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特集:トランプ政権と最初の挫折体験

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3/21-27 にかけて、筆者としては久しぶりに米東海岸(ワシントンDC とニューヨーク)に出張してきました。この期間中に、下院における「オバマケア撤廃&代替法案」(Repeal& Replace)が採決延期となり、トランプ政権にとっては最初の「挫折体験」となりました。ここで躓いてしまうと、その後に控える税制改革やインフラ投資といった課題も途端に実現性が怪しくなってくる。NY 株価が大きく下げたのも無理はありません。

ただしこれで「トランプ相場」が終わりかと言えば、利上げにもかかわらず米国経済は堅調であるし、経営者のアニマル・スピリッツも意気盛んであるように見えます。今後はトランプ政権のどこに注目すればいいのか。出張報告を兼ねてお届けします。

●共和党は憎きオバマケアを撤廃できず

3月23日、ワシントンDC は桜がほころび始めていた。3時のお茶にと、市内新名所の「トランプ・インターナショナル・ホテル」に足を運んでみたところ、ちょうど「オバマケア撤廃&代替(Repeal & Replace)法案」が下院で議決されるかどうかという日であり、ホテルの前には、近郷近在から「オバマケアを守れ」のデモ隊が集結しつつあった。

なるほどペンシルベニア通りに面している同ホテルは、議会へのデモ隊が集まるのに絶好のロケーションなのであった。さまざまな色や形のプラカードには、”Don’t take my care”(私の保険を取らないで)、”We fight back”(戦うぞ)、“No Cuts to Medicare”(メディケアを減らすな)、“Virginians for the ACA”(オバマケアを支持するヴァージニア州民)などの文字が書かれている。まことに平和的なデモ隊で、うるさく騒ぎ立てることもなく整然とその場を去って行ったが、彼らはきっとその夜は祝杯をあげたに違いない。

それというのもこの日の午後、ライアン下院議長は同法の採決を延期することを宣言したのである。票読みが思わしくなかったからだ。

下院の総数は435 議席。共和党が237 人に民主党が193人で、空席が5 議席。過半数は216 議席となるから、民主党議員は全員反対したところで、共和党が一枚岩になれば法案は楽勝で通せる。ところが共和党内には約30人の「フリーダム議連」(Freedom Caucus)が居る。「小さな政府」を目指す確信犯的な保守主義者たちである。

彼らは純粋に「オバマケア撤廃」であるべきで、ライアン議長が用意した代替案などは”Obamacare Lite”に過ぎないと思っている。そうは言っても、2010年には5000万人も居た無保険者は、2016 年には2700万人に半減している。確かにそれで財政赤字は増加し、国民負担も増したわけだが、それをいきなり元に戻すのは現実的ではないだろう。現に世論は、これまで一貫して「オバマケア不支持」が多数を占めてきたものの、今年の1月からは支持が不支持を上回っている。何らかの代替策が必要であることは自明であった。

そこでライアン議長は、急きょ「個人の加入義務とペナルティを廃止、メディケイドを縮小」などの方策を織り込んだAHCA(American Health Care Act)をまとめあげる。この法案は突貫工事で作っただけあって、突っ込みどころはいろいろあった。仮に電撃作戦で下院を通すことができたとしても、上院の審議は持たなかったかもしれない。上院の議席数は共和党52対民主党48 と僅差であるし、これまたテッド・クルーズ、ランド・ポールといった「うるさ型」の共和党議員が揃っているからである。それでもとにかく、法案が下院を通らないことには話が始まらない。

そこで話は票読みに戻る。共和党内の造反者が21人までなら法案はギリギリ通せる。それを超えると否決されてしまう。この日のお昼、デュポンサークル近くの「Sushi Taro」でランチをご一緒した”Washington Watch”の山崎一民編集長は、「今日の採決は延期になるでしょう」と予言していた。そして実際にその通りになったのである。

こうなると、フリーダム議連の行動はまったく不可解に思えてくる。なにしろ自分たちが反対に回ることで、結果的に彼らが憎んでやまないオバマケアが存続することになってしまうのだ。それと同時に、トランプ大統領やライアン議長の顔に泥を塗ることになる。

ところがそれでも構わない。自分たちはオバマケア撤廃を公約して当選してきたのだから、妥協はしたくない。ある意味、駄々っ子のようなメンタリティなのである。

トランプ大統領は、彼らの同意を得るために手練手管を尽くす。ホワイトハウスに議員たちを呼んで手なずけようとしたり、「反対すると、次の選挙が危ないぞ」と脅したりもした。前任のオバマ大統領は、この手の説得工作をまったくやろうとしない孤高の人であったが、その点でトランプ大統領はさすがに根っからの「ネゴシエイター」であった(もっとも法案の中身は、よく理解していなかったとの説もある)。

