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パート社員でも退職金の準備ができる理由と方法 - 野口俊晴(ファイナンシャル・プランナー)

■基本給に準じて退職金も同等に

「パートだって退職金をもらいたい」
そういう期待を持たせたのが政府の「同一労働同一賃金ガイドライン案」(平成28年12月20日)だった。そこには基本給、昇給、賞与、手当などの格差解消案が出されている。しかし、退職金の項目はない。ちなみに基本給について見てみると次のようにある。
基本給について、労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の職業経験・能力を蓄積している有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、蓄積している職業経験・能力に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。
何が何でも、非正規社員にも正規社員と同じ賃金を払えと言うのではない。あくまで「労働者の職業経験・能力に応じて」ということである。続いて労働者の「業績・成果」、「勤続年数」に応じて支給する場合も、不合理な待遇差を解消するよう求めている。このように基本給の扱いに準じて、退職金についても同等に取り上げてもらいたかったということである。

■退職金に縁のない人はこれだけいる

とはいえ実際に退職金となると、資金の長期運用、社員の責任度合いやキャリア育成の評価など複雑な要素もあり、基本給ほど簡単に扱えないのはわかる。それに、会社に退職金がないこと自体は違法ではない。問題は、正規社員に支給されている場合に、同程度の評価の非正規社員に支払われないという点にある。

退職金については、正規の社員しかもらえないというのが一般的である。企業では、非正規社員の働き手は欠かせない。非正規とはいえ勤務体系は正規社員とさほど変わらず、勤続年数の長い者もいる。それなのに、会社規模を問わず非正規社員の退職金はあまり望めない。

会社にとっても社員にとっても、当面は退職金のことを考えなくてもいいという事業所はけっこうある。日本の全会社のうち退職給付制度のない会社は約25%、ざっと100万社近くある。何らの企業年金制度にも加入していない人は約1950万人もいる(厚生労働省「就労条件調査」等の資料より)。それだけ退職金に縁のない人がいることになる。働いた期間分の「功績」として、せめて手当程度のものがあってもいいように思えるのだが。

■給与には退職金が入っているか

退職金というのは、長年頑張って働いた者への褒美に似ていながら、実はもともと社員がもらうべき給与の一部と考えた方が自然だ。だから、後でまとめてもらうよりは今もらったほうが利得を感じるという者にとっては、前払い退職金が適っている。

そうなると、退職給付制度のない会社の社員にとっては、退職金の前払い分が毎月の給与に含まれていると考えるべきだろうか。もし、前払い分の退職金が毎月の給与に組み込まれているのなら、誰も文句は言えなくなる。

平均以上に収入を得ている社員なら、退職金がなくても納得いくかもしれない。「給料の中には将来の退職金も入っているから、この金額なんだな」と。しかし、正規社員と同等レベルの時間や内容で働いていながら低賃金の非正規社員が、「その給料の中には将来の退職金分も入っていますよ」と言われて、どれだけの人が納得できるだろうか。それどころか、「非正規社員なのに退職金をもらうの?」と端から言われるはめになる。

■自分で積み立て、自分で運用する方法

その月の給料に将来の退職金が入っているかどうかを知る方法はある。「退職給与規定」である。「規定」そのものがなければ退職金はないのだから、前払いも後払いもない。仮に「規定」があったとして、退職金が月給に含まれているという定めがなければ、前払い分は存在しない。そうでなくても、「給料に退職金分も含まれている」と口頭でも言われてなければ、それは当月分の給料でしかない。

本来、給与に退職金が含まれていないなら、その分を請求できるものだ。しかし現状では、正規も非正規もすべての社員について退職給付制度を設けるというのは難しい。それなら自分で積み立て、自分で運用するしかない。その最良に近い方法が今のところ、個人型の確定拠出年金(DC)である。(筆者はこの制度の関連機関とは中立の立場として書いている。)

それにしても個人型DCの加入者数は、極端に少ない。これまでの加入者数は約33万人、退職金のないサラリーマンの数の2%にも満たない(平成28年12月末現在)。DCのメリットとしては、税制優遇やポータビリティ(年金資産の持運び)などがある。このような制度的メリットがあるにもかかわらず、個人はあまり動いてこなかった。これは、何故か。

■人を経済行動へと動かすもの

その疑問に答えるために、人を経済行動へと動かすものについて考えてみたい。

恐怖。人は恐怖や不安によって、1つの行動を起こしやすい。身の危険が現実に迫ると、一時的に人は誘導される方向に動いていく。しかし、おさまってしまえば、人は恐れをなくす。なくすからまた、煽られる。そこで人は脅し文句で誘い出されることになる。老後破綻、貧乏老人、極貧老後などの言葉。あたかも「今のままだと、そんな風になってしまいますよ」と言わんばかりに。

罰則。人はまた、目に見えない将来のメリットよりも、目の前の強制力に弱い。つまり、法的規制である。「そっちのことをやれば将来お金がもらえるだろうけど、今こっちのことをやらなければ罰金を払うことになる」となれば、誰でも後者を選ぶだろう。法を犯したら罰金となる。これは人に経済行動を起こさせる1つの強制力となる。

さらに、人はメリットで動くよりも、面倒というだけで動かなくなる動物でもある。では、人を行動に移させるにはどうしたらいいか。恐怖や不安、罰則による強制力でもいい。が、もっと単純で効果的な方法がある。「面倒臭さ」をなくしてやることである。それが目の前の「お得感」(制度的メリット)につながればいいわけである。

■会社が退職準備の背中押しを

社員がみな、退職給付制度にあずかれれば、何の文句もない。もちろん、正規と非正規ではその社員レベルに応じて処遇差があってもいい。しかし、その差の説明義務は必要である。

会社が経営事情によって、退職給付制度を設けないこと自体は問題とならない。その代わり、何らかの措置を社員にしてやることが会社に求められる。特に企業年金のない会社では、本人の同意のもと、個人型DCとして掛金を給与口座引落としにし、正規も非正規も加入させるのはどうか。そうすることで社員の退職金準備の一歩になる。会社の資金負担はない。すなわち、「背中押し」である。このやり方は現行制度にもあるが、会社がより積極的に関与して努力義務のようにする。

退職金の元となる掛金を、会社を介して一人一人が自動的に積み立てられる。社員の「面倒臭さ」は大幅に減る。制度的メリットもある。あとは自分で運用するだけである。それさえ面倒というなら、まずは元本確保でゼロ%運用でもいい。当面はこのような事業主への働き掛けを、「働き方改革」で推進していくべきではなかろうか。

【参考記事】
■リストラされた大企業の社員が、ハローワークに行くと給料が半減する理由(野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー
http://sharescafe.net/50732072-20170227.html
■「副業・兼業」は、解禁待たずに今から始めよ (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
https://www.tfics.jp/ブログ-new-street/
■どれだけ稼げても、長時間残業は割に合わない (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49837469-20161026.html
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49061150-20160714.html
■定年退職者に待っている「同一労働・賃下げ」の格差 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー) 
http://sharescafe.net/48662599-20160524.html

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