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原発よ、静かに瞑れ - 鈴木耕

ぼくの家には原発メーカーの電気製品がない

 かつて、ぼくの家(ふるさとの実家も今のぼくの自宅も)では、電気製品はほとんど東芝製だった。理由は簡単。当時、ぼくの兄が東芝に勤務していたからだ。まあ、兄貴の勤務していた会社を少しでも応援してやろう…という家族愛(?)だったわけだ。

 でも、少なくとも今のぼくの自宅には、もうまったく東芝製品はない。あのチェルノブイリ原発事故(1986年)以降、ぼくが意識的に東芝製品を避けてきたからだ。

 チェルノブイリ事故の時、ぼくはある月刊誌の編集部にいた。なぜか「原発担当」のようになって、さまざまな原発関連記事を作った。広瀬隆さんや故・高木仁三郎さん、藤田佑幸さんなどに教えを請うて、乏しい自分の原発知識に喝を入れた。たくさんの原発関連書も読み漁った。そして、原発とは未完成の技術で、日本でだって過酷事故が起こりかねないことを知った。その前兆のような事故は、美浜原発などですでに多発していたのだ。

 ぼくは「原発安全神話」を信じなくなった。

 取材の過程で、日本の中の「原子力ムラ」の閉鎖性と政官学財報(政治・官僚・学者・財界・報道)のすさまじいほどの癒着構造も思い知らされたが、同時に東芝・日立・三菱などの原発メーカーが持つ巨大な力にも気づくことになった。

 つまり、ぼくが東芝製品を忌避するようになったのは、チェルノブイリ事故がきっかけだったのだ。むろん同時に、日立と三菱の電気製品もほとんど買わなくなった。正直に言えば、これはけっこう不便である(苦笑)。

原発ルネサンスと東芝

 だがチェルノブイリ事故は、日本の原発産業にはほとんど影響を与えなかった。日本の原発メーカーと原子力ムラの住人たちは、チェルノブイリ事故以降「日本の原発は『ソ連製原発』とは比較にならないほど安全です」と、むしろ「ソ連製」をバカにすることによって、自社製原発の優秀さを宣伝してきたのだ。なんでも巧妙に利用する連中だ。
 そして、2000年ごろから、原油価格の高騰によるエネルギー安全保障や地球温暖化防止という問題が起きると、原発ムラの住人たちは、声高に「原発こそがそれらの問題の解決策」として、原発を大々的に奨励。日本の原発メーカー各社は世界中に原発の売り込みを図った。これが「原発ルネサンス」といわれた現象である。
 東芝が、アメリカの原発メーカーのウェスチングハウス(WH)を買収したのは06年のことだった。つまり、原発ルネサンスの波に乗り、東芝の経営の中核に原発事業を据えてしまったのだ。「東芝の悲劇」の始まりだった。

東芝が陥った泥沼

 WHは巨大な原発企業であり、それを傘下に収めれば、東芝は世界でトップの原発企業になることができると踏んだ。WHはそれまでに約100基もの原発を造ってきた実績を持っていたからだ。

 だが、そのことで東芝は、のちの大損失の泥沼に足を踏み入れることになる。WH買収には、競合する相手がいたのだ。それが、以前からWHと協力関係にあった三菱重工業などだった。

 入札が繰り返されることになり、当初は2000億円程度と見られていた買収額が、最終的には約6000億円にまで膨らんでしまった。つまり、本来の価格よりも3倍ものカネを払わされる結果になったのだ。一度足を突っ込んだ泥沼は次第に底なし沼の様相を呈し、東芝は泥の中で身動きが取れなくなる。

 しかも、このWHが今度は原発工事会社を買収して子会社化。ところが、この子会社がさまざまな問題を抱えて原発建設工事にかかわる巨大な訴訟問題に発展、にっちもさっちもいかなくなった。さらに、WHが受注済みの原発建設コストは、福島原発事故以降の安全基準の厳格化により膨れ上がるばかり。それに伴い、東芝の損失もまた膨大なものとなった。

 ある意味で、東芝は米巨大原発産業によって手玉に取られ、騙されたと言っていいのかもしれない。底知れぬ「原発の闇」である。

 だが東芝の惨状を、東芝だけの責任にするわけにもいかない。朝日新聞(3月10日付)の「泥沼の原発ビジネス 中」によれば、WH買収の陰にはある動きがあったという。

(略)争奪戦の陰にいたのが経済産業省だった。「とにかく日本勢に『買え、買え』とうるさかった」(交渉担当幹部)。04年、電力業界に厳しい姿勢だった事務次官の村田成二(72)が退任すると、省内で原発推進派が勢いを得た。資源エネルギー庁は06年8月、原子力政策課長(当時)の柳瀬唯夫(56)らが中心となって「原子力立国計画」を策定。原発の輸出を官民一体で推進することを掲げた。その後、メーカーと電力会社が協力して売り込む「パッケージ型インフラ輸出」として、成長戦略の一つとなる。旗振り役は、貿易経済協力局の海外担当審議官(当時)、今井尚哉(58)だった。(略)

