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ロンドン・テロで5人死亡、40人負傷、誰もがテロリストになり得る社会で、どうテロを防ぐのか 

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22日、ロンドンのウェストミンスター議事堂付近でテロ事件が発生した。英国時間の23日午前中時点で、5人が亡くなり、40人以上が負傷状態にある。

事件の展開をまとめてみよう。

午後2時40分、議事堂に近いウェストミンスター橋の上で大型車が複数の通行人を倒した。その後、車は議事堂の鉄柵に激突する。男は車を降りて議事堂の前庭に侵入しようとし、制止する警官をナイフで刺した。男は別の警察官に射殺された。亡くなった5人とは攻撃犯、刺された警察官とほか3人だ。

警察は今のところ、「国際的なイスラム系テロ組織にインスパイアされた」テロ事件として発表している。実行犯は一人のみ。身元などについては「捜査が続行中のため」公表されていないが、警察には身元情報があり共犯者がいたかどうか調査をしているところだという。

午後9時少し前、官邸の前に立ったメイ首相は声明文を読み上げた。

「暴力によって私たちの価値観を破壊しようとする試みは、失敗に終わるとはっきり宣言します」。

「明日、議会はいつものように再開します。ロンドンっ子はいつものように起きて、一日を過ごすでしょう。この通りを歩き、自分たちの生活を営みます。テロには決して負けません。憎悪と悪の声が私たちばらばらにさせたりすることを決して許さないでしょう」。

2005年ロンドンテロ発生時から変化した英国

今回、テロ後の様子をテレビで見ていると、2005年のロンドンテロの風景が重なって見えた。イスラム教過激思想に心酔した青年たちが複数の公共交通機関を自爆テロで攻撃した事件である。亡くなった人はテロ犯も含めると56人に上った。

05年当時、多くの人がテロだとすぐには気が付かなかった。交通機関で事故が起きているのかな、ぐらいに思っていたのである。しかし、そのうち、複数の場所のバスや地下鉄で爆発が起きたことが分かってくると、「テロ」という言葉が報道され出した。

それまで、英国でテロと言えば英領北アイルランドの民兵組織IRAによるもの、というイメージが強かった。「テロには慣れている」と豪語する人もいた。だが、50数人にも上る死者が出た惨事の衝撃は大きかった。

同じぐらいかあるいはもっと衝撃が大きかったのは実行犯の身元が分かった時だ。その大部分が英国で生まれ育った移民2世代で、中には教師だった人もいたからだ。

テロリストは外国からやってくる人か北アイルランドのIRAであり、英国の文化や社会の中で生まれ育ち、自分たちと生活の場をともにするいわば「仲間」から「爆弾で殺したい」と思うほどの殺意が生まれることをうまく呑み込むことができなかった。なぜ英国で生まれ育った若者たちがテロリストになるのか、社会に落ち度はなかったのかという議論が活発に行われた。

当時のロンドン市長リビングストン氏が「テロには負けない。今日はみんながロンドン市民だ」と涙目で言ったとき、私も含め多くの人が心からジーンとしたものだ。

しかし、今回の事件でメイ首相のメッセージを聞いてもそれほど心が動かない。時が経ち、様々な要素が大きく変わってしまったからだろう。

まず、2005年以前の英国では広く顕在化していなかった点として、(1)「イスラム移民の青年たちの中に、過激思想に染まる人がいて、テロ行為も辞さない人がいることを認識したこと」があるだろう。

また、(2)「イスラム系テロの背後にはかつてはイスラム過激組織があったが、今は必ずしも関連がなくなっていること」も大きな変化の要因だ。

つまり、2005年のロンドンテロにはテロ集団「アルカイダ」の影響があり、最近のパリテロ(2015年11月)やブリュッセルテロ(2016年3月)ではイスラム過激組織「イスラム国」(IS)の指令が背後にあった。

しかし、トラックが群衆に突っ込んだベルリンテロ(2016年12月)、ニーステロ(16年7月)やそのほか、欧州で頻発するミニテロを見ると、ISなどの組織からの指令とは一切関係なく、いわば「勝手に」心酔した青年たちがテロ行為を行うようになっている。

(2)の影響として、特定の敵(例えばIS)があれば「私たちは負けない」と宣言して心を一つにし、何らかの対策を講じる方向に向くのだが、「敵がぼやけている」感じがするのである。

ISのような組織が作った動画を見て何かに触発されたのかもしれないし、仕事や家庭生活がうまく行かず社会に阻害されていると感じてテロに走るのかもしれない。何らかの病気にかかっていることで他者を攻撃するようになったのかもしれない。

誰もがテロリストになるかもしれない社会では、誰を「敵」にしたらよいのか、分かりにくい。

大騒ぎをするな、と英コラムニスト

AP

テロが発生すると、「テロに負けない」という表現がよく出てくる。これは、テロが起きたからと言って必要以上に怖がったり、これまでの生活習慣を変えてしまうことだったりを意味する。また、社会を「テロリスト(あるいはその予備軍)=敵」と「自分」とで二分する考え方を生むことも「テロに負ける」ことになる。テロリストは社会を分断させることを目的としているからだ。

英ガーディアン紙のコラムニスト、サイモン・ジェンキンス氏は政治家やメディアに対し、「過剰な反応をするな」と書く(22日付)。「ウェストミンスター議会への攻撃は悲劇だが、民主主義への脅威ではない」という見出しのコラムだ。

1年前の3月22日、ブリュッセルでテロが起き、35人(テロ犯3人を含む)が亡くなった。この時、政治家やメディアは「ヒステリックなほど大げさな反応をした」。フランスのオランド大統領は「欧州全体が攻撃されたようなものだ」と述べた。

政治家は政策を通すためにこうした状況を使うことがある、とジェンキンス氏は警告する。実際に、当時のメイ内相(現首相)はテロの脅威を理由に国民のネット活動の監視法案を通すことができたのである。

誰もがテロリストになる可能性がある社会で、どうやって発生を防ぐか

昨年6月には、欧州連合(EU)加盟の是非をめぐり国民投票に向けての選挙戦が展開された。この時、イスラム系テロではないが、残留派の労働党議員ジョー・コックスさんが右派系の男性に殺害される事件が起きている。これも「テロ」だった。政治家の殺害事件は英国でも珍しい。本当に予想外のテロだった。

なぜ今回のテロが起きたのか、本当にテロ事件だったのかは今後の捜査が明らかにしてゆくだろうが、誰もがテロリストになりうる中、テロを未然に防ぐことは今後の捜査当局の課題となりそうだ。

通常の捜査当局のやり方では一連のテロの芽を摘み取ることができない状態になっているのではないか。ある人が当局の監視対象になったとしても、その人を24時間監視するには相当の人出と資金がかかるため、対象を絞らざるを得ない。また、そもそも監視対象に入らず、「突然変異」する人をどうするのか。

私たちが大騒ぎをすることで、テロリスト予備軍の人にとっては「大々的に報道してもらえる、大物政治家の反応を引き出せる」という夢を与えることになりはしないか、とも思う。

これまでのテロ対策とともに、「テロを夢見る人」の「夢」を打ち砕く策も考えるべき時にきている。

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