記事

大阪の町工場から世界を変えた「炎の経営者」伝説

1/2
岡村繁雄=構成 的野弘路=撮影

日本にあきらめの空気が漂っていた戦後間もない時代、大阪の町工場から世界を変えようとした男がいた! 現代にも通じるリーダーの条件とは何か? 男のDNAを受け継ぐトップと、男に魅せられた企業小説の第一人者・高杉良が語り明かした。



「鉛筆の先を手前に向けて置きなさい」

【高杉】八谷(やたがい)泰造さんとの出会いは、僕がまだ20代半ばで化学業界の専門紙の駆け出し記者をしていたころです。当時は日本触媒化学工業(現・日本触媒)といっていましたが、取材先の社長でした。年齢の差を超えて、友達のようなつき合いをしていただきました。それだけに、八谷さんほど思い出深く、愛着心と尊敬の念を感じる経営者はいません。

いつか、八谷さんを主人公にした物語を書こうというある種の使命感がありました。けれども、あまりにも自分にとって近しい存在だったためでしょう、なかなか書き出せなかった。小説誌に『炎の経営者』を書きはじめたのは、亡くなって17年ほど経ってからです。それが今回テレビドラマ化される。感慨無量ですね。

【池田】八谷さんが亡くなられたのは1970年。私が日本触媒に入ったのが76年ですから、残念ながら直接には存じ上げません。とはいえ、入社当時はまだ社内には八谷信奉者ともいうべき上司がいました。新入社員研修のときに、いろいろ仕事の仕方を教わりました。例えば、鉛筆を机に置く際に「鉛筆の先を手前に向けて置きなさい。そうすれば、次に手に持ったときすぐに書きはじめられるでしょう」といった具合です。八谷さんは、そんなところまで厳しく指導されていたのです。

ドラマ『炎の経営者』放送決定! 3月19日(日)午後4時~(フジテレビ系)
原作は1986年に高杉良氏が発表し、「ビジネスマン必読のロングセラー」ともいわれる、伝説の経営者を描いた小説『炎の経営者』。主人公を演じる伊原剛志、戸田菜穂、山口智充、石丸謙二郎、渡辺大、柴俊夫ら実力派のキャストがそろう。放送終了後よりフジテレビオンデマンドでも配信。

【高杉】享年が63でしょう……。若いなあと思います。しかしながら、今回、テレビドラマ化されるのを機に、作品を読み返してみたのですが、完全燃焼されています。戦後の化学業界の発展に寄与する会社を創業し、自社技術にこだわり、人を育てて、炎が燃え尽きるように世を去って逝った。

実は79年に『あざやかな退任』という作品を書いたのですが、その冒頭シーンに八谷さんの臨終の場面を使わせてもらいました。それを読んでくれた智子夫人が「主人が亡くなったときとそっくりです」といってくれたのです。それが、実名小説執筆の突破口になりました。



【池田】私は大阪出身で、本籍が旧日本触媒化学工業の本社の近く、中央区高麗橋3丁目です。実家は繊維関係の商売をしていたのですが、私が入社する際に父親が調べてくれ「あっ、八谷さんの会社らしいで」と。関西では違う業界の人間でも知っているほど有名な人物だったわけですね。

【高杉】池田さんは東大工学部出身ですが、八谷さんは大阪高等工業学校を出て、いったんは就職し、苦学しながら大阪帝国大学工学部を1932年に卒業しています。やがて、硫酸製造の会社を起こし、事業を続けながら博士号を取得した。池田さんは同じ理系出身の技術屋経営者として八谷さんに惹かれたのですか?

【池田】いえいえ、私は75年に卒業しているのですが、実家を継ぐにしても、もう少し勉強だと思い、1年間ほど研究生として大学に残りました。ところが、73年の第1次オイルショックで、それまで好況だった化学会社が軒並み苦戦を強いられ、大手はほとんどが新卒採用をしません。そんなとき、担当の教授から3年上の先輩がお世話になっている当社を勧められたのです。吹田にあった工場まで見にいき、入社を決めました。それから40年、ずっと世話になっているわけですが、それはやはり、自由に発言でき、チャレンジ精神に富んだ雰囲気が自分に合ったからでしょう(笑)。もちろん、それは八谷さんが培った社風にほかなりません。

【高杉】だからこそ、八谷さんのもとには優秀な人材が集まった。戦後間もなく、まだ無名の貧乏会社にもかかわらず、旧南満州鉄道の中央試験所にいた技術者を4人採用しています。彼らが中心になって、会社の技術力を高めていきました。当時、満鉄といえば押しも押されもせぬ会社です。そこから、後の日本触媒の屋台骨を支えるエリートを引き抜いた。よくぞ日本触媒化学工業に来たという感じです。

あわせて読みたい

「企業経営」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    タモリ「鶴瓶は偽善」盟友に本音

    メディアゴン

  2. 2

    都議のボーナスに1500万円予算増

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  3. 3

    貴乃花が相撲協会を拒否するワケ

    PRESIDENT Online

  4. 4

    堀江氏を牢獄に送った国家の裁量

    NEWSポストセブン

  5. 5

    二階氏の重用は「無口だから」

    NEWSポストセブン

  6. 6

    現役医師が日経の印象操作に苦言

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    「怒鳴って当然」高齢者の言い訳

    NEWSポストセブン

  8. 8

    詩織さん被害訴え はるな愛号泣

    女性自身

  9. 9

    ミサイル導入への批判は非現実的

    木走正水(きばしりまさみず)

  10. 10

    北の漂着船が持つ一触即発の火種

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。