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キラキラキャリアの罠 「てるみくらぶ事件」から山ほど学べること - 増沢隆太(人事コンサルタント)

激安ツアーで有名だったてるみくらぶが破産しました。人気業界の、ともすればキラキラした面だけしか見ずに志望する就活学生も多い中、旅行会社など人気業界を目指す時にこの事件から学べることは山ほどあります。

■旅行会社の仕事(ビジネスモデル)

てるみくらぶ(以下、てるみ社)は既に破産状況に陥っている経営状態を公開せず、破産申請直前まで新規営業を続けたことで、顧客によっては海外で帰りのチケットが無効になってしまうなど被害が広がっています。さらには顧客だけでなく自社スタッフについても、4月入社の新卒採用内定者は破産によって行き場を失うなど、大きな影響が続いています。

旅行業界は長年新卒就職先ランキングなどで上位の常連で、特に文系学生から大人気です。しかし学生の志望動機などエントリーシート(ES)指導をやっていると、こうした業界を志望する学生に業界知識が非常に低い者が少なくないと感じます。

旅行業界、旅行代理店とはお客さんと一緒に旅行をするのが仕事ではありません。格安旅行パッケージで差別化し、大手に対抗する戦略もあれば、ゴージャスな高付加価値旅行を売り込む戦略もあります。激安ツアーを売りにするなら、低価格・低粗利・高回転で収益確保が必要になります。

低価格なのにかゆいところに手が届くようなお客さんサービスは実現できないのが道理です。仕入れと利益のバランスで商売は成り立つということを、旅行業界に当てはめて考えなければなりません。少なくとも志望する学生は、なぜこの会社が倒産したのかをしっかりと理解する必要があります。

■ビジネスモデルから見る企業選択

私は昨年末からの就活シーズンで、たくさんの大学で「企業選び」の講座を行っています。そこで訴えるのは財務分析や初任給・平均給与・退職率などの数字ではなく、その会社の事業そのものの理解です。財務情報で企業分析ができればカッコ良いですが、現実にはライブドア事件のように財務情報が間違っていたり虚偽だったりすれば分析のしようがありません。

今回の事件でもてるみ社は日本旅行業協会正会員企業であり、ちょっと調べたくらいで会社として大丈夫かどうかなど素人で判別がつくものとはいえないでしょう。企業を見る上で大切なポイントはそうした情報ではなく、そもそもの企業の成り立ちです。どんなビジネスモデルで経営しているのかを理解するのが何より大事なのです。

旅行代理店と一口に言っても、その会社はどんな風に商品を企画し、仕入れ、運営して、誰に、いくらで販売しているのかという商売の全体像を知ることが企業選びの土台です。財務情報が無用なのではなく、この土台を理解せずに数値を追いかけても無意味だということです。

■またしてもキラキラの弊害

旅行業界や広告業界など華やかな世界を志望する学生の志望動機では、そのビジネスのきわめて表層的な、キラキラした表面だけしか見ていないものが少なくありません。キレイごとの部分がウソだというのではなく、そんな表面だけで完結する仕事など普通はないのです。

小学校や中学校からキャリア教育に取り組むことは悪くないのですが、自分の夢ばかりを追わせるような教育だった場合、現実の仕事に就いた時にその巨大すぎるギャップを乗り越えられなくなります。特にお金儲けの仕組みから目を背けたキャリア教育は全く無意味です。

金儲けは悪いことでも何でもなく、適法で適正な商売を行うことで、従業員の賃金や税金も含めて貨幣経済・消費市場において、社会が循環します。これこそ健全な社会貢献です。直接的に人の役に立つことだけが社会貢献だと勘違いしている学生はとても多いのですが、まっとうな商売を回すことの方が、はるかに直接的に社会への還元につながります。

■企業選びの視点

結局てるみ社のビジネスモデルと考えられる薄利多売式の営業は、報道で読む限り安いチケットを仕入れるため大量仕入れ、そのための資金繰り、キャッシュフロー不足がどんどん経営を圧迫し、さらには新聞広告など高額な広告宣伝費がさらに薄い利益を食ってしまうという八方ふさがりで追い詰められていったようです。

新卒採用サイト・リクナビ2018によれば、株式会社てるみくらぶHDの従業員一人当たり約1億円の売上高というのは、堂々たるものです。(現在は公開されていない)ただし売上の大小より利益がより重要ですから、年商140億といっても、どの程度利益があったかは、今となってはかなり怪しいと思われます。

薄利多売自体が悪いのではありません。シーズナリティや市価変動、さらには為替相場の影響が上手く作用すれば大儲けの可能性もあります。しかし今回のように経営の歯車が狂い始めると、取り返しのつかないリスクとなる可能性があります。

このように企業を見るには、一つの尺度や数値だけで判断できるものではありません。まず何より、その会社がどう組み立てられ、どう活動しているのかという根本的な理解の上で、その業界では普通なものか、リスキーなビジネスかなどを自分で判断する必要があります。この事件はまだ終わっていませんが、「企業を選ぶ」という例では重大な示唆を与えてくれていると思います。

【参考記事】
■ダメダメ・就活エントリーシート
http://shachosan.rm-london.com/?eid=612322
■面接の極意
http://shachosan.rm-london.com/?eid=632171
■「面接こわい」への対策(増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/50009855-20161116.html
■危機管理手法に学ぶ、まだ「無い内定」学生の行動規範 (増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/48987216-20160704.html
■「普段着でお越し下さい」でわかる企業体質(増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/50693231-20170220.html

増沢隆太 人事コンサルタント

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