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『東京スポーツ』から『文春』へ。スクープの最強バケツリレー<芸人式新聞の読み方> - プチ鹿島



独自路線を突き進む『東京スポーツ』。「ソースは東スポ」というと、揶揄されることもあるが、その取材力への評判はきわめて高い。時事芸人・プチ鹿島さんの『芸人式新聞の読み方』より、『東京スポーツ』の特徴を抜粋してお届けします。

わかる人にはわかるように“匂わせて”書いてくれる


6紙ある朝刊スポーツ紙とは違い、唯一夕方に発行される「夕刊紙」に分類される異色の存在が『東京スポーツ』である。地方に行くと『中京スポーツ』『大阪スポーツ』『九州スポーツ』と名前が変わるが、発行しているのは同じ東京スポーツ新聞社だ。

かつてはプロレス報道に力を入れていた時期もあったが、90年代前半にはマドンナやマイケル・ジャクソン、フセイン大統領をゴシップネタとしていじり出したり、UFOや人面魚をネタにするなど、独自路線を歩むようになった。湾岸戦争時における《フセイン インキン大作戦》(1990年11月23日)という見出しは不朽の名作だ。そのせいか、すべてがネタ扱いされて「ソースは東スポ(笑)」と揶揄されることも多い。

 しかし、前述の『スポーツゴジラ』によれば、夕刊紙だからこその粘り強い独自の取材力を、他紙からは評価されている。『デイリースポーツ』の松森氏は次のように語る。

“取材力はけっこうあると思います。しつこいですよね。囲み取材なんかでもわれわれが話を聞いて解散したあとに、もう一回取材してるんです。半日遅れて新聞出ますから、朝刊と同じこと書けない。そんなしつこい取材は印象的です。”

『スポニチ』の藤山記者が、いみじくも「いい加減な記事というのは、すべてを知らないとなかなか書けないんです」と評しているように、私はここに『東スポ』のアホなふりを実感してしまう。

その最たる例が、“CHAGE and ASKA”のASKAによる薬物中毒報道だ。このスクープに関しては、『週刊文春』の手柄だと思っている人が多いだろう。

たしかに、《シャブ&飛鳥の衝撃 飛鳥涼は「覚せい剤吸引ビデオ」で暴力団に脅されていた!》(2013年8月8日号・週刊文春)と実名を挙げて大々的に報じたのは『文春』である。しかし、その1週間前に《スクープ!! 超大物シンガー 薬物中毒 吸引ビデオで闇社会から脅迫も》(2013年7月24日・東京スポーツ)と一面見出しでド派手に報じたのは、実は『東スポ』だったのだ。

この時点では名前を伏せて、「ミリオンヒット連発 ソロでも活動」と表現。さらに「イニシャル」や、該当人物らしき「シルエット」など、「わかる人にはわかる」書き方で、読者の想像力に訴えるつくりになっていた。プロレス報道で名を売った『東スポ』だからこそできる思わせぶりな記事である。

ジャーナリズムの観点からいけば、裏付けを取って実名を出した『文春』と、名前を出さずに報じた『東スポ』の間には大きな差がある。しかし読者からすれば「そういう噂があるのか。一面でデカデカとやるということは丸っきりガセではないだろう。では今後どうなるのだろう」と思う。そう、『東スポ』は新聞なのに半信半疑を楽しめるのだ。

『文春』は、たしかな裏付けを取るために慎重に動いていたはずだが、『東スポ』のこの匿名報道を見て焦ったに違いない。事実、『文春』でこのネタを追っていた中村竜太郎氏は著書でこう書いている。

“そうこうするうち、2013年7月、なんと東京スポーツが、Xという匿名で「大物歌手麻薬疑惑・逮捕秒読み」と報じたのだ。やばい、抜かれる……。私は、顔面蒼白となった。東京スポーツが報じたのは間違いなくASKAのことだった。Xと匿名で報じているため、一般読者には誰のことだかわからない。よくある飛ばし記事と思われたかもしれない。

しかし私は焦った。ASKAの薬物疑惑の噂はすでに大きく広がっている。蛇の道は蛇で、この記事をきっかけに動き出すメディアもいるかもしれない。”(『スクープ!』文藝春秋)

結果的に、文春の裏取りを加速&加熱させ、翌週の実名報道へとつなげたと言えるだろう。

このように、スクープ報道をめぐっては、『東スポ』が飛ばし気味に匂わせたことをきっかけに、『文春』が裏取りを加速させて実名報道へつながったり、そのスクープをまた『東スポ』が「文春によると……」と報じたりといったことがしばしば行われる。これを私は、“東スポと文春の最強バケツリレー”と呼んでいる。

『東スポ』は他にも、2015年10月1日に《大物芸能人「薬物逮捕」へ! 極秘内偵リスト入手》と一面で報じて、「有名俳優Y」「肉体派系タレントX」「大物俳優Z」らが捜査当局にマークされていることを報じた。もちろん影絵付きである。この4か月後に清原が逮捕された日に「肉体派系タレントXは清原だった」と紙面でさっそく告白していた。

『東スポ』だからと一笑に付すのではなく、心の隅にストックしておくと、のちのち「ああ、このことだったのか!」と点と点がつながることもあるのだ。私は中学生の頃から『東スポ』を読んでいて、その実感から言わせてもらえば「ソースは東スポ(笑)」と馬鹿にする人ほど『東スポ』を読んでいない。「それこそあなたたちがいつも言う“裏付け”を取ってないからマズいのでは?」とも言ってみたくなる。

『東スポ』をすべて信用しろとは言わない。これは? と紙面を前にしばらく考える瞬間が好きなのだ。まず読んでみる。信じるか信じないかは自分次第。これぞ夕刊紙・タブロイド紙の醍醐味と言えよう。

ここ数年読んでいて感じることは、『東スポ』はUFOや人面魚という「未知」を一面にしていた時期から、最近は「次の薬物逮捕は誰か」というような、事件やスキャンダルに関しての「シリアスな未知」にシフトしている。同じ野次馬でも読者の欲望が変化している証拠だと思う。

**
夕刊紙、タブロイド紙のさらなる“匂わせ芸”については、『芸人式新聞の読み方』でお楽しみください。

また、実際にプチ鹿島さんの新聞の読み方を知れるイベントがあります。

4月3日20時~22時 本屋B&Bにて
プチ鹿島「毎日が面白くなる『芸人式新聞の読み方』実践講座」
『芸人式新聞の読み方』(幻冬舎)刊行記念

詳しくはこちらをご覧ください。

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――佐藤優(作家・元外務省主任分析官)
なぜか新聞がどんどん好きになる! 人気時事芸人による痛快&ディープな読み方、味わい方をお届けします。

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