記事

オランダ下院選で自由党伸びず 「反ポピュリズム」は本当に勝ったのか?

 「排外主義」が争点となったオランダ下院選挙。ウィルダース党首率いる自由党の躍進に注目が集まったものの、自由党の獲得議席数は20という結果に。ルッテ首相が所属し、上下両院で第1党の自由民主国民党は、前回の下院選挙から8議席減らしたものの、33議席を得て第1党の地位をキープした。来月23日にフランスでは大統領選挙の第一回投票が行われ、ドイツでも9月に連邦議会選挙が実施される予定だ。オランダの下院選挙は、ドイツやフランスにおける選挙を含む、これからのヨーロッパの流れを読み解くための試金石的意味合いもあったが、ルッテ首相が面目を保つ形で選挙が終了した。

ルッテ首相「間違ったポピュリズムに『ノー』」

 82%という、オランダでは約30年ぶりとなる高い投票率を記録した今回の下院選挙。「オバマ旋風」が話題となった2008年の米大統領選挙の投票率ですら約64%(昨年の米大統領選挙の投票率は約55%であった)で、イギリスのEUからの離脱を問う国民投票でも約72%であった。人口約1700万人のオランダでは有権者の数がアメリカやイギリスよりもはるかに少ないのは明白だが、それでも8割超の投票率は非常に高いものであり、「イスラム」や「EU」をめぐる論争が結果的に歴史的な投票率の高さに繋がったと考えられている。

 選挙結果に対して、ウィルダース党首率いる自由党が事実上の敗北を喫したという見方も存在するが、現状はそれほど単純なものではない。今回の下院選挙では大小合わせて実に28もの政党が候補者を擁立しており、候補者が当選した政党は13にも及ぶ。議席数150のオランダ下院で、20議席しか獲得できなかった自由党が支持者を減らしたという論調もなくはないが、自由党は自由民主国民党に次ぐ第2党にランクアップした。

 選挙後にルッテ首相は、「オランダは間違ったポピュリズムに『ノー』という回答を示した」と勝利宣言したものの、下院の過半数を制するために、どの党と連立を組むかという課題が残されている。今回の選挙で大躍進を見せた緑の党(フルンリンクス)はレッテ政権の政策に反対してきた過去があり、自由民主国民党と政治的な妥協点を見いだせるのかに注目が集まっている。自由党のウィルダース党首は選挙後に自由民主国民党との連立の可能性を示唆したが、これまでの対立を考えた場合、この2党が連立に向けて動き出す可能性はゼロに近い。

「緑の党」が大躍進、中道左派は惨敗

 今回のオランダ下院選における最大のサプライズは、30歳の若い党首に率いられた緑の党が大躍進を見せたことだ。選挙前に下院で4議席しかなかった緑の党だが、若い有権者を中心に支持を伸ばし、前回から10議席増となる14議席を獲得し、下院で5番目に大きな勢力に変貌を遂げた。緑の党は1990年に設立された政党だが、2015年に党首が現在のジェシー・クラーベル氏に変わると、SNSを駆使して多文化主義とEUの重要性を唱え続けた。選挙前に緑の党がアムステルダムで行った集会には5000人が集まり、フェイスブックで11万人以上のフォロワーを持つクラーベル氏が発信する情報は拡散されて、実際には数百万人が目にしたという報道も。国の人口規模を考えれば、これらの数字は特筆すべきであろう。首都のアムステルダムでは約20%の有権者が緑の党に投票しており、首都では最も支持される政党となった。

 逆に今回の選挙で大敗したのが、中道左派の労働党だ。選挙前には下院で38議席を抱え、自由民主国民党に次ぐ第2党であった労働党は、一気に29議席を失った。2012年の選挙で38人が当選し、首都のアムステルダムでは35%を超える得票率を記録した労働党の凋落はすさまじく、今回の選挙ではアムステルダムで約8%の得票率しかなかった。また、ロッテルダムでも2012年に記録した32%の得票率が、今回の選挙では6.4%にまで急落し、トルコ系オランダ人によって2015年に旗揚げされたばかりの新興リベラル政党にも得票率で敗北を喫し、第7党にまで落ちる始末だ。連立政権の中で労働党が党のモットーに基づいた政策を実行できなかったことに多くの支持者が失望したことが原因であったという見方が強い。

フランスでは女性のルペン支持者が増加

 反EU・反イスラムを掲げた自由党が、オランダ下院選挙で20議席しか獲得できなかったが、これから予定されているドイツとフランスでの選挙で排外主義勢力が、オランダ下院選の結果を受けて勢いを落とすかは不明だ。下院選挙直前にトルコ閣僚のオランダでの政治集会参加をめぐって、トルコとオランダの間で外交上の激しいやり取りが発生したことは先週の記事内で紹介したが、トルコのエルドアン政権に対して妥協しない姿勢を見せたルッテ政権への評価が下院選直前に急上昇し、結果的に自由民主国民党の大敗を防いだのではないかという見方すら存在する。

 つまり、自由党は議席を伸ばすことができなかったものの、トルコのエルドアン政権が見せる強権的な姿勢やイスラム教に対する不安が、オランダ下院選挙に少なからず影響を与えた可能性は依然として残り、反イスラムをめぐる議論はオランダ社会でこれからも続くことは容易に想像できる。

 欧州各国に対して挑発的な姿勢を見せ始めたトルコの存在や、ピーク時から大きく減少したものの現在もヨーロッパを目指す多くの難民たち、テロに対する不安などが原因となって、排外主義をうたうポピュリズムの嵐がフランスやドイツで増大することはないのだろうか? 4月にフランスで行われる選挙は議会選挙ではなく、国のトップを決める大統領選挙だ。11人が正式に立候補したフランス大統領選挙。最新の世論調査では、無所属で中道のマクロン前経済大臣を、極右政党「国民戦線」のルペン党首が僅差でリードしている。

 フランス世論調査研究所(IFOP)の調査では、女性有権者のルペン支持が4年前よりも約10%上昇していた。トランプがアメリカ社会で疎外感を覚える白人有権者に大きくアピールしたように、ルペン候補は今のフランス社会で疎外感やフラストレーションを抱える女性に反イスラムや反EUの必要性を積極的に訴えており、女性有権者の投票率が大幅に伸びる可能性もある。欧州における排外主義ポピュリズムはまだしばらく続きそうな気配を見せている。

------------------------------
■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト(http://hirofuminakano.com/)

あわせて読みたい

「オランダ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    中国が密かに米朝開戦の準備か

    一般社団法人日本戦略研究フォーラム

  2. 2

    イチローは引退して指導者になれ

    幻冬舎plus

  3. 3

    松居一代に引っかかったマスコミ

    大西宏

  4. 4

    希望に支持が集まらないのは当然

    早川忠孝

  5. 5

    アラフォーは一生貧困?NHKに反響

    キャリコネニュース

  6. 6

    体外受精はセックスに当たるのか

    井戸まさえ

  7. 7

    退位までに韓国訪問を願う両陛下

    NEWSポストセブン

  8. 8

    満席でも…スタバの強みは中毒性

    内藤忍

  9. 9

    堀江氏を牢獄に送った国家の裁量

    NEWSポストセブン

  10. 10

    相模原殺傷 犯行決意させた入院

    篠田博之

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。