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近代文学が終わった後の『文豪とアルケミスト』

文豪とアルケミストと小林多喜二と日本共産党 - Togetterまとめ


『文豪とアルケミスト』というオンラインゲームで、近代文学の小説家(が現代に転生したもの)がキャラとして多数登場している中に小林多喜二も含まれており、それについて新聞『赤旗』が好意的に取り上げたところ、そのゲームのファンの一部が「政治利用だ」と憤慨しているという話。

それに対し、「小林多喜二はそもそも共産党で‥‥」などのツッコミが多数入っている。言い換えると、「元キャラの背後のコンテクストやコンセプト知ってるの?」。

一種の「断絶」である。


最初は「そういう文脈知らなくてゲームやってて面白いのかな」と思ったが、よく考えてみれば文脈込みで楽しむというのは、この「動物化するポストモダン」の時代には今や古典的態度だ。

「自分たちの好きなもの(蟹のハサミ持った「元反逆児」のキャラという虚構)が、嫌いなもの(左翼という現実)に紐付けられたのが厭」というのが、憤慨した人の感情だと想像した。そしてまた、そういう人はごく一部にしても、「昔の共産趣味(「党」ではない)的なものはまあOKだけど、今の左翼はなんか好きじゃないので、好感もたれてもちょっとね」くらいの人は結構いるかもしれないと思う。


『赤旗』も人気のゲームに小林多喜二が入っているのを能天気に言祝いでないで、「易々と資本主義に取り込んで消費するとはけしからん」くらいに怒ってみせれば少しは共産党らしいのだが、そもそも今の共産党が資本主義社会を前提としてしか生き延びる道がないので、ここであえて怒るという発想も生まれず、ネットのカルチャーに満面笑みを浮かべつつ「皆様に愛される共産党」を間接的にアピールしているという体たらくは改めて情けない。

‥‥と、元共産党員だった父が生きていたら言うだろう。


どんなゲームか見に行ったら、近代文学の作家が男性ばかり(腐女子対象?)選ばれていて、キャラの細かい差別化がかなり工夫してされている様子が見て取れた。まず「文学者萌え」というのが大前提としてあって、ゲームの中でそのバリエーションを作るために、歴史に登録された著名作家の特徴や個性を流用したという感じ。ゲームはやっていないが、現実には直接関わり合いのなかった作家同士がここでは出会う、という面白さもあるのかもしれない。

【文豪とアルケミスト】これからは文豪男子!?キャラクターまとめ【文アル】1/10現在 - NAVERまとめ

ちなみに一介の現国教師だった父は地味に島崎藤村の『夜明け前』を研究(未完)していたので、キャラ化されたのを見たら「コレが藤村か!(眼鏡がないじゃないか!)許しがたい!」とまず激怒し、その他のキャラ設定をじっくり見ていくうちに「うーむ。まあ基本は一応押さえてあるか。でもなんでマンガでゲームなんだ。作品を読めばいいじゃないか(つまりよくわからん)」となっただろう。戦前生まれの人だから。

実在した人物をここまで非実在(キャラ)案件にしていいのか問題もあると思うが、それはここでは措く。

この件に少し似た「断絶」を昔、アートの分野で経験した。

某芸術系大学の「現代美術演習」という授業で、普段の作品を持ってきてもらって講評していた時のこと。

「なぜこのモチーフ? どこから出てきた? コンセプトは? あなたにとって絵画って何? 美術史のコンテクストにどう位置付けてるの?」と、(私も若かったもので)矢継ぎ早に質問していたら、キレられた。

「ただ好きだから描いてるんです! 絵が好きだから! 好きってだけじゃダメなんですか? コンセプトとかそういうんじゃなくて。コンテクストって何ですか? 美術史とか関係ないです」


ただ好きでやってるだけの人が「現代美術演習」の授業に何を求めて来ているのかわからないけど、山の中に籠って山水画描いてるわけじゃないんだし、明らかに近代以降の絵画だし、何らかの意味作用を作り上げているように見えるし、そこに現代的な文脈を読もうとするのは普通。「現代的」ということは歴史を前提にしているということで。絵画って歴史的なものだから。大学来てるなら最低限そこは押さえないと。

などということはもちろん通じない。とことん通じない。

結局、「自分の好きなもの(絵)が、嫌いなもの(コンセプトとかコンテクストとか)に紐付けられたのが厭」で、それはもう感情的感覚的なものなので、何をどう話そうが入っていかない。


好意的に解釈すれば、その人はたまたま芸術系大学に来てしまっただけで、実質は既に「アートの役割が終わった後」を生きていたのかなと思う。

近・現代(現代は近代のシッポ)のアートは、世界に対して何らかの課題を設定すること、言い換えれば世界の「亀裂」を希望として見出すことに存在意義があり、だからこそコンセプトやコンテクストといった批評性が重視されてきたのだが、亀裂の埋め尽くされつつあるこのグローバリズムの中で、そういう使命的「前衛」的なあり方が実質的に難しくなっている(共産党と同じく)。

もちろんアウトサイダーアートのようなものや、趣味や商業としては昔からあるように存続していくし、そっち方面で盛り上がっていくかもしれない。その中で、かつて「アート」としてあったものが文脈解体され、あちこちでリサイクルされていくのはおそらく必然だ(件の学生の作品も、そういうものとして見るべきだったと、今は思う)。


近代文学も、アートとほぼ同様の位相にある。近代文学が終わった(by柄谷行人)から、近代文学をリサイクルしている『文豪とアルケミスト』や、非政治化されたそれを虚構として楽しむ者が出てきたのだ。

というわけでこの件については、各専門分野から掘り下げた考察が上がるのを期待。



●追記

Twitter見たら、えらいことになってる。

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