記事

安心が主。安全はあくまでも従。その現実を直視せよ

1/2
もはや、築地市場問題というか権力闘争ファースト問題は、崩壊してしまっている感がある。

近代的で新しく、今のところ地下水に関する問題程度しか見られない豊洲と、前時代的で古く、いつ壊れてもおかしくない築地。事、ここに至ってついに小池百合子が「築地は安全安心と宣言できる」といい出した。

築地は法令上の安全を満たしており、市場は今も使われているから安全安心だと宣言できると主張し、豊洲に対しては法令上安全だが、消費者の信頼を得られていないと示したという。(*1)

築地は市場として使っているから安心で、豊洲は使ってないから信頼を得られないと言うなら、さっさと豊洲を使えばいい。豊洲も市場として使い始めれば「使われているから安心だ」と言えるだろう。

さて、小池都知事が築地問題をどのように利用しているかは先々週に書いた(*2)ので、今回は市場問題における前提とも言える「安全と安心の関係性」を今一度、しっかりと論じておきたい。

最近は「安全安心」と一括りにされがちな言葉だが、この両者は全く別の言葉である。

まず「安全」とは客観的な事実によって、安全であるということを証明できることを示す。つまり「事実」だ。そして「安心」とは主観的に、それが安心であると思いこむことを示す。つまり「感情」だ。

この両者をマトリクスにすると「安全であり(安全◯)、かつ安心(安心◯)」「安全であるが(安全◯)、不安(安心×)」「安全ではないが(安全×)、安心(安心◯)」「安全ではないし(安全×)、不安(安心×)」という4つに分けることができる。

ここで重要なことは、この4つが等価であるということだ。決して「安全◯、安心◯」「安全×、安心×」という事実と感情が合致する2つだけが正しい関係性で、他の2つが間違えた何かということではなく、事実と感情が相反する2つも加えて、この4つが正しいとか正しくないこと関係なしに、存在しているということである。

しかし世の中というのは、往々にしてうまくいかない。なぜなら大半の人達にとって重要なのは事実よりも感情だからだ。事実は感情を決定する要素の1つに過ぎず、そもそも事実と感情を等価に併記するこうしたマトリクス自体が人間にとっては成立しない。

福島や東北の食べ物に対して放射性物質の不安を覚えたり、中国や韓国、北朝鮮に対して武力的な不安を覚えたり、沖縄の反基地運動はカネ目当てでやってるなどという感情的な反発は、福島第一原発事故やホットスポットの問題。近隣諸国の軍事費の増大や尖閣云々、あとはそのへんで拾ったらしき封筒といった、ごく一部の事実を拡大解釈することによって産まれている。こうしたちょっとした事実を、自分の感情の裏付けとして利用して悪びれないのが世の中というものである。

そうしたことに反発して「事実こそが正しいんだ!事実をもっと敬え!感情を減らせ!」と主張する人もいるが、無理だろう。そもそも人間はそんなに単純にできていない。そもそも事実を敬えというなら、感情を優先する人が大多数であるという事実をまずは謙虚に受け入れることから始めたらどうか。

事実と異なることを真実だと思いこんでしまった人達に対するケアは極めて困難だ。「不安に思う人達の感情に寄り添う」なんて、口にするのは簡単だが、福島第一原発事故後の対応では自分が夫や妻と選んだ相手に対してすら不信が相次いだ。その中で他人が誰かの感情をなだめ、事実を受け入れさせていくのは難しい。

それは「反原発がデマをばらまいたから」という話ではなく、そもそも人間が自分で自由に考えたことに対して、他者が介入することは極めて困難だという、極めて平凡な結論から見いだせる話である。

そもそも今回の築地問題に関しても、そもそも私達の大半は、問題が明るみになる前までは「築地市場をネコやネズミが走り回っている」ということすら知らなかったのではないか。

建築が古いから言われてみれば当たり前だけど、アスベストが使われていたり、老朽化しているという当たり前のことすら、私たちは興味を持たず、感情的に「築地は世界に誇る日本の市場。築地ブランドは安全安心」だと思いこんでいたのではないか。

現在、築地はこうやって問題になっているからこそ「築地は古く、移転させるべき事実=事実寄りの側」と「築地は安心だ。豊洲は安心ではない=感情寄りの側」であるかのように二分され、さも移転肯定派が事実に基づいて論じているかのように見えている。

しかし、もしも今回の問題がここまで露出しなければ、単に「都がそう決めたから」ということだけで移転がなされた。つまり全く事実と関係ないままに、豊洲に移転したという結末だけを受け入れることになったのだろう。

結果として「新しい施設に移転して、より安全になった」という事実は残るのだけれども、ではそれは事実に基づく話の結果であると、事実を前提にする人たちは諸手を挙げてバンザイできるのだろうか。

それは事実という話ではなく、単に「公がやることは正しいに違いない」という感情の末路ではないだろうか。

あわせて読みたい

「築地市場移転問題」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    立憲結成で摘出された民進の病巣

    一般社団法人日本戦略研究フォーラム

  2. 2

    よしのり氏「変節」報道に反論

    小林よしのり

  3. 3

    宮根氏 ミヤネ屋降板してフジへ

    文春オンライン

  4. 4

    人気精神科医 10代患者と性関係

    文春オンライン

  5. 5

    叩かれたけど本当はスゴい4議員

    駒崎弘樹

  6. 6

    文春の「鬼畜」医師報道に疑問

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    職場でスマホ充電に反対派が多数

    キャリコネニュース

  8. 8

    投票日に台風か 焦る立憲民主党

    キャリコネニュース

  9. 9

    右翼3人との乱闘を収めた辻元氏

    辻元清美

  10. 10

    橋下氏「前原代表批判は筋違い」

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。