記事

防衛省に「文民統制」はない

1/2
清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】
・南スーダンPKO陸自の日報、廃棄されたはずが保管されていた。
・背景に自衛隊の隠ぺい体質。
・当局となれ合うメディアに責任あり。

■見つかった陸自の日報、「戦闘」の記述

我が国に文民統制は存在しない。防衛省や自衛隊は納税者、その代表である国会を騙して問題と思っていない。これは民主国家の「軍隊」としてはあり得ないことだ。

南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊部隊の日報が、廃棄したとしていた陸自内に保管されていた。日報には「戦闘」があったと記されていた。「戦闘」があるとPKO派遣の原則が崩れるので、防衛省と自衛隊は組織ぐるみで保存されていた書類の隠蔽を図った。

日報の保管の事実は陸上自衛隊のトップである岡部俊哉陸上幕僚長、さらに3自衛隊制服組のトップである河野克俊統合幕僚長に報告されたが、PKOを統括する統合幕僚監部の内局職員が、これを伏せるよう指示していた。その後、先月になって陸上自衛隊の上層部から担当部署に対し、日報の電子データを消去するよう指示が出された。

つまりは、防衛省内局、自衛隊は組織的に書類を抹殺し、また国会に対して書類は既に破棄されていると報告した。これは「軍隊」と「官僚」が納税者と、その代表である国会議員を騙したことになる。到底文民統制が敷かれている民主国家ではあり得ない話である。

仮に内局官僚からそのような指示があっても、唯々諾々と従うのではなく、防衛大臣に報告する、あるいは国会を騙すことは文民統制上問題がありますと抗議するのが幕僚長はじめ「軍人」の仕事である。

それをしなかったのは組織防衛のためには国民を騙してもかまわないと思っていたからだろう。河野克俊統合幕僚長、岡部俊哉陸上幕僚長は将官の器ではない。だが両幕僚長だけでなく、情報隠蔽という体質は防衛省、自衛隊という組織に染みついた宿痾であるといってもよい。

本来このような日報は今後のPKO活動おいても参考にすべき部内の大切な一次資料である。安易に破棄してよい書類ではない。それを破棄したと、国会を騙したのは自分たちがまともな文書管理を普段からやっていないから、違和感がなかったからだろう。

そしてどの資料が重要で、重要でないとの判別がつかないからだ。過去のPKOの書類は全部廃棄しているのであれば、将来のPKO派遣にまともな検討資料が全く存在しないことになる。他国の軍隊では当然保管すべき書類である。であれば議会で「破棄しました」などという言い訳は思いつかない。この点でも軍隊ではない自衛隊の異常さがうかがえるだろう。

■自衛隊の隠ぺい体質

自衛隊が最も大事にしているのは国家防衛ではなく、組織防衛、自己保身である。このため自分たちに不都合となる可能性がある書類は国防上、必要があっても破棄する、あるいは隠蔽する体質が染みついている。諸外国では普通に公開している情報も自衛隊はひた隠しにする。

例えば用途廃止で破棄された旧式の74式戦車が製造元である三菱重工に払い下げられ、工場の正面に展示されていたが、これに内局官僚が「機密上問題がある」とあげつらったので、同社はこの74式を返納した。この話を外国の軍人や防衛産業の人間にすると一様に信じられない、という顔をする。

対して極めて重要な書類である、これまでのPKOに参加した隊員のカルテは5年を過ぎると全部破棄されている。これは個人情報の保護のためという名目になっているだが、派遣後にPTSDなどになって訴訟を起こされた場合に備えての証拠隠滅のためだろう。諸外国の軍隊では将兵のカルテは原則廃棄されない。例えば英軍にしても第一次世界大戦の頃のカルテも保存している。これは戦傷医療の研究などに必要な一次資料だからである。ただこのカルテも万が一に備えて、こっそりと保存されている可能性も否定はできない。

同様に軍事アナリストである小川和久氏が87年に発刊したその著書「戦艦ミズーリの長い影」で指摘しているが、防衛庁(当時)は兵器開発において不都合な実験や研究結果はサニタイズ、すなわち廃棄して、無かったことにしていると指摘している。このため失敗の教訓が後の開発者に共有されていない。この隠蔽体質が防衛省には未だに根強い。

更に1994年に行われた自衛隊のルワンダ難民救援派遣では現地において、宿営地が銃撃され、医療関係者は30分ほど伏せていたということがあった。ところが後から押っ取り刀でやってきた本部要員は自分だけヘルメットと防弾ベストを身につけており、この件は口外しないようにと口止めした。このためこの件は報告書にも書かれず、当時メディアも知ることがなかった。更に申せば高機動車2両も現地で盗まれているが、これも公にされていない。この話は筆者が当時現場にいた人間から直接聞いた話である。これまた自衛隊の隠蔽体質を示す格好の例であろう。

