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「花より団子」は世界共通、少し残念だったNYジャパン・ウィーク - 田村明子 (ジャーナリスト)

 マンハッタンの中心、42丁目とパークアベニューにあるグランドセントラル駅。郊外から通勤する人々の窓口でもあると同時に、観光名所でもある有名な建物だ。

 もともと19世紀に蒸気機関車の騒音に悩まされたニューヨーク市民の苦情により、当時の中心地であったダウンタウンから遠く離れた42丁目にこの駅の前身が建てられたという。現在の建物は3代目で、1913年にオープンした百年あまりの歴史を持つ。

 さて、レストランやショップの利用客も含めると日々75万人もの出入りがあると言われるこのグランドセントラル駅に、突如日本の石庭が出現した。


石庭(筆者撮影)

 実はこの石庭、3月8日から10日までの3日間、日本政府観光局(JNTO)が主催したジャパン・ウィークの展示物の一つだった。毎年この時期にグランドセントラル駅の42丁目側にあるベンダービルトホールにて開催される、訪日観光促進イベントなのである。

回転すしで大混雑した昨年

 昨年はこのイベントで回転すしのカウンターが登場し、行列が外まで溢れて急遽整備係が交通整理を行うほどの騒ぎになった。

 そのさらに前年は「デパ地下シリーズ」で和菓子類などが並び、その前は「駅弁シリーズ」で売り切れ続出。いずれも大盛況で、悩みと言えば混みすぎてすぐ品切れになったり、入場制限をかけたりしたため、気軽に立ち寄るようなイベントではなくなってしまったということぐらいだろう。

 さて今年は一転して、食べ物の扱いは最小限に抑えて出汁の「久原本家茅乃舎」のみ。目玉がこの龍安寺を模したという石庭で、展示スポンサーはJR東日本、富士フィルム、お茶の伊藤園、全日空、そのほかニューヨークの日系旅行代理店など。例年に比べるとひとではかなり少なく、地味な印象である。

 アメリカのインターネットレビューサイト、Yelpを見ても、今年は食べ物が少なくてがっかりしたというレビューが多かった。

出汁は英語で何という?

 それでも茅乃舎の試飲コーナーにはそれなりに人が集まり、

「What is it?」(これは何?)

「It’s soup broth.」(スープの出汁です)

 という会話がひっきりなしに交わされていた。出汁は英語で、soup broth あるいはsoup stockと言う。ちなみに日本で一般的に使われるブイヨン(boullion)は、フランス語だ。
余談だが、相手に職種を尋ねた知人が「I’m in charge of stocks.(私はストックの責任者です)」という答えに、てっきりウォール街の証券(Stock)売買人なのだろうと思い込んでいたら、実はsoup stocksの意味で、相手はレストランのスープ担当シェフだったという笑い話のような実話もある。これだから英語は、油断がならない。

 話がずれたが、茅乃舎以外に手ぬぐい屋やJR東日本の新幹線のミニ模型などの前にも、それなりに立ち止る人々が見られた。

目立たなかった杉原千畝の紹介パネル

 今年のジャパンウィークのウェブを見ると、今回のメインテーマの一つは、杉原千畝氏の紹介だったようだ。第二次世界大戦中、大使としてリトアニアに駐在していた杉原氏は、日本政府の方針に逆らう覚悟で難民ビザを発行し、6000人以上のユダヤ難民の命を救った。「日本のシンドラー」とも呼ばれる人物である。

 訪日観光促進には直接関係ないけれど、これは良い企画だと思った。日本は観光地として安全で清潔、人は親切と高い評価を受ける一方で、移民に関しては前向きの国ではない。アメリカもトランプ政権が暴走中の現在、日本には過去にこうした偉人がいたことを前面に出すのは素晴らしい案だったと思う。

 だが残念なことに、これはアイディア倒れ気味に終わった。実際には展示場の目立たない一角に写真入の説明パネルがあったのみで、目を向ける人はほとんどいなかったと思う。

やはり見くびってはいけない胃袋

 わずか3日間の開催だったためか、全体的に展示物は正直にいえばちょっと貧弱で、石庭も龍安寺のそれを模したというのはかなり苦しいシロモノであった。

 やはりこういうイベントのメインは食べ物がわかりやすく、人間は胃袋に導かれて集まってくるのだと実感させられるジャパン・ウィークだった。

 もっとも昨年の回転すしのように、対応しきれないほどの人が押し寄せて長蛇の列になると、それはそれで参加者に不快な思いをさせる。

 時間がかからない、人を待たせない、数を十分用意できる。そんな条件を満たしてくれる食品関係の出展者をいくつか選抜して、JNTOのほうから積極的に働きかける。そのくらいの下準備はしないと、このジャパン・ウィークの効力を最大限に生かすのは難しいのではないか。

 ニューヨーカーの間での一般的な日本への好感度は高く、ジャパンと銘打っただけでそこそこ人は集まってくる。それだけに、来年はより一層の内容の充実を期待したいと思う。

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