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家族も支えたい

介護保険制度を直接利用する方の中には、ごく稀に障がい者もいらっしゃいます。しかし、ほとんどは高齢者の方でしょう。利用依頼は「サービスを利用しよう」と思って行うわけですから、全ての人が生活上で何らかの不便や不具合を持っている、あるいは感じていて、それについてインフォーマル(身内やご近所)な関わりだけで充足できないために社会資源を頼って来られています。もちろん、中には天涯孤独で子どもや親戚もいないという方もいらっしゃいます。しかし大抵は、子どもはいるものの遠方に暮らしていたり、一緒に住んでいても高齢者のお世話が全面的に行えない状況だったりするのではないでしょうか。

高齢者の世話が大変な理由

 なぜ、高齢者のお世話は大変なのでしょう。そこには、複雑な理由がたくさんあるのです。例えば単に仕事が忙しくて時間が取れない、あるいは体力的に無理といった理由なら、サービスの開始は比較的スムーズです。しかし実際には、そればかりではないケースの方が圧倒的に多い現状。それは一言で言えば「価値観の違い」ということになると思います。

 たとえ実の親子であっても、生きてきた時代背景や現在置かれている立場が違えば、物の見方や感じ方にも大きな違いが生じるもの。特に現在後期高齢者となっている方々は戦争を経験しており、物資どころか食べるものさえない時代を過ごしてきた人たちです。そのため、何を見ても何をしても「もったいない」が最初に頭に浮かびます。

 例えば食品の入っていた瓶や缶はもとより、納豆やお豆腐のパックまで、山のように取っておいている方は珍しくありません。もし子どもたちがそれらを捨てようとすれば、喧嘩になってしまいます。また、そのことに閉口して外出中などに処分でもしようものなら、絶縁状態にさえなりかねません。ごみ屋敷とまではいかなくても、町内のごみ収集場に捨ててある物を拾ってきてしまうという方も実は珍しくないのです。

 こうした高齢者の「もったいない」が原因となった行動を、毎日不特定多数の方々と関わっている私たちは仕方ないものとして受け入れられます。しかし家族にとっては、「自分の親がそんなことをするなんて信じられない」という気持ち、そして「許せない」といった感情になるのは当然のことだと思います。

 現代のように核家族化が進めば、子どもは就職・結婚などを期に独立して一緒には住まなくなります。すると、親が高齢になって不便を感じるようになったからと関わってみたら、自分の親が突然“老人”になってしまっていて、「こんな風になってしまうなんて」と驚きや失望を感じてしまう家族もいるでしょう。

 たとえ一緒に暮らしている、もしくは近くにいて比較的頻繁に関わっている家族でも、あるいは年に数回程度しか行き来のない家族でも、それぞれ大変さは違えども「うちの親ときたら」といった思いなのではないでしょうか。しかしそれは、その人の親が特別に変わっている、手がかかる人であるというわけではありません。ほとんどの高齢者が多かれ少なかれ、そのような考え方や行動をとっているのです。しかし外側から見ているだけでは分からず、自分の親だけだと感じてしまうものなのです。

困惑するご家族への対応

 こうした高齢者のお宅にヘルパーとして訪問を開始すると、家族から「どんどん捨てちゃってください」などと言われます。本来ならゴミとして処分されて当然のものがたくさん家の中にあったのでは、家族もイライラしてしまうでしょう。また、来客があった場合などは、みっともないと感じることもあります。ヘルパーに依頼するまでにも自分たちでいろいろと試みたはずですし、それでも片付けられないのです。そのため、家族から困り果てて疲れている様子が伝わってきます。

 しかし、ヘルパーは本人の同意なしに物を捨てられません。たとえ傷んだ食品であっても、廃棄するのには難儀するものです。ですから「どんどん捨てちゃってください」という方には、まずこうお話します。

 「高齢者の方は、皆さんこうなんですよ」

 すると、家族は「他にもこういう人がいるんですか? テレビで見るような」などと言います。そう、先にも述べたように、家族は他の高齢者の生活を知りません。ご近所付き合いのある方であっても、家の中で毎日どのように暮らしているのかまでは分からないのです。ですから「自分の親が特別に変わってしまった」「おかしな行動をとるようになってしまった」と感じてしまうのです。

 そのため行動に違いがあったとしても、高齢者は多かれ少なかれ「どうしてそんなことをするの?」と感じる行動があるものなのだとお伝えします。そのうえで、明らかに不潔で危険なこと以外は、「少し目をつぶりませんか」と提案させていただきます。

 全てがそうではありませんが、子どもがたまに来ては「捨てろ」と言うと、高齢者側もやや意地になって「捨ててなるものか!」などと張り合っている場合も少なくありません。子どもたちは、親にできるだけ清潔で穏やかな生活を送ってほしいと思っているもの。しかし高齢者はできるだけ子どもに面倒をかけずに生きていたいと思っており、少しの価値観の違いからぶつかり合いが生じてしまいます。そんなときは不特定多数の高齢者、そしていろいろな家族と関わらせていただいているプロとして、本音部分が上手くいくようなお手伝いをしたいと心掛けています。

 契約して週に2〜3度と訪問させていただくと、なんとなく家族より身近で頼りになると思われがちです。しかし、どんな時でもヘルパーはあくまでも第三者。「最後は、やはり家族がいちばん頼りになるのですよ」とお話しし、また、態度でもそれを示すよう心掛けます。

 家族にはカンファレンスやその他面会ができた際、「親御さんはお子さんたちを誇りに思っていますよ」と伝えます。そして、物を収集したり何かに固執したりするのは高齢者にとって珍しいことではなく、その親御さんに限ったことではないためガッカリしないでほしい等と伝えるのです。

 そして、「淋しいことではありますが、あとどれくらいこうして家で暮らせるかわからないのですから、大きな危険がなければ、思い通りに生活していただいてはどうでしょうか」と。

 この提案を理解してくださる方、くださらない方は半分くらいずつでしょうか。それも当然のことだと思います。ただ、苦しい思いや大変な思いをしているのが自分だけではなく、そして親御さんが特別に厄介な高齢者ではないのだということは、必ず伝えなければならないと思っています。

 そのように、積み上げてきた経験をもとに助言できるような介護のプロが増えますように。そして、家族も支えていける介護職を目指せるように願ってやみません。

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