 安倍政権でいまも、今井は首相秘書官、柳瀬も経産省経済産業政策局長という要職を占める。経産相の世耕弘成(54)は昨年11月の記者会見で「事故の経験を生かし、海外に安全な原発を輸出するのが我々の方針。これからも地道に取り組む」と語った。(略)

 この記事から読み取れるのは「成長戦略」の強引な手法の目玉にされたのが「原発」だったということだ。そしてその先頭に立って旗を振ったのが、経産省の原発推進派の面々だった。

 東芝の苦境など尻目に、旗振り役の官僚だった今井尚哉氏や柳瀬唯夫氏が、なんの責めも負わず、いまも政府中枢で同じ旗を振り続けている。そんな人たちを重用しているのが、世耕経産相と安倍首相。なんとも分かりやすい政官一体の構図なのだ。

日立、三菱は東芝の二の舞?

 「東芝の悲劇」の二の舞を演じるかもしれないのが、三菱重工業である。歴史は繰り返す。気鋭のノンフィクション作家・山岡淳一郎さんが「週刊金曜日」3月10日号の「『日の丸原発』会社の危うさ」で、以下のように指摘している。

(略)東芝だけではない。仏原子炉メーカー、アレバと三菱重工(三菱)も市場の崖から転がり落ちている。アレバは、フィンランドで受注した原発の開発が10年以上も遅れて経営が傾き、14年12月に48億ユーロ(約7000億円)の赤字を計上。事実上破綻した。仏政府は国策会社のフランス電力会社(EDF)の参加にアレバを入れて延命を図った。

 ところが、今度はEDF自身が、日本鋳鍛鋼(にほんちゅうたんこう)が製造した原子炉部品に欠陥が生じ、所有原発58基のうち少なくとも18基の稼働停止に追い込まれる。発電量は減り、経営に赤信号が灯っている。

 そんなアレバと組む三菱は、東芝以上のリスクを抱えるといわれる。米サンオノフレ原発で、三菱が納めた蒸気発生器が破損し、放射能水が洩れた。地域住民の反発を受けた電力会社は2基の廃炉を決め、約7000億円の損害賠償を三菱に請求する。両社はパリの国際仲裁裁判所で係争中だ。

 三菱は、安倍晋三首相のトップ商談で交渉権を得たトルコの原発開発でも採算が合わず、動けない。開発は暗礁に乗り上げている。
 ゼネラル・エレクトリック(GE)と提携する日立製作所も英国で買収した電力会社、ホライズン・ニュークリア・パワーの先が見通せない。GEは原発を見切って分散型エネルギー開発に転換しており、日立は「敗戦処理係」のようだ。いまや原発推進産業に明日はない。原発ビジネス自体がグローバルな不良資産に変わったのである。(略)

筆者注:なお、サンオノフレ原発を巡る訴訟では、14日、三菱に1億2500万ドル(約140億円)を支払うよう、国際裁判所が命じた。予想されたよりも低額だったことで、三菱側は「我々の主張が認められてありがたい」とコメントしているが、アレバなど問題山積の状況は変わらない。

 いかに原発そのものが衰退産業であり、なおかつ危険な代物であるか、よく分かると思う。建設費の高騰もあり、いまや原発の電気代が他の発電と比較してまったく安くはないということも、例えば立命館大教授の大島賢一さんらの研究で明らかにされている。
 それでもなお原発にすがるのは、まさに狂気の沙汰というしかない。アベノミクスの失敗のツケを原発で補おうとする安倍政策は、完全に破綻しているではないか。

「東芝の街」に吹く風は…

 ぼくが住んでいるのは東京都府中市である。

 この街の大きな柱になっているのは、東芝だ。東芝町という町名さえある。東芝関連の労働者は1万人を超えるともいわれる。下請け業者、東芝にさまざまな物品を納入する出入り業者、近辺の居酒屋でさえ、東芝の先行きを、息をひそめて見守っているのが現状だ。
 むろん、市当局も眉にしわを寄せながら、東芝社長の記者会見を見つめていただろう。だが、打つ手はない。

 ぼくが大好きなラグビー。その名門強豪チームのひとつが「東芝ブレイブルーパス」だ。リーチ・マイケルや浅原、湯原、知念、そしてぼくのカミさんの大好きな大野均らの選手たちは、どうなるのだろう。

 「サントリー・サンゴリアス」とともに「ラグビーの街」を謳うこの街に、いま、とても厳しい寒風が吹いている。牽強付会と謗られるかもしれないが、これもまたアベノミクスの失敗例だと、ぼくは思うのだ。

 もう原発は瞑らせるべきだと思う。静かに葬るときが来ている。

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