■情報開示姿勢にも問題

筆者は2010年に「防衛破綻」(中公新書)という防衛省の装備調達の問題を指摘した本を書いたが、これに対して陸幕装備部は部内資料としてその正誤表を作成した(記事末参照)。筆者はその内容の一部を入手したのだが、同文書によると51カ所もの誤りがあるという。だが入手した部分をみても「正誤表」の誤りを正した「正」の方が誤っている、または使っている軍事用語が自衛隊用語ではないと理由で誤りとしていた。

筆者が書いたのが防衛省の内部資料ならばそうかもしれないが、一般向けの書籍でありそのような指摘は当たらない。また筆者がパリの航空ショーで米空軍及び、メーカーの担当者に確認した内容を「誤り」と決めつけていた。だが担当者が参照にしたのはウィキペディア、あるいは2ちゃんねる、自衛隊を批判する筆者に反感を持つアマチュアの軍事オタクのブログと思われる。せめて諸外国の軍事あるいは航空専門誌を購読している人間であれば犯さない間違いであった。さらには著者の主張には同意できないから誤り、という項目もあった。正誤表の意味すら作成者は理解していなかったのだろう。

諸外国の軍隊のように軍事のプロが使うリファレンス、例えば軍事専門出版社のIHSジェーンズ社のデータベースでも参照していれば、こういう胡乱なことにはならないはずだ。防衛省ではまともな公開情報のリファレンスさえ使用しないで書類を作っていることになる。

言うまでもないがウィキペディアはあやふやで誤りも多く、大学の論文でさえも、出典として使用が認められていない。この正誤表を作成した自衛官の軍事知識と教養のレベルは大学生以下の程度の低い軍オタレベルということになる。

筆者はこの件を陸幕広報室に質した。そのとき筆者は正誤表の全文を見せること、また作成した本人にどのようにこの文書を作成し、何を参照したのか尋ねたいと要求した。だが、当時の広報室は担当者を呼ぶこともなく、全文を見せることも拒否した。ただ51カ所の誤りの指摘は3カ所に減り、それがどこかだけは述べられた。

しなしながら、その3カ所の内2カ所は筆者が国交省の担当者に取材した部分であり、単に防衛省と国交省の見解の違いでしかなかった。つまり誤りは1カ所であった。更に申せば筆者が気にしていた数字の誤りが一カ所あったが、それは見落としていた。つまりは極めていい加減な書類であった。とてもプロの仕事ではない。

筆者はこのような胡乱な書類によって防衛省内部で専門家としての評判を著しく傷つけられたわけで、書いた本人から謝罪、釈明があっても然るべきだと思うのは普通だろう。またこの書類は部外秘でもない。にもかかわらず、書類の作成者の官姓名すら知らされず、全文の開示もされなかった。自衛隊は誤りを認めて、それを謝罪することを極めて嫌がる。これが自衛隊の情報開示の隠蔽の基本姿勢である。

筆者はこの件に関して2013年に小野寺五典防衛大臣(当時)に記者会見でなぜ該当文書を公開しないのか質した。それは当時防衛省の特定機密保護法の制定が話題になっていたからだ。上記のような機密文書でも無いものでさえも公開しない隠蔽体質の防衛省、自衛隊が、特定機密保護法が制定されば更に悪化するだろうと思ったからだ。

この件に関しては後日報道官から該当書類は内部文書であり、情報公開の対象になっていない。故に公開しないというものであった。当然ながら正誤表を作成した担当者も、その監督責任がある上司も処罰はされなかった。このようなだんまりを決め込めば許される、逃げれば勝ちで、情報公開を忌避する体質が故に、その時々で、反省もしないし、外部からの監視が届かなくなるのでモラルハザードを起こし易くなっている。そして自衛隊という組織では隠蔽が文化となっているのだ。

この件が問題化されなかったために、現在でも防衛省、自衛隊では極めていい加減な情報を元に政策が策定され、予算が要求され、また政治家に対する「ご説明」(政治家に対するレクチャーはこう呼ばれている)がなされている可能性が高い。これでまともな国防が全うできようか。

あわせて読みたい

「防衛省」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    ナチス賛美する高須氏は医師失格

    清 義明

  2. 2

    新旧首相が会食 超豪華4ショット

    笹川陽平

  3. 3

    コンビニで現金払いする人は迷惑

    内藤忍

  4. 4

    上原不倫NG 松本人志フジに苦言

    渡邉裕二

  5. 5

    大ヒットネトウヨ本の粗末な中身

    PRESIDENT Online

  6. 6

    慰安婦と軍艦島 韓国若者の本音

    NEWSポストセブン

  7. 7

    慰安婦問題 失敗だった謝罪姿勢

    一般社団法人日本戦略研究フォーラム

  8. 8

    ハイボールがNYで大ブームの予感

    ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)

  9. 9

    仏教国出身者からみた日本の仏教

    にしゃんた

  10. 10

    雷雨で強行 花火大会運営に絶句

    かさこ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。