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スマホが農業を変える?(上)トヨタが本気で取り組む農業のカイゼン

[写真]スマホ画面に作業データを入力する鍋八農産の若手従業員

 高齢化や担い手不足、国際競争など、重い課題だらけの農業。そこに今、IT(情報技術)が軽やかに変革をもたらそうとしています。トヨタは車づくりのノウハウを農家に提供、大学はAI(人工知能)も駆使して未来の農業を構想し始めました。その最先端の現場を2回に分けて紹介します。

最初は半信半疑だった作業のデータ化

[写真]タブレット端末で作業工程をチェックする鍋八農産の八木輝治社長(左)

 名古屋市の中心部から西へ約20キロ。三重県との境に近い愛知県弥富市は、木曽川の河口に築かれた干拓地で、今も農業が盛んです。その一画で1962(昭和32)年から米作を始め、98(平成10)年に農業生産法人化したのが「鍋八(なべはち)農産」。現在はパートを含め20人の従業員が、約235ヘクタールの田畑で米や麦、大豆を生産しています。

 その現場に「IT農業」の導入を提案してきたのはトヨタ自動車。同社が自動車事業で培った生産管理手法、いわゆる「トヨタ生産方式」を農業分野に生かすため、ソフト開発に協力してほしいと社員が5年ほど前にやって来ました。

 鍋八農産の八木輝治社長は「最初はトヨタに何ができるのかと半信半疑で話を聞いた。でも社員が何度も通ってきて、現場に張り付くように熱心に開発していく。なるほどこういうことかと、だんだん分かってきた」と振り返ります。

[写真]トヨタ自動車が開発する「豊作計画」のスマートフォン用画面

 八木社長とトヨタ社員らがまず取り組んだのは、鍋八農産がこれまで何千枚もの紙に記録してきた田んぼの台帳や地図、作業日報などのデータ化でした。その中からムダな作業や短縮できる工程を洗い出し、「カイゼン」していきます。その対象は田畑での農作業だけでなく、作業に入る前の準備や片付けも含まれました。

 名古屋市の中心部から西へ約20キロ。三重県との境に近い愛知県弥富市は、木曽川の河口に築かれた干拓地で、今も農業が盛んです。その一画で1962(昭和32)年から米作を始め、98(平成10)年に農業生産法人化したのが「鍋八(なべはち)農産」。現在はパートを含め20人の従業員が、約235ヘクタールの田畑で米や麦、大豆を生産しています。

 その現場に「IT農業」の導入を提案してきたのはトヨタ自動車。同社が自動車事業で培った生産管理手法、いわゆる「トヨタ生産方式」を農業分野に生かすため、ソフト開発に協力してほしいと社員が5年ほど前にやって来ました。

 鍋八農産の八木輝治社長は「最初はトヨタに何ができるのかと半信半疑で話を聞いた。でも社員が何度も通ってきて、現場に張り付くように熱心に開発していく。なるほどこういうことかと、だんだん分かってきた」と振り返ります。

 八木社長とトヨタ社員らがまず取り組んだのは、鍋八農産がこれまで何千枚もの紙に記録してきた田んぼの台帳や地図、作業日報などのデータ化でした。その中からムダな作業や短縮できる工程を洗い出し、「カイゼン」していきます。その対象は田畑での農作業だけでなく、作業に入る前の準備や片付けも含まれました。

他分野でどう活用していけるかを模索

[写真]「豊作計画」のPC画面。各現場での作業者や進捗状況がひと目で分かる

 こうして従業員の作業量や残業が減る一方、肥料を効果的に追加するタイミングなどがデータの裏付けで分かり、収量の増加にもつながりました。これまでは勘と経験に頼っていた部分ですが、作業時間を管理していくことで「この時期がいい」とはっきり分かってきたのです。現在は春の育苗に関わる作業の25%、秋の作業の10%が減り、経費削減と生産性の向上が両立できているそうです。

 ソフトは「豊作計画」と名付けられ、2014年にトヨタ自動車が鍋八農産など9社と共同開発を進めていると発表。農林水産省の「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」にも採択され、開発にはずみがついていきました。

 鍋八農産の他に石川県の農業法人なども導入し、16年度には全国16社に拡大。今春からは北海道士別市の3つの農業法人でシステム導入が決まり、2月下旬に北海道庁で連携協定の調印式が開かれました。

 トヨタ自動車の広報担当者は取材に対し「豊作計画の開発はわれわれのモノづくりにおける『カイゼン』が他分野にどう活用していけるかを探る新事業の一つ。農業ではこれまで漠然としていた作業工程を明確化、見える化し、経営改善に役立ててもらうことができる。国や地域社会への貢献という意味ももちろんあるが、既にライセンス料などはとっており、きちんとしたビジネスとして取り組んでいる」と、その“本気”ぶりを強調しました。

 一方、鍋八農産の八木社長は「ITはあくまで道具」だとも割り切ります。

 「初めは戸惑っていた従業員が、何のためにデータを入力するのかを話し合ううち『有機農法に挑戦したい』などの提案も出してきた。人間が目的意識を持ってしっかり動いてこその道具ではないか」と指摘します。

 社長自らもIT化をきっかけに、田んぼの「土づくり」や「顔の見える農業」といった「泥くさい」作業の大事さにあらためて気付いたといいます。一昨年からは地元の駅前に直営店「おにぎり商店きはち」をオープン。当日に精米したての米を運び込み、旬の食材と組み合わせた「おにぎり」を握り、おしゃれな店内で地元の人たちと交流をしています。こうした経営努力が評価され、昨年3月にはJAグループの第45回日本農業賞で「個別経営の部」大賞に選ばれました。

 若手経営者が引っ張る鍋八農産はもともとポテンシャルが高く、ITという「道具」もうまく使いこなせた面があったでしょう。いわばスポーツカーに高性能エンジンがついたようなもの。では、そうではない場合でも加速できる“最新エンジン”を農業分野でもつくることができるのか。トヨタという企業の新たな力が試されることになりそうです。

 次回は、大学を中心とした産官学によるIT農業の研究開発に迫ります。

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■関口威人(せきぐち・たけと) 1973年、横浜市生まれ。中日新聞記者を経て2008年からフリー。環境や防災、地域経済などのテーマで雑誌やウェブに寄稿、名古屋で環境専門フリーペーパー「Risa(リサ)」の編集長も務める。本サイトでは「Newzdrive」の屋号で執筆

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