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ふるさとの魅力を小学生が取材する「うみやまかわ新聞」が育む地域への愛郷心

小学生たちが自分たちが暮らす地域を取材

90年代後半以降、教育の現場で「愛国心」をどう捉えるかが大きなテーマとなっている。2002年に道徳教育の副読本として「心のノート」が導入された際や、2006年に教育基本法が改正され、いわゆる“ 愛国心条項” が盛り込まれた際も、「本当の愛国心」とは何かという議論がなされた。(教育基本法の第2条5項の「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」。)

撮影:北条かや

こうした流れの中で、時おり聞かれるようになったのが「愛国心」に対する「愛郷心」というキーワードだ。その延長線上にある国家への従属を第一としない郷土愛、生まれ育ったふるさとへの愛着を重視すべきとの考え方は一理あるだろう。しかし、地方が疲弊し「ファスト風土化」する中で、子どもたちが「愛郷心」を育む機会は減っている。

去る2月19日、全国の小学生が、新聞づくりを通して郷土の自然を学ぶプロジェクト「うみやまかわ新聞」の展示・発表会が開催された。全国14カ所、北は利尻島から南は沖縄の小学生たちが、グループに分かれて自分たちが暮らす地域を取材し、大人顔負けの新聞記事にまとめた。その内容には、愛郷心を再考するヒントがいくつもあったように思う。

火山と共存してきた島の小学生

「うみやまかわ新聞 鹿児島県屋久島町口永良部島(くちのえらぶじま)版」を作った、屋久島町立金岳小学校の4・6年生たちは、見出しに大きく「火山島、自然の恵み口永良部島」と書いた。

同島には、新岳(しんだけ)という標高626メートルの火山がある。島に生きる人々は、噴火を繰り返す新岳を畏怖の対象として共存してきた。広大な自然が災害をもたらす一方、同島には4つの温泉が湧き、美しい自然が間近にある。子どもたちは新聞で「シャシャンボ」という木を写真つきで取り上げ、「食べるとあまずっぱくて口の中がむらさき色になります」とその特徴を伝えている。筆者も自然が豊かな地方で生まれ育ったので、登下校中に草花に親しんだり、ときには食べてみたりした記憶を思い出す。

口永良部島では毎年、6月に「エラブツツジ」が山一面にピンク色の花を咲かせる。先の噴火で枯れてしまったというが、新聞で子どもたちは「またピンク色に染まる山を見たいです」と綴られている。「噴火はするけれどぼくはこの島が大好きです。自然の中でいっぱい遊べて楽しいです」との記述も見られた。

災害の記憶と共に育まれる地域のアイデンティティ

日本は6852島からなる島国で、本土5島と418島の離島に人々が暮らしている。世界有数の広大な海洋に恵まれる一方、環太平洋火山帯に属するがゆえに自然災害も多い。小学生が自ら取材テーマを選んで調べた「うみやまかわ新聞」を見ていると、自然と共存してきた人間の「小ささ」を思う。

高知県佐川町小川地区版を作成した小学生たちは、「忘れてはいけない!! 40年前の記憶」と見出しをつけ、1975(昭和50)年に起こった台風5号の被害を大きく取り上げた。災害の経験が地域コミュニティを作ってきた、というとやや語弊があるが、長い歴史の中で、人々は自然の大きさに圧倒されながら地域のアイデンティティを育んできたのだろう。

地元の自然や歴史を知ることで愛郷心が生まれる

撮影:北条かや

海や川があるところに、文明や文化は生まれる。水路は人やモノが往来する道となり、新たな地域との交流につながってきた。長崎県の対馬市立豊小学校5・6年生の「長崎県対馬市版」は、テーマを「上対馬と韓国の今と昔、そして未来へ」とし、朝鮮通信使が対馬を訪れる最初の玄関口であった「鰐浦(わにうら)地区」の歴史をまとめている。地域と地域をつなぐ海があり、そのつながりから文化が生まれてきた歴史を知ることは、子どもたちの愛郷心を重層的に育むだろう。

筆者の幼少期を省みても、山や川、海などの自然に触れるたびにその大きさに圧倒され、長い長い歴史に思いを馳せる中で自己を認識してきたように思う。当時はそれがどんな意味をもつのか深く考えなかったが、周囲に自然が全く存在せず、歴史から切り離された「クリーンで新しい」コミュニティで育っていれば、また違った自己が作られていたと感じる。どちらが優れているという問題ではないが、「うみやまかわ新聞」を作った子どもたちは取材を通して、身近にある大きな自然が、歴史、そして今ここの自分とつながっていることを、おのずから学んでいるように思われた。

撮影:北条かや

戦後、首都圏への一極集中が進む中、地方は「東京並み」になろうと開発を繰り返し、どこも同じような風景になってしまった。自然はもちろん、地域コミュニティや横のつながりも解体され「愛郷心」どころではない、との考えは、少し悲観的過ぎたかもしれない。まだまだ日本には畏怖される自然があり、自然と共存しながら生きる人たちがいて、子どもたちの心中には豊かな郷土の記憶が醸成されている。大切なのはその芽をつぶさないこと、自然と沸き上がる郷土愛を、従属的な「愛国心」にすり替えないことであろう。

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