いよいよAHCA を通せない、という事態に直面したとき、トランプ氏はさぞかし面食らったことだろう。損得勘定よりもイデオロギーが大切だなんて、そんな変な人種は少なくとも、彼が過ごしてきたビジネス界には存在しなかったはずだからだ。

●「党内の造反」に手を焼くトランプ大統領

結局、トランプ大統領の脅しは功を奏せず、翌24日も採決はできなかった。このことは、トランプ政権の政策運営能力に大いなる不安を抱かせることになる。なにしろ共和党は上下両院で多数を有していても、悲願の法案を通せないのだ。ライアン議長の威信も低下した。共和党内の思想的分裂はまことに深刻と言わざるを得ない。

「フリーダム議連」は、人数的には共和党下院議員の15%程度を占めるに過ぎない。それでも彼らは、「次の選挙が危ないぞ」という脅しに屈することはなかった。なにしろティーパーティー運動を支援している大富豪コーク兄弟が、「今回の法案に反対した議員には、2018 年選挙で資金を援助する」などとぶち上げているのである1

コーク兄弟は、カンザス州でエネルギー産業を営む経営者で、「リバタリアン運動」の支援者として知られている。2010年の最高裁判決により、個人献金の上限が取り払われたために、カネ持ちが「スーパーPAC」を作って政治家を青天井で支援できるようになった。

つまり特定の政治家を支援する行為は、合衆国憲法が保障する「表現の自由」の一環だというのである。ただし、これではカネ持ちによる政治介入を無制限に認めることになる。ワシントンでも、「あれで政治が変わってしまった」と嘆いている人は少なくない。

今回の事態に対し、民主党側は笑いが止まらなかっただろう。トランプ政権が勝手に躓いてくれて、絶体絶命だったオバマケアは敵失により延命することができた。結果的には、「反トランプ」で党が団結していたことが正解であったわけで、この後も「何でも反対」路線が続きそうである。新たに最高裁判事に任命されたゴーサッチ判事の承認にも、フィリバスターを使って徹底抗戦を試みることだろう。

3月29 日付のWall Street Journal 社説は、
「社会通念がドナルド・トランプ米大統領を危険なファシストと呼んでから、救いがたい無能者と決めつけるまでに、一瞬振り返る暇さえないほどだった」
とこき下ろした2。すなわち米国の三権分立によるチェック・アンド・バランスは機能している。司法は入国禁止令の執行を停止したし、議会は最優先課題である医療保険法案を阻んだ。トランプ政権恐れるに足らず、というのである。

こうなると、昨年11月からぶっ続けだった「トランプラリー」も、この辺で見直しが必要ということになる。オバマケアの廃止ができないくらいなら、マーケットが待望している税制改革やインフラ投資もできないのではないか。もともとの共和党の読み筋では、オバマケア廃止によって浮いた財源を法人減税に回すことになっていた。それができないとなれば、減税規模はより小さなものになる。そしてインフラ投資についても、フリーダ ム議連は「財政赤字拡大」に強固に反対することだろう。

さて、ここでトランプ大統領は何を考えているのだろうか。

心中を勝手に推測させてもらえば、トランプ氏はもともとオバマケア廃止に深いこだわりがあったわけではない。共和党議員たちの悲願であったから仕方なく「お付き合い」しただけで、いわば「他人のヤマ」であった。それに本来、低所得層が多いトランプ支持層が、オバマケアの撤廃を本当に歓迎したかどうかも疑問が残る。

そもそもトランプ氏は、政策全般に対しても関心は薄い。大統領は究極の「政策セールスマン」であり、議員をおだてたり脅したりして法案の成立を目指す。商品の中身はさほど気にしないが、勝ち負けには徹底してこだわる。法案を通して「どうだ、見たか!」と誇りたい。今後も貪欲にそのチャンスを目指してくるだろう。

トランプ政権の発足から既に2か月以上が過ぎている。「最初の100日」というメルクマールのうち、既に3分の2を過ぎてしまった。そろそろ何か内政上の成果を挙げておかないと、トランプ当選を支えた熱狂的な支持者たちが去っていくかもしれない。

とはいえ、フリーダム議連は始末に負えない原理主義者たちである。だったら議会で民主党と協力してもいい。真面目な話、インフラ投資などは本来、民主党がやりたがっていた政策ではなかったか。トランプ氏はイデオロギーには全くこだわらない。交渉で勝つためならば、それまでの敵と手を結ぶことにも躊躇しないのがトランプ流である。

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