時代には逆らえない存在であると言うことだろうか?

戦後、初の国産機YS-11という旅客機を設計している時の堀越二郎はどんな様子だったのだろうか。YS-11の製造には後にボーイング社・エアバス社に協力する三菱重工、川崎重工、富士重工も加わっている。もし、理想の飛行機を追い求めた堀越二郎のDNAがいまも世界を駆け巡る「ボーイング」や「エアバス」にわずかでも混ざっているとしたら……。こんなことを夢想することは果たして罪な事なのであろうか